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カラダ同様、たるんでいたら困るのが「心」。その対策に、禅の考え方を応用、リセットさせる方法があるという。しかも簡単。あれ? たるんでる?と思ったら、すぐに優しく喝を入れよう。今回は、臨済宗建仁寺派両足院副住職、伊藤東凌さんに心の悩みへのアドバイスや実践的な対処法を教えてもらった。
いとう・とうりょう/臨済宗建仁寺派両足院副住職。建仁寺派専門道場で修行後、15年間両足院での坐禅指導を担当。アメリカMETA(旧Facebook)本社での禅セミナーの開催やヨーロッパでの禅指導など国際的な活動も積極的に行う。
目次
カラダのたるみも気になるけれど、より厄介なのが目に見えない心のたるみ。たとえば頑張りたいのについだらだら怠けちゃう、複雑な人間関係に何かとモヤモヤ、最近モチベ上がんない……。
下のようなチェック項目にひとつでも当てはまったら心がたるんでいる証拠。でもそんなあなたも心配ご無用、禅宗の教えからリセットのヒントをいただくという手がある。
念仏よりも坐禅を重視して悟りを目指す禅宗は、かのスティーブ・ジョブズも傾倒したシンプルにして奥深い宗派。自分を見つめ直す装置としてこれほど最適なものはない。
水先案内人は臨済宗建仁寺派両足院副住職の伊藤東凌さん。まずは、たるんだ心を持て余した人々の問いに答えていただくことから始めよう。
モヤモヤって文字通り擬音語でモヤモヤしていて摑めていない状態なんです。摑めていないから物事が解決の方へ向かっていかない。なぜそうなるかというと、自分にとっての課題が明確化されていないから。
たとえば、ある人に会うといつもモヤモヤするとしましょう。もしかしたらそれは自分の捉え方の問題かもしれないし、相手が自分の弱点を突いてくるからかもしれません。それを明確化すればやるべきことが見えてきて思考がクリアになります。
問題は考えるのが嫌だからと放置すること。やるべき課題がこれで、解決は難しいけれど今は前に進んでいるというとき、人はモヤモヤしません。チャレンジしていると思うことができるからです。
心や感情が現象であるように、カラダも常に細胞の死滅と再生を繰り返しながら入れ替わっています。つまり、「個体としての本当の私」というのは成り立たないんです。
そう考えると、性格と呼んでいるものも刻々と変化している。10分前の自分と今の自分では性格は変わっているはずです。
私は子どもの頃からこういう性格だから今後も変わらない、というのは大変な思い込みです。親や先生からの刷り込みによってそのプログラムに戻るよう自分で矯正をかけて、毎日アップデートの通知が来ているのに無視しているだけ。
心配の種を取り除く課題設定や感情のリセットなど、ゆっくりでいいのでリプログラミングに取り組んでみましょう。
気力が漲っているときや低下しているとき。誰しも波はあります。その変化にいち早く気づいて切り替えられる人は強いです。
たとえば、今日は肩が下がっている、首の位置が曲がってると気づける人は修正するのも早い。
カラダと心はほとんど一緒で、カラダの変化がちょっとした不満や斜めから物事を見ている心の状態に繫がっているかもしれません。そこを修正できる人はマインド的なたるみも取り除ける。
そのためにはまず、朝や晩に行うルーティンを作ること。朝起きて決まったことを同じ時間に同じようにすると日々の違いに気づけるようになります。気づいたらそのつどフラットな状態に修正すれば気力低下の重症化を防げます。
グサッと来る一言など何か心に引っかかるものがあったら課題を明確にする。あとの感情のモヤモヤ感はぱっとリセットしてください。
人間は心が大事だと言いますけれど、仏教的には“私”というものがないので心や感情はどうでもいいんです。感情を持つなという意味ではなく、川の流れや天候のような現象として捉えています。
晴れとか曇りとか、毎日天気は変わりますよね。機嫌とかムードと呼ばれているものは完全にそうした現象です。
湧いた感情に囚われるのではなく、その感情が邪魔だと思ったら、いい感情が湧くように少しずつプログラミングを変えていく。自分はこんな刺激が入ったらこうなるから、と分析したうえで、自分の受け入れモードを変えてみる、というようにです。
もしかするときちんと計画を立てた睡眠を取っていないのではないでしょうか。
夕方に仕事や用事を終えて家に帰ってきて、やっと一人の時間を獲得できた気がする。そこで配信動画やインスタグラムなどを見て心が充たされたような錯覚と眠気がブレンドされて寝落ちする。
これは全然計画されていない行き当たりばったりの眠り方です。朝スッキリ目覚められるはずがありません。
あらかじめ何時に寝ると決めて、計画通りに眠れる方向で一日を過ごしてみると充実感がまったく違ってきます。睡眠が犠牲にされないライフスタイルは圧倒的に幸せです。これでモヤモヤすることはまずなくなるはずです。
やる気ない、モヤモヤ、その心のたるみをまずリセット。仏教の世界では身体を整えることで心を整える「心身一如」という考え方がある。
「たとえば、毎日壁に背中をつけて姿勢を整えれば、日々の変化にも気づけるしマインドの調子もよくなります。または、職場のスペースに入るときに足踏みをする。気持ちよくステップが踏めるときは心構えができているということです」
眠る前には“美しかったこと”“人に優しくされたこと”などを思い返す回想法を。ぜひ習慣に。
壁に背をつけてまっすぐに立つ。頭が壁から遠く離れていたら背中が丸まっている証拠。3秒かけてゆっくり背中を伸ばし、最後に後頭部を壁にしっかりくっつける。座ったまま行ってもOKだ。毎朝の習慣に。
部屋に入る前、部屋を出るときに一度立ち止まって両足を揃える。左右どちらからでもいいので片足でトンと足踏みしたら反対側の足でトンと足踏み。足を揃えて足踏みする行為で感情を断ち切ることができる。
寝る前に今日一日を振り返る。短時間だとネガティブな事柄ばかり頭に浮かぶので3分かけてじっくりと。美しかったもの、優しくされて嬉しかったことなどを思い返す。習慣づけていくと日中、美しいものを探し始めるように。
振り返り瞑想の際、寝る直前から逆回しに回想するのがおすすめ。朝から順番に思い返そうとすると記憶が飛びがちだが、逆回しでは案外数珠つなぎに細かいことを思い出せるもの。
心のリセット習慣がついたら次の課題は心のたるみ予防メソッド。
「まず、朝一番に行う自分のルーティンを設けます。ルーティンを達成することで成功体験を得る。その後は今日行う3つのことを選択します。何を着て、何を食べて、どうやって寝るか。この3つを選べる幸せを最大限楽しんでください」
一日の暮らしぶりを「自分で選ぶ」という自覚を持つことが重要。これらを他人や状況に選ばされている毎日では、モヤモヤループの悪循環にハマってしまいがちだからだ。
「いつも服や食べ物、睡眠に関してAかBか?という選択をすることが、それ以外の自分の課題に対する取り組み方の訓練になります」
では、準備が整った人から、ポスト・心のたるみの世界へ。
朝のルーティン例
朝のルーティンはひとつでもいい。毎日1杯の白湯を飲むだけでも、その日によって飲んだときの印象が違うはず。変化のチェックにもなるし、毎日同じ時間に同じタスクを達成することで、その人にとっての成功体験になる。
朝のルーティンをこなした後、朝・昼・晩に食べる食事、装う服、今晩はどうやって寝るかを選択する。寝る選択は何時に寝るかだけでもいいし、ストレッチや入浴、音楽を聴いた後に寝るなど具体的な条件を設定してもよし。
取材・文/石飛カノ 撮影/竹田俊吾 イラストレーション/サンダースタジオ
初出『Tarzan』No.885・2024年8月1日発売