効率&ストレス耐性をアップ! 精神科医が教える心と脳を強化する生活習慣
ボーッとして集中できない、やる気が出ない、精神的なダメージから立ち直れない…。これら全て、神経のネットワークを介してヒトの思考や感情を作る脳内物質のなせるワザ。そして実は、脳内物質は日々の生活習慣によって自力でコントロールすることが可能だ。いますぐ実践して、脳のパフォーマンスUP&メンタル強化のスゴい効果をぜひ体感しよう!
編集・取材・文/オカモトノブコ イラストレーション/イマイヤスフミ
初出『Tarzan』No.884・2024年7月18日発売
教えてくれた人:樺沢紫苑さん
かばさわ・しおん/精神科医。米イリノイ大学精神科に留学後、樺沢心理学研究所を設立。作家、YouTuberとしてメンタル疾患を防ぐ医学情報を発信し、『脳を最適化すれば能力は2倍になる』など著書多数。
本記事で登場するおもな脳内物質の働き
セロトニン:癒やしや平常心をもたらす幸福物質。睡眠と覚醒のコントロール作用も。
ドーパミン:記憶や学習、モチベーションに関係。脳の報酬系に作用し快感をもたらす。
ノルアドレナリン:不安や恐怖などのストレスにより分泌され、注意力・集中力を高める。
アドレナリン:緊張や興奮、怒りなどで分泌され、身体機能を瞬間的に高める勝負物質。
アセチルコリン:思考や記憶、学習などの認知機能を担い、ひらめきや創造力を生み出す。
エンドルフィン:強力な鎮痛作用を持ちつつ多幸感や恍惚感をもたらす究極の癒やし物質。
コルチゾール:ストレス状況下でカラダの機能を調整。過剰になると心身の不調を招く。
メラトニン:セロトニンから作られる睡眠物質。優れた抗酸化作用や疲労回復効果も。
目次
脳内物質の働きでココロと脳を強くする一日の過ごし方。
そもそも、現代人の脳スタミナは“壊滅状態”と指摘する精神科医の樺沢紫苑さん。その大きな要因は、まず睡眠不足にあるという。
「脳の覚醒をコントロールするセロトニンは、睡眠を促す脳内物質・メラトニンの原料にもなるもの。スマホなどデジタル機器の普及で夜更かしする人が増えましたが、睡眠は6時間以下が続くと集中力、判断力などほぼ全ての脳機能が低下します」
セロトニンが不足すると感情も不安定になり、放置するとメンタル疾患をも招くというから見逃せない。
「午前中に多く生成されるセロトニンを活性化するには、起きてすぐの行動が決め手に。脳のスイッチを入れて気持ちいい一日のスタートを」
現代人は深刻なセロトニン不足。やる気も集中力も“朝活”でUP!
ココロと脳のスタミナ強化に不可欠なセロトニン。その生成を活発にする朝の過ごし方を、ぜひ毎日の習慣に。
1.網膜からの光刺激でセロトニンが活性化
「セロトニンの生成は太陽の光を浴びるとスタートし、脳の覚醒をもたらします。けれど真っ暗な部屋で急に起こされても、目覚めが悪いのは当然。カーテンは開けて寝るか、アラームと連動した自動開閉機を利用するのも手です」
それでも朝がツラい場合は、目をしっかり見開く3分程度の“開眼瞑想”がおすすめ。
「一日の予定をイメトレしつつ行えば頭がスッキリしてやる気も同時に湧いてきます」
2.自律神経のスイッチをONにして覚醒を促す。
起き抜けの寝ボケた脳には熱めのシャワーで活を入れ、シャキッと目覚めさせよう。
「体温を強制的に上げて自律神経のスイッチが交感神経に切り替わると、日中の活動で働くアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。それでも頭がボーッとするなら、その後に30秒間の冷水シャワーを。交感神経がより刺激され、覚醒度がアップします」
3.リズミカルな運動で体内時計をリセット。
セロトニンは、快調なリズムに合わせた運動によっても活性化する脳内物質だ。
「イチオシは、1・2、1・2とリズミカルに速歩きする5~10分程度の朝散歩。起床後1時間以内に行えば、朝の光とともに体内時計のズレをリセットする効果もあります。メンタルが不調な人はセロトニンをより活性化させるため、時間を15~20分にすると効果的。悪天候の場合は、室内でのラジオ体操などもOKです」
いますぐエンジン全開!朝の仕事スタート術。
やる気が出ず、ダラダラと時間だけが過ぎてしまう…。こんな仕事の悩みも、脳内物質の働きで一挙に解決!
1.セロトニンを合成する3つの栄養素を同時に摂取。
「セロトニンの原料は、“トリプトファン”という必須アミノ酸。肉や卵、大豆や乳製品などにも含まれますが、バナナはこれに加え、トリプトファンの吸収を助ける“ビタミンB6”、脳のエネルギー源でもある“糖質”も同時に摂れるスーパー食材です」
普段から朝食抜きで低血糖のまま午前のパフォーマンスが上がらないという人も、まず手軽な朝バナナから始めてみよう。
2.咀嚼のリズム運動でセロトニン量が増える。
「よく嚙んで咀嚼することも、セロトニンを活性化するリズム運動のひとつ。けれど寝起きが悪いと、ゆっくり朝食を摂る時間がない場合も多いもの。そんなときは5~30分程度ガムを嚙むことでも、セロトニンが活発に分泌されることが明らかになっています」
集中力の低下やイライラを感じたら、セロトニンを増やして気分転換する方法として取り入れるのもおすすめ。
3.「目標設定」と「達成感」を仕事の原動力に。
モチベーションや行動の動機づけに大きく関わる脳内物質がドーパミン。これを活発に働かせるのが、脳の“報酬系”と呼ばれるシステムだ。
「仕事始めにその日のToDoリストを作り、まず明確な目標を立てるだけでもドーパミンが分泌されます。これを達成するとドーパミンがさらに活性化し、より大きな快感を得られるという仕組みです」
ひと仕事終えるたびにリストをチェックし、目標達成のプロセスを繰り返していこう。
4. “とりあえず始める”がやる気を生み出す秘訣。
脳科学的に見ると“やる気が出るまで待つ”のは残念なアプローチ。脳は実際に作業を始めることで活性化し、脳内物質のアセチルコリンを分泌する。この働きによりだんだん気分が乗って、“やる気”が生み出されるというわけだ。
「ただし難度の高い作業をいきなり始めても、脳のエンジンはすぐに温まってくれません。例えば単純な事務作業など、簡単で、すぐできる仕事からギアを上げていくのが順序としては正解です」
目的やタイミングに合わせて日中の脳内物質をコントロール
ココロと脳の働きを左右する脳内物質。必要なときに分泌をコントロールすれば、強いメンタルが手に入る!
1.タイムプレッシャーで注意力・集中力が高まる。
仕事の効率アップを狙うなら、締め切り時間の設定を欠かさずに。
「緊迫感のある状況に追い込まれると、脳からは注意力・集中力を高めるノルアドレナリンが分泌されて仕事が断然はかどります。自力で締め切りを設ける場合でも、難しめの課題設定と目標達成によってドーパミンが分泌され、さらなるモチベの向上に繫がるはず」
2.脳内物質をチャージして午後のやる気をアップ。
昼食時は外出して日光を浴び、午後のセロトニンをチャージ。公園でお弁当を広げる青空ランチなどもおすすめだ。
「5分でも歩けば脳が活性化し、ドーパミンなどの脳内物質も分泌されます。座り仕事の間もやる気と集中力を維持するなら、1時間に1回は立ち上がって動くよう意識を」
メンタル悩み別おすすめメニュー
脳内物質の分泌には普段の食生活も大きく影響するもの。必要な栄養素をチェックして、メニュー選びの参考に。
ストレス解消なら…激辛カレー
トウガラシの辛味成分・カプサイシンが脳の神経細胞を刺激し、ノルアドレナリンやエンドルフィンを分泌。汗をドッとかいた後、恍惚感に包まれることで手軽なストレス解消法に。
やる気アップなら…タケノコの土佐煮
ドーパミンはタケノコやかつお節などに豊富なアミノ酸・チロシンを原料に、ビタミンB6の働きで作られる。生成量に限りはあるが、栄養バランスの乱れを感じたら意識してみよう。
ひらめき力には…卵+豆腐
脳へスムーズに移行してアセチルコリンの原料となるレシチンは、卵黄と大豆、玄米などにも多く含まれる。こちらも生成される量に上限はあるけれど、偏食気味の人は不足に注意。
3.不安や緊張は深呼吸でコントロールできる。
心身を“臨戦態勢”にして集中させるアドレナリンが過剰に働くと、心臓はバクバク、頭もボーッとして逆効果に。
「アドレナリンを抑えるのに効果的なのがハーバード大学・ソルボンヌ大学の根来秀行教授が提唱する4・4・8呼吸。鼻呼吸で軽く息を吐き切ったら、4秒で吸い、4秒息を止めて8秒かけて吐き切り、これを4回繰り返します」
夜寝る前の過ごし方で最強の脳スタミナに
睡眠はココロと脳のパフォーマンスUPに直結するもの。その質を左右する夜の生活を、いま一度見直してみよう。
1.運動がメンタルを強化して疲れた脳をリセット。
「ストレスに弱い人は運動不足の可能性大。筋トレやジョギングなど中強度の運動を30分も行えばストレスホルモンのコルチゾール値が正常になり、セロトニンやドーパミンなどの幸福物質も活性化。夕方から夜の早い時間帯なら低下した集中力や作業効率もリセットできます。ただし寝る2時間前以降や過度な運動は避けましょう」
2.安らぎの時間に記憶力・アイデア力は高められる。
夜のリラックス時間は睡眠物質・メラトニンの分泌を促すほか、脳のポテンシャルを高める効果も期待できる。
「お風呂などでボーッとすると、アセチルコリンが活性化。深い瞑想状態と同じ脳波のシータ波が出て、記憶力やアイデアを生む力が高まります。癒やし物質のエンドルフィンも、リラックス時にアルファ波が出ると分泌されるもの。好きな音楽やアロマなどを取り入れるのもいいでしょう」
3.寝る前の使用は5分にとどめて電源をオフ。
「スマホやPCのブルーライトは、眠気を誘うメラトニンの分泌を抑制します。そもそもスマホは脳の報酬系を刺激し、快感を求めるドーパミンをどんどん出すもの。興奮物質のアドレナリンも、交感神経を優位にして睡眠を妨げます。寝る2時間前にやめるのが理想ですが、必要なものを5分ほどチェックした後で30分前にはオフに」
4.わずかな光でも睡眠中のメラトニン分泌を妨げる。
メラトニンの生成は起きて約15時間後から活発になり、深夜2~3時ごろピークに。
「質の高い睡眠には、メラトニンの働きが不可欠。メラトニンは光を嫌い、わずかでも寝ている間に網膜へ光が入ると分泌が抑制されるため、豆電球も消して、スマホは暗い寝室に持ち込まないことです。
メラトニンは強い抗酸化作用、血管や細胞、DNAの修復効果なども持つ“究極の回復物質”。寝ている間にしっかり分泌させ、リフレッシュした心身で朝を迎えましょう」