SPF値で日焼け止めを選ぶのは肌への負担大!? 見た目が衰える悪いクセ
歳を重ねるとどうしても億劫になりがちなのが、肌や髪の毛のケア。しかし、ズボラに悪癖が加わると見た目年齢は一気にアップ。クセのせいで老けて見えないよう、間違いだらけの習慣をチェックだ。
取材・文/井上健二 イラストレーション/黒木仁史 取材協力・監修/吉木伸子(よしき銀座クリニック院長)、日比野佐和子(Y’sサイエンスクリニック広尾/SAWAKO CLINIC×YS統括院長)、林田康隆(医療法人康梓会理事長)
初出『Tarzan』No.881・2024年6月6日発売
教えてくれた人
吉木伸子さん
よしき・のぶこ/皮膚科医。よしき銀座クリニック院長。専門は美容皮膚科、一般皮膚科。内臓の状態やホルモンバランス、ストレスなどにも着目し、東洋医学も取り入れながら一人ひとりに合ったスキンケア、ヘアケアを指導。
日比野佐和子さん
ひびの・さわこ/皮膚科医、医学博士。医療法人康梓会Y’sサイエンスクリニック広尾/SAWAKO CLINIC× YS統括院長、大阪大学医学系研究 科特任准教授。皮膚科医に留まらず、内科医、眼科医、アンチエイジングドクターとしても活動。
林田康隆さん
はやしだ・やすたか/眼科医、医学博士。医療法人康梓会理事長、日本眼科学会専門医、大阪大学医学系研究科特任准教授。日本・米国で眼表面の幹細胞研究に携わった再生医療のスペシャリスト。眼科医としてメディアでも活躍している。
目次
安い化粧水をたっぷり使う
セラミド入り保湿美容液を肌に優しく馴染ませる
肌から潤いがなくなるとシワが生じやすく、肌に深い年輪を刻む。
「肌に潤いを与えるのは、角質にあるセラミドという物質。水分と結合し、潤いを守っています。
化粧水で水分を補っても、セラミドが足りないと数時間後に水分は蒸発する。セラミドが充足していたら、エアコンで乾燥した室内でも肌の潤いは保てます」(皮膚科医の吉木伸子さん)
保湿成分としては、他にヒアルロン酸などもあるが、やはりセラミドに敵うものはない。
化粧水だけに頼らず、セラミド配合の保湿美容液も使おう。やや高価だが、きちんとした保湿美容液を買えば、それ一本で他にほとんど何もいらないから逆にコスパはいい。
保湿美容液はつけ方にも注意。
「気合を入れるようにパンパンと顔を叩きながらつけると炎症を起こし、長期間続けると炎症性色素沈着で肌にくすみや黒ずみを招く恐れがある。手のひら全体で肌を優しく押さえるようにつけてください」
洗顔は毎朝1回水で行う
洗顔は朝晩2回ぬるま湯で。スクラブ洗顔はやりすぎない
「洗顔は朝晩2回が基本。皮脂が残りすぎず、落ちすぎないように、自分に合う洗顔料を使いましょう。肌が皮脂でギトギトせず、乾燥して粉を吹かない状態に整えるのです」
肌がベタつかず粉も吹かないなら、フェイス用ではなくボディ用ソープでも構わないが、いずれにせよ、水ではなくて、ぬるま湯で洗うべき。
「汚れた食器を洗うとき、水よりぬるま湯の方がキレイに油分が落ちる。同様に余分な皮脂はぬるま湯の方が溶けて落ちやすくなるのです」
爽快感からスクラブ洗顔を好む人もいるようだが、やりすぎは肌によろしくない。スクラブとは、毛穴の汚れなどを落とすために配合された細かい粒子。
その粒子でゴシゴシ擦ると強い摩擦が起こり、肌が炎症性色素沈着などのトラブルに見舞われることもある。スクラブ好きでも頻度は月1回までに留めよう。
乾燥肌だから仕上げにオイルを使う
オイル系美容液の保湿パワーに過大に期待しないこと
乾燥肌タイプには、スキンケアの仕上げにオイル系美容液を使う人もいる。オイルには肌を柔らかくする作用(エモリエント効果)はあるが、オイルで油膜を作り、肌の水分蒸発を防ごうという試みは成功しない。
「オイルで蓋をして保湿しようというのは古い考え方。皮脂があれば水分蒸発は防げます。保湿成分としてはやはりセラミドが最強です」
事実、肌が油っぽいのに乾燥しているドライオイリーもいる。
毎晩12時を過ぎてから寝床に入る
体内時計の本来の自然な周期に従い、夜12時前に就寝する
夜更かしを控えて睡眠をたっぷり取るのがアンチエイジングの鉄則。
「体内時計が刻むリズムに沿い、睡眠中に肌の回復力は高まる。若々しい肌を守るゴールデンタイムは夜10時から午前2時。
就寝約2時間後にゴールデンタイムを迎えるように習慣づけると、ホルモンの作用で肌のターンオーバー(新陳代謝)が促されてアンチエイジングに有効です」
夜何時に寝ても2時間後にゴールデンタイムを迎えるという主張もあるが、夜行性ではないヒト本来の周期を踏まえると夜更かしは禁物だ。
日焼け後にキュウリでパックする
キュウリパックは危険。日焼けしたら回復を促す保湿ケアを
紫外線(UV)は老け肌の元凶。UVケアを怠るのは問題外だが、うっかり日焼けして火照った肌を冷まそうと、慌ててキュウリで顔をパックしたりするのは火に油を注ぐようなもの。
日焼け後のキュウリパックは古い民間療法。効果ゼロのうえに、最悪の場合はアレルギー反応を起こすこともある。
消化器や呼吸器などと異なり、皮膚は外敵の侵入を想定していないので、たとえ微量でも肌から入った異物には免疫が過剰に働いてアレルギーを誘発しやすい。
「人為的に合成された物質よりも、キュウリのような天然由来の有機物の方が構造はより複雑でアレルギー反応が生じやすい傾向があります。
石鹼でアレルギーが起こった過去の事例でも、含まれていた小麦由来成分の分解が不十分で、作りが複雑なものが皮膚から入り、アレルギー反応が強く出たと考えられます」
日焼けしたら、冷水や濡れタオルで冷やして炎症を抑え、肌の回復を促すためにじっくり保湿ケアしよう。
シャンプー時に上を向かない
シャンプー時は顔を上げて、頭皮を洗うときは下から上へ、表情筋を上向きに引っ張ってやる
加齢とともに、顔の皮膚や筋肉は重力に負けて垂れ下がりやすく、年齢を感じさせる一因に。それを加速させる悪いクセが、髪を洗うとき顔を下に向けてシャンプーすること。
「顔と頭の皮膚はつながっており、顔を下へ向けると顔の皮膚も垂れ下がる。頭皮を洗うとき、表情筋の筋膜に対して指を上から下へ動かすと、さらに顔の皮膚が下垂します」(皮膚科医の日比野佐和子さん)
コーヒーにコーヒーフレッシュを入れる
トランス脂肪酸フリーを選ぶか牛乳・生クリームを入れる
「皮膚は内臓の映し鏡」という言葉もあるように、腸内環境は肌に直結する。腸内環境が悪いと肌の調子も悪くなり、腸内環境が良くなると肌の調子も良くなるのだ。ヒトの臨床試験で、腸内環境が良好だと、紫外線による肌への悪影響も最小限に抑えられるとわかっている。
腸内環境を整えるには、腸内細菌のエサとなる食物繊維を野菜や未精製穀物などから摂ることが肝心だが、加えて意識したいのは腸内環境を悪くする栄養素をカットすること。
「腸内環境を荒らす悪玉の代表格が、人為的に合成されたトランス脂肪酸。体内で炎症を起こし、腸内環境を大いに乱します」(日比野さん)
トランス脂肪酸入りの身近な食品がコーヒーフレッシュ。乳製品のようだが、実態は植物性脂質を乳化させたものでトランス脂肪酸を含むものがある。使用はできるだけ控えて。
サウナで発汗して毛穴を掃除する
発汗は毛穴掃除にならず。サウナ後はスキンケアがマスト
サウナで発汗すると毛穴の詰まりまで取れると思うのは勘違い。
「毛穴の中には肌に皮脂を供給する皮脂腺がありますが、汗を出すのは汗腺。“穴”が違うので、毛穴の詰まりは解消されません」(吉木さん)
サウナ後は熱で毛穴から皮脂が溶け出すので、発汗しながら洗浄すればすっきり洗い流されやすくなる。
「皮脂がなくなると肌トラブルを招きやすくなる。サウナ後はいつもより念入りに肌ケアしてください」
日頃から不平不満が多い
口角を上げた笑顔を忘れず、へのへのもへじ顔とサヨナラ
皮膚の下垂による見かけの衰えを防ぐには、どんな表情をするかも案外大切。重要なのは、口角を軽く上げた笑顔を心がけること。それで顔の皮膚の垂れ下がりが避けられる。
世の中には理不尽なことも多いが、不平不満ばかり言っていると、口角が下がり、加齢による皮膚の下垂に拍車がかかると覚悟しよう。
「へのへのもへじのような困り顔だと口元も目元も“へ”の字に下がり、皮膚が垂れる。笑顔を忘れず何事も前向きに捉え、不平不満は趣味や運動で解消して」(日比野さん)
白髪が気になるから抜く
白髪は抜かず、美容師に相談して染めるか、白髪を生かしたグレイヘアを提案してもらう
髪の毛を黒くするのは、メラノサイトが作るメラニンという色素。肌のシミの元と同じものだ。白髪は、毛髪を作る毛母細胞は元気なのに、メラノサイトが老化してメラニンを満足に作れなくなって生じる。
「白髪を抜いても、毛根が残っているなら、また白髪として生えてくる。髪の毛を抜くと頭皮は傷つきますから、皮膚科医の立場からは決して推奨できません」(吉木さん)
ヒゲ剃り後に何もケアをしない
我流に走らず基本を守り、ヒリヒリしないシェービングを
肌への度重なる物理的な刺激は、肌のエイジングを着実に進める。そこで留意したいのがシェービング。 まずは洗顔を済ませ、ホットタオルなどで温めてヒゲを柔らかくして、シェービングフォームをつける。
ヒゲの流れに逆らわず剃った後は、抗炎症&殺菌作用を持つアフターシェービングローションをつけるのが鉄則。ヒリヒリするのは剃刀負けで炎症を起こした証拠。肌負担の少ないソフトなシェービングを。
フケが気になるから毎日しっかり髪を洗う
乾いたフケが気になるなら洗髪は1日おきに。シャンプーしない日は湯シャンで清潔に保つ
フケがあると清潔感が台無し。洗髪しても乾いたフケがパラパラ落ちるようなら、洗いすぎを疑おう。
ことに乾燥肌タイプは頭皮も乾燥気味。ゴシゴシ洗うと乾燥が進み、頭皮のターンオーバーを過剰に促し、フケが増えることもある。それがイヤで熱心に洗髪すると余計フケが増えるという悪循環に陥ってしまう。
「そういう人は洗髪を1日おきにして様子を見ましょう。洗わないと気が済まないなら、お湯のみで頭皮を軽く洗う湯シャンで」(吉木さん)
日焼け止めはSPF値で選ぶ
室内でも対策を。SPF30以上でPA++かつ吸収剤フリーの日焼け止めを選ぶ
紫外線のうち、波長が短いUVB(B波)はシミ・乾燥の原因で、波長が長いUVA(A波)は皮膚深くまで浸透してシワ・たるみを起こす。
日焼け止めのスペックでよく見聞きするSPFはB波、PAはA波に対する防御力を示している。日常使いには、SPF30以上かつPA++で十分。数時間おきに3〜4回塗り直すと、ブロック効果が持続する。
「日焼け止めの有効成分には、紫外線を跳ね返す散乱剤と、紫外線を吸収する吸収剤があります。このうち吸収剤は肌への負担が大きい。
SPF30以上だと、散乱剤に加えて吸収剤が配合されていることがあります。敏感肌で気になる人は、吸収剤フリーの日焼け止めを選ぶようにしてください」(日比野さん)
紫外線による肌老化を徹底的に避けるには、外出時だけでなく、終日室内に留まる日も日焼け止めを塗る。UVAはガラスを通過するため、窓際では外から紫外線が届くからだ。
乾いた目をゴシゴシ擦る
優しい瞬きを10回繰り返してドライアイを避ける。15〜20分に一度は遠くを見て目を休める
スマホやパソコンを凝視すると瞬きが減る。通常は1分間に15〜20回も瞬きするが、10秒以上も瞬きしないことも。瞬きが減ると目の乾燥を招き、目の表面が荒れて炎症が生じ、涙の質が落ちてドライアイになる。
「ドライアイで不快感を覚えると目を擦りがち。目の周りの皮膚と筋肉は薄く繊細で影響を受けやすいため、目周辺のシワやシミ、まぶたの下垂が起こりやすくなります。
さらに近視だと眼球が前後方向に伸びているため眼球が構造的に弱く、目を頻繁に擦りすぎると網膜剝離を起こして、失明に至る恐れもあります」(眼科医の林田康隆さん)
ドライアイを疑ったら、瞼を優しく閉じてゆっくり開ける動作を10回前後繰り返し、涙の分泌を促す。
瞼を強く開閉しすぎると、目尻のシワの誘因になるから要注意。デスクワーク中は15〜20分に一度3m以上離れたところを20秒ほど見て目を休め、仕事の効率を落とさず疲れ目対策を。
ファッショングラスをかける
UVカットができればクリアなサングラスがむしろ便利
紫外線は目の天敵でもある。紫外線の大半はレンズの役割を果たす眼球表面の角膜とその中の水晶体で吸収される。水晶体が紫外線を浴び続けると酸化が進み、やがて水晶体が濁る白内障に陥る。白内障の主因は加齢だが、約20%は紫外線による。
目を紫外線から守る必須アイテムはUVカット機能を持つサングラス。とくに紫外線が強くなる夏場にビーチなどに出かける際は必携だ。
「ただ色付きで一見サングラスのように見えたとしても、UVカット機能が低いファッショングラスはNG。色付きだと視界が暗いので瞳孔が大きく開き、水晶体に危険な紫外線が入りやすい。
UVをロクにカットしないタイプだと、むしろ目のダメージが増えるのです」(林田さん)
サングラスも、必ずしも色付きである必要はなく、UVをカットできればクリアレンズで十分。
フェイスマッサージを欠かさない
肌が老けるから、手や美顔ローラーで肌を刺激しすぎない
たるみ予防、血行改善を狙い、フェイスマッサージに励む人もいる。
「手で肌を強く引っ張ったり、押したりすると物理的なインパクトでくすみや黒ズミが起こりやすい。シワの誘因にもなります」(吉木さん)
美顔ローラーは肌に押し当てすぎず、下垂を避けるため下から上へ転がす。鼻や頰などを無自覚で触るクセがある人も、触りすぎは肌ストレスになると知って避けよう。