昔運動していた人は要注意。たるみが起きる原因

太ったわけでもないのに何となく体型が緩んできた、実年齢より老けて見られる…。そんな悩みがあるなら、きっと“たるみ&むくみ”のせいだ。対策を講じるためには、まずはその原因を知るべし。今回は、たるみが起こる原因を解説しよう。

取材・文/井上健二 イラストレーション/小林ラン 監修/中野ジェームズ修一(スポーツモチベーション)

初出『Tarzan』No.885・2024年8月1日発売

たるみ 原因
たるみに関わる4つの要素
  • 脂肪
  • 筋肉
  • 皮膚

筋肉が皮下脂肪に置き換わる(泣)

カラダのシルエットを決めるのは突き詰めると筋肉(骨格筋)と体脂肪。たるみも筋肉と体脂肪のアンバランスから生じるケースが大半だ。

きっかけはやはり運動不足。

よく知られているように、30歳以降では運動不足だと年1%ほどの割合で筋肉が減っていく。筋肉を構成する筋線維一本一本が細くなり、筋肉全体が痩せてくるのだ。

筋肉は、じっとしているときでも体温を保つために熱を作る。これは基礎代謝の約20%を占めるから、筋肉が減ると基礎代謝も下がり、食べ過ぎていなくても太ってくる。すると代わりに増えるのが、体脂肪。

「体脂肪のなかでも、たるみと深く関わっているのは、皮膚のすぐ下に広がる皮下脂肪。皮下脂肪と骨格筋は隣接していますから、筋線維が細くなり筋肉がサイズダウンして隙間ができると、そこへ増えた皮下脂肪が入り込み、たるみが生じる余地があるのです」(フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さん)

皮肉にも昔運動部で鍛えていたり、筋トレしていたりした人が、トレーニングをやめて太ると、筋線維が急に痩せ細り、皮下脂肪が付け入る隙が生じてたるみやすい。

たるみ 原因

上から35歳、55歳、85歳の太腿の断面図(エックス線写真をイラスト化したもの)。筋肉(赤い部分)と骨(白い部分)が痩せ細るにつれ、皮下脂肪(黄色い部分)が増える様子がわかる。

資料提供/中野ジェームズ修一

動かさないからたるむんだ!

顎下、上腕後ろ側、お腹…。たるみ多発地帯には共通した特徴がある。動かさないところなのだ。

たるみの主犯は皮下脂肪。皮下脂肪は筋肉に乗るので、皮下脂肪が付きすぎると筋肉は身動きが取りにくい。ゆえによく使う筋肉ではなく、あまり使わない筋肉に皮下脂肪は乗りやすい。

結果、使わない筋肉は余計動きにくくなり、皮下脂肪がもっと溜まるという悪循環に陥る。

「陸上選手でも、脚を後ろに蹴り上げる動きが得意な選手はその動作で使われるお尻の大臀筋や太腿後ろ側のハムストリングスが発達しており、皮下脂肪は少なめ。一方、蹴り上げ動作が不得手な選手は、大臀筋もハムも発達しておらず、皮下脂肪が多めという傾向があります」

ちなみに、よく使うところに皮下脂肪が少なめなら、部分痩せも可能なのだろうか。筋肉を動かすとその部分の血流が良くなり、筋肉から脂肪代謝を促す“IL6”という物質が分泌されるという話もあるけれど。

「仮にそうだとしても、部分痩せを実感できるほどピンポイントで痩せるのは難しい。ただ、よく動かして筋肉を使えば、その部分のたるみを解消することは十分できるのです」

皮膚と骨も、カラダのたるみに関係しているよ

筋肉と脂肪以外に、たるみに関わっている要素があと2つある。

それは皮膚と骨。

皮膚には、平行方向に引っ張り合う仕組みがある。これが「張力」。

いわゆる「肌の張り」だ。この張力を左右するのは、皮膚の奥にある真皮で合成されるコラーゲンとエラスチンのバランス。なかでも真皮のコラーゲンの大半を占めるⅠ型コラーゲン線維は線維が太く強く、皮膚の張力と強度を高めている。

「加齢や紫外線ダメージなどで皮膚が衰え、必要なコラーゲンやエラスチンが作られなくなると張力と強度がダウン。皮下脂肪の重みを支えられなくなり、たるんできます」

さらに運動不足だと、筋肉だけではなく骨も減ってくる。

骨の新陳代謝は、運動の刺激で活性化されるもの。運動による骨への刺激が減少すると、骨の分解が合成を上回るようになり、骨はじわじわと細くなる。

「筋肉も骨も痩せ細るとそのスペースに皮下脂肪が蓄積し、たるみに拍車がかかる。骨の合成を高めるには重力負荷が不可欠。平日は坐りっ放し、休日はゴロ寝の生活だと骨は細くなりやすいので要注意です」

セルライトの真実

たるんだ皮膚にオレンジの表皮のような凸凹が生じることがある。セルライトだ。

発端は、皮下の脂肪細胞が肥大化し、硬くなる「線維化」が起こること。線維化した脂肪細胞が皮膚のコラーゲンをところどころ引っ張るため、皮膚表面に不規則な凹凸ができる。

運動不足、加齢、ホルモンバランスの乱れ、リンパの滞留などがセルライト発生の誘因として挙げられるが、なぜ生まれるかはまだよくわかっていない。

「鍛えたアスリートでもセルライトがある人もいる。オイルマッサージ中にセルライトを発見した選手に聞くと、ほぼ全員が“子供の頃、肥満児でした”と答えます。脂肪細胞が成熟する成長期の生活習慣も、セルライトに影響するのかもしれません」

セルライトは病気ではないので、放置しても実害はない。見た目が気になるなら、美容クリニックに相談。

セルライトと似て非なるものに、脂肪腫と血管脂肪腫がある。脂肪腫は皮下にできる良性の腫瘍。血管を伴うのが血管脂肪腫だ。多発したり、大きくなったりしたら、形成外科で手術が必要になる場合もアリ。