プロテインも要注意? 大人も気をつけたい、食物アレルギーの原因と特徴
アレルギーを引き起こす物質は数知れず。発症するのはいやだが、ただ恐れるのもバカらしい。食物から金属、そして不耐症まで。その特徴は? 注意すべき点は? 今回は、食物アレルギーの原因について深堀り。食物アレルギーは基本的には幼い子供で起こるものと思いがちだが、実は大人も注意したい。まず敵を知ることから始めよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/Hi there 監修/伊藤浩明(あいち小児保健医療総合センター センター長) 参考文献/『食物アレルギー診療ガイドライン2021』(一般社団法人日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会)
初出『Tarzan』No.875・2024年3月7日発売
教えてくれた人:
伊藤浩明さん
いとう・こうめい/あいち小児保健医療総合センター センター長。米国留学、国立名古屋病院小児科などを経て現職。日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会副委員長として『食物アレルギー診療ガイドライン2021』を監修。医学博士。
頻度の高いアレルゲンは?
アレルギーの引き金となるのがアレルゲン。いわば“アレルギーのもと”だ。
それにはどのようなものがあるのか。食べてから2時間以内に即時型アレルギーを起こしやすい食べ物をメインとして、頻度の高いランキング順にチェックしてみよう。
食後60分以内に症状を起こして医療機関を受診した6,080人を対象とした調査。2017年と比べて木の実類が原因食物として増えた。
食物アレルギーは基本的には幼い子供で起こるもの。その後、症状が出ない範囲内で少量ずつ食べているうちに、アレルギー反応のスイッチを入れるIgE抗体が体内にあっても、症状が出ない耐性化が起こる。
ただし、食物アレルギー=子供の病気と侮るなかれ。複数のアレルゲンでアレルギーが起きる「交差反応」が生じることもある。大人でも要注意だ。
アレルギー表示の対象
箱やポリ袋、缶や瓶などの容器に包装された加工食品には、アレルギー物質がある一定量以上含まれている場合、法律により表示義務がある。表示が義務化されているものが8品目、表示が推奨されているものが20品目ある。
表示の義務がある8品目(特定原材料)
えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)
表示が勧められている20品目(特定原材料に準ずるもの)
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
鶏卵
鶏肉は食べても平気だが、風邪薬が落とし穴になることも
もっとも食物アレルギーの引き金になりやすいのは、鶏卵。全体の3分の1以上を占める。ことに乳幼児で頻発し、アトピー性皮膚炎に引き続いて発症しやすい。
乳幼児に鶏卵アレルギーがあっても3歳までに約30%、6歳までに約66%が耐性を獲得し、鶏卵を食べても症状が出なくなる。鶏卵をまったく食べないよりも、加熱した鶏卵を月5回以上食べたグループでは、まったく食べなかったグループよりも3倍以上の比率で耐性化が進んだという研究結果もある。
鶏卵のアレルゲンとなるのは、オボムコイド、オボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチームなど。“オボ”とは鶏卵のことだ。
アレルゲンの作りが似ていることから、鶏卵アレルギーがあるとウズラ卵やアヒル卵(ピータン)でも60%以上の割合でIgE抗体ができて、アレルギー反応のスタンバイ状態になるという報告がある。
また市販の風邪薬(総合感冒薬)には、鶏卵に由来する成分(塩化リゾチーム製剤)が抗炎症剤として入っていることがあり、鶏卵アレルギー患者が服用するとアレルギー反応が出ることも考えられる。薬剤師に相談しよう。
鶏卵を産む親鶏の肉(鶏肉)、同じ卵でも魚卵には、鶏卵アレルギー患者でもアレルギー反応は通常起こらないため、普通に食べてOK。
牛乳
問題はホエイよりカゼイン。プロテインにも注意する
牛乳のタンパク質(ミルクタンパク)は、ホエイとカゼインに分けられる。どちらもアレルゲンになり得るが、ことにカゼインはIgE抗体を誘導するアレルゲン性が高い。
カゼインは、ミルクタンパクの80%ほどを占める。加熱で変形しにくいうえに、体内のIgE抗体が認識して結合するエピトープ(抗原決定基)を多数持っていることから、アレルギー反応を起こしやすいのだ。
ホエイでは、β-ラクトグロブリンが主要なアレルゲンとなる。ただ、こちらは加熱で変形しやすく、アレルゲン性が低下しやすい。日本では乳児期に牛乳アレルギーがあっても、3歳時にはおよそ60%が耐性を獲得するとされる。
ヤギ乳や羊乳にも牛乳のアレルゲンと似たタンパク質があり、交差反応でアレルギーが出ることもある。反面、加熱調理した牛肉でアレルギーが起こることはほとんどない。
トレーニーの味方であるプロテインでも、ホエイやカゼインを原料としているタイプだと、通常より多くのアレルゲンが一度にドッと入ってくる。このため、普段の食事では症状が出にくい軽症でも、牛乳アレルギーが誘発されるリスクがあるから気をつけたい。耐性を得ていた子供が、ミルクタンパクを含むプロテイン飲料で激しい症状が出るアナフィラキシーに見舞われた事例もある。
木の実類・ピーナッツ
注目を集める原因食物の筆頭格。仲間の木の実はセットで避けよう
食物アレルギーの原因物質のトップ3は、長らく鶏卵、牛乳、小麦だった。その小麦を抜き去り、ランキング4位から3位へ躍り出たのが、木の実類。ことにクルミやカシューナッツのアレルギーが目立ち、なかでもカシューナッツはアナフィラキシーを起こしやすい。健康食として食べる機会が増えたことが、急増の背景にあるもよう。鶏卵や牛乳と比べて耐性獲得率は低いので少々心配。
市販のミックスナッツにはまとめてパッケージされているが、クルミはクルミ科、カシューナッツはウルシ科、アーモンドはバラ科、ヘーゼルナッツはカバノキ科であり、植物学上では異なる品種。どれか一つにアレルギーがあっても、木の実全般を避ける必要はない。
でも、クルミとペカンナッツ、カシューナッツとピスタチオは同じ仲間でアレルゲンが似るから、どちらかにアレルギーがあるならセットで排除すべき。
小麦に続く原因物質の第5位は、ピーナッツ(落花生)。木の実類と間違えられやすいが、植物学上の分類は大豆などと同じ豆類。
ピーナッツは、クルミと並んで特定原材料の表示義務がある。ジーマーミ豆腐、佃煮、カレールウ、スナック菓子などの加工食品を買う際は、原材料表示で有無を確かめる。外食や中食には表示義務がないため、誤って食べないようにしたい。
小麦
大麦とも交差反応が生じ、運動後にアレルギー反応が起こる
小麦の主要アレルゲンは、小麦タンパク質の成分であるグルテン。アルコールに溶けるグリアジンと、溶けないグルテニンを含む。小麦食品独特の粘り気は、水を加えて練り合わせることにより、グリアジンとグルテニンが結合するから。他のアレルゲンには、α-アミラーゼインヒビターがある。小麦粉を使ったパン、麺類、お菓子、カレーやシチューのルウなどにも気をつける。
大麦には、小麦のグルテンのうちでもω-5グリアジンと交差反応するタンパク質があるため、小麦アレルギーを起こすこともある。小麦と違い、加工食品に大麦の表示義務がないうえに、押し麦、もち麦、丸麦、はったい粉など、多くの呼び名があるため誤食には配慮が求められる。ただ麦味噌や麦茶は大丈夫。
大人の小麦アレルギーは、食後の運動で急性の症状を招く食物依存性運動誘発アナフィラキシーで生じることもある。
2009年には、小麦の加水分解成分を配合した石鹼を使ったユーザーが小麦食品を食べて、食物依存性運動誘発アナフィラキシーを多発するという事件があった。これは分解により小麦のアレルゲン性が逆に強まり、それが皮膚から入ってIgE抗体ができたところに、食べた小麦からもアレルゲンが入り、さらに運動刺激が加わり起こったものだった。
米アレルギーが少ない理由
同じ穀物でも、小麦アレルギーと比べて米アレルギーは少ない。小麦アレルギーの患者には、小麦粉の代替品として米粉を愛用する人もいる。米にも、アレルゲンの可能性を持つタンパク質が含まれる。アルブミンやグロブリンなどだが、小麦のグルテンとは作りが違うため、小麦アレルギーでも米粉はOKなのだ。
頻度は高くないが、米アレルギーが皆無なわけではなく、それゆえアルブミンやグロブリンなどを減らした低アレルゲン米も販売されている。
大豆・ソバ・ゴマ
大豆は花粉との交差反応、ソバは枕に油断しないこと
ヘルシー食として知られる和食に欠かせない食材の大豆、ソバ、ゴマでも、食物アレルギーは生じる。大豆アレルギーは乳幼児期の即時型症状が多く、大豆は食物アレルギーの原因としては第10位だ。
主要アレルゲンは大豆の貯蔵タンパク質。豆腐や豆乳でアレルギー症状が出ても、大豆を原料とする醬油、味噌、大豆油は症状なく摂取できることも珍しくない。他の豆類のアレルゲンとの共通性は50%程度に留まり、エンドウ、インゲン、ピーナッツとの交差反応は少ない。
3歳までの耐性獲得率は約80%と高いけれど、児童期以降には大豆のアレルゲンと共通点を持つカバノキ科花粉を吸い込んで起こる花粉―食物アレルギー症候群(PFAS)が増えてくる。
ソバは、即時型の食物アレルギーの原因物質の第11位。アナフィラキシーショックを起こしやすく、重篤な症状を示すこともある。ソバは表示義務があるから、ガレットや饅頭などにソバ粉が入っていないかを確認しよう。枕のソバ殻でも反応は起こりやすいから、油断は禁物。
ゴマに対するアレルギーは、幼児期に即時型として発症するケースが目立つ。耐性を獲得する割合は残念ながら低く、粒ゴマより擂りゴマや練りゴマの方が症状は出やすい。ゴマ油は問題なく摂れることも多い。
甲殻類・軟体類・貝類
甲殻類アレルギーの人は、ダニやゴキブリにも気をつけよ
甲殻類はエビやカニ、軟体類はイカやタコ、貝類はホタテやアワビなど。なかでも甲殻類は、食物アレルギーの原因としては8番目に多く、成人で新たにアレルゲンを特定される食べ物としてはいちばん多い。
甲殻類の主要アレルゲンは、トロポミオシン。その性質(アミノ酸配列)の共通点は、ブラックタイガーやロブスターといった種類の異なるエビ同士では95%以上、エビとカニの間でも85〜95%と極めて高いのが特徴。このため、エビアレルギー患者の約65%は、カニでもアレルギー反応を体験したことがあるという。調味料の甲殻類エキス、あるいはエビ煎餅などの加工品には、アレルギー反応が起こる人と起こらない人がいるようだ。
甲殻類と同じ節足動物に分類されるダニやゴキブリも、アレルゲンとしてトロポミオシンを持つ。ハウスダストとしてこれらを吸い込むと、甲殻類と交差反応を起こしてアレルギー反応が出ることがある。
甲殻類と軟体類・貝類の間のトロポミオシンの共通点は約60%と低めだから、甲殻類アレルギー患者が軟体類・貝類でアレルギーを起こす割合は20%前後に留まる。
美味しいから食べたくなる気持ちもわかるけれど、甲殻類・軟体類・貝類を完全にカットしたとしても、栄養的には幸い大きな支障はない。
魚類・魚卵
魚のアレルギーは大型魚より小型魚、尾っぽ側より頭側で生じやすい
魚類アレルギーは乳幼児期に発症することが多く、人口全体では有病率は1%以下。海に囲まれた日本は魚類を食べる機会が多いため、海外よりも有病率が高い。
主要アレルゲンは、魚の身(筋肉)に含まれる水溶性のタンパク質であるパルブアルブミン。金目鯛やイサキのような小型魚に多く、マグロやカツオなどの大型魚には少ない。部位によってもパルブアルブミンの分布には偏りがあり、血合いは含有量が少なく、尾側より頭側、背側より腹側の身の方が含有率は高い。
パルブアルブミンを作るアミノ酸の配列の共通点は、種類の異なる魚類でも50〜80%と高い。このため魚類アレルギー患者の2人に1人は、すでにアレルギー反応を起こした種類以外の魚類でも、新たにアレルギー反応を起こした経験がある。アニサキスアレルギーやヒスタミン食中毒と区別して、治療を進めよう。缶詰、カツオやイリコの出汁では、アレルギー反応は起こりにくい。
魚卵でも、食物アレルギーが生じることがある。魚卵は生で食べることが多いため、魚類以上にアレルギー反応が出やすい。その95%はイクラによるもので、次がたらこ。イクラやたらこにアレルギーがあっても、数の子やとび子といった他の魚卵は平気なことも少なくない。
加熱で変わる、アレルギーの起こりやすさ
当然だが、茹で卵は生卵には戻らない。加熱によりタンパク質の構造が一度変わると、二度と逆戻りしないのだ。アレルゲンもタンパク質だから、加熱すればアレルギー反応を起こさなくなるのだろうか。鶏卵(とくに卵白)や、野菜・果物のタンパク質のように、加熱するとアレルギー症状が出にくくなるものもある。しかし、カゼインやグルテンのように多くのアレルゲンは加熱で多少構造が変化しても、IgE抗体と反応する抗原性が落ちるわけではない。