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花粉症の人は果物アレルギーのリスクあり!? アレルギーの最新事情

アレルギーのメカニズム

大好きなのに食べられない、触れない。そんな悲しいアレルギーは、カラダの防御反応だの、免疫の暴走だのいわれるけれど、それって実際どういうこと? 抗原―抗体の基礎知識から新たな研究報告まで、その全容を知れば、次の一手が見えてくるかもしれない。今回は、アレルギー治療の新常識や、現代ならではのアレルギー事情などをご紹介。

教えてくれた人:

山田佳之さん

やまだ・よしゆき/東海大学医学部総合診療学系小児科学教授。米国シンシナティ小児病院メディカルセンター、群馬県立小児医療センターなどを経て現職。専門は食物アレルギー、小児アレルギー。消化管アレルギーにも詳しい。医学博士。

伊藤浩明さん

いとう・こうめい/あいち小児保健医療総合センター センター長。米国留学、国立名古屋病院小児科などを経て現職。日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会副委員長として『食物アレルギー診療ガイドライン2021』を監修。医学博士。

「食べずに治す」から「食べて治す」へ

子供のアレルギーでもっとも多いのが、鶏卵牛乳小麦などの食物アレルギー。そこでアメリカ小児科学会では、家族にアレルギーがある乳幼児に対し、食物アレルギーを起こしやすい乳製品は1歳まで、鶏卵は2歳まで、ピーナッツや魚類は3歳まで与えるべきではないとしていた

その昔は日本でも、アレルギーを起こす食べ物(原因食物)を絶対に摂らない「完全除去食」が、食物アレルギーの治療の中心だった。鶏卵にアレルギーがあるなら、鶏肉も食べないようにという厳格な指導を行う専門医も少なくなかったようだ。

だが、原因食物の摂取時期を遅らせると、逆に食物アレルギー発症が増えるという事実が発覚。その後、乳幼児期の早くから少量の食べ物を計画的に摂ると、食物アレルギーに陥りにくいという研究結果が続出する。

とくに沖縄で牛乳を対象に行われた「スペードスタディ」は、世界的に大きなセンセーションを巻き起こした。生後1か月から3か月まで牛乳摂取群と除去群に分けて調べたところ、生後6か月時に牛乳アレルギーを起こす割合は牛乳摂取群で低くなり、除去群で高くなることがはっきりしたのだ(下グラフ参照)。

「荒れた皮膚から経皮的に感作される前に、適量が腸管から入ることにより、アレルギーを抑える制御性T細胞や、IgG4抗体の発達が促されます。つまり口から入れた食べ物に“寛容”になり、行き過ぎた免疫応答を起こさない経口免疫寛容が誘導されやすくなる。それにより食物アレルギーが抑えられると考えられます」(伊藤先生)

大事なのは、荒れた皮膚からアレルゲンが先に入る経皮感作を避けるため、スキンケアを徹底し、皮膚経由でのアレルゲンの侵入をブロックすること。そのポイントをしっかり守れたら、牛乳だけではなく、鶏卵やピーナッツなどでも「食べて治す」という戦略が、子供たちの食物アレルギー予防に威力を発揮するのだ。

牛乳を飲んだ方が牛乳アレルギーに罹りにくい

牛乳を飲んだ方が牛乳アレルギーに罹りにくい

新生児504人を生後1か月から3か月まで普通粉ミルク摂取群と除去群にランダムに分けて比較。6か月時の牛乳アレルギーの発生率を比べた。摂取群の方が発生率は低い

Sakihara T, et al. J Allergy Clin Immunol 2020

環境が清潔になったからアレルギーが増えた?

近頃、子供でも大人でも、アレルギー疾患に悩む人は着実に増えている。理由の一つとして、アレルギーを招く3要因のうち、環境の変化が注目されている。衛生的になり小さい頃からアレルゲンと触れ合うチャンスが減り、アレルギーが増えたというのだ。これを「衛生仮説」と呼ぶ。

衛生仮説が最初に注目されたのは、90年代にスイスで報告された「牧場効果」。街と牧場で育った子供を比べると、ハイジのような牧場育ちの子供が喘息や花粉症になる率は、街育ちの半分から3分の1だったのだ。

アメリカの宗教集団アーミッシュとフッター派を比べた研究も興味深い。両者は東欧で農耕を営んだ祖先を持ち、遺伝的にはほぼ同一。大きな違いは、アーミッシュが19世紀の生活習慣を守り、子供の頃から牧場で動物を世話しているのに、フッター派はより近代的で衛生的に暮らしている点。両者を比べると前者の子供の喘息の発生率が低かったのだ。

衛生仮説を裏付けるのは、免疫細胞で発見されたToll様受容体

「このセンサーが細菌やその成分を感知すると、アレルギーを抑える自然免疫を誘導しやすくなる。衛生的な環境ではこの仕組みが不発に終わり、アレルギーが起こりやすくなる可能性があります」(東海大学医学部の山田佳之教授

最近、B細胞やT細胞のような獲得免疫に関わるリンパ球以外にも、自然免疫に関わる自然リンパ球があり、衛生状態に応じてアレルギー発症を左右するという新説も出てきた。衛生仮説はいまだ“仮説”のまま。詳しいメカニズム解明を待とう。

クラゲ+納豆、花粉+果物の合わせ技でアレルギーになる

長年元気にサーフィンを続けていた健康な大人が、突如として食物アレルギーを発症することがある。その謎を解くのが「交差反応」。交差反応とは、成分の作りがよく似ている複数のアレルゲンの合わせ技によって生じるもの

冒頭の例では、サーファーは海で繰り返しクラゲに刺されており、クラゲのアレルゲンであるPGAにずっと晒され続けた結果、IgE抗体が生成されていた。そうと知らず普通に納豆を食べたところ、食物アレルギーの症状が発生。納豆のネバネバ成分にもPGAが含まれており、アレルゲンが侵入したと免疫が誤作動し、交差反応が発動したのだ。

交差反応でよりメジャーなのは、花粉―食物アレルギー症候群(PFAS)。花粉症の人が、花粉のアレルゲン成分と似た構造を持つ生の果物や野菜を食べたときに発症することが多い。

カバノキ科(シラカンバ、ハンノキ)の花粉と、バラ科(リンゴ、桃、サクランボ)の果物によるPFASがポピュラー。この他にも、キク科(ブタクサ)の花粉と、ウリ科(メロン、スイカ、ズッキーニ、キュウリ)、バショウ科(バナナ)の果物・野菜でもPFASが報告されている。大人の食物アレルギーの多くを占め、シラカンバ花粉症の約20%で見受けられるという。

「PFASの症状は口の粘膜の痒みやイガイガ感など口腔内に限定されることから、口腔アレルギー症候群(OAS)とも呼ばれます。生の果物や野菜のアレルゲンは消化プロセスで壊れるため、症状は口腔内に限られるのです」(あいち小児保健医療総合センターの伊藤浩明センター長

ジャムなど果物を加熱するとアレルゲンの作りが変わり、PFASは生じにくくなる。ただし、PFAS以外の子供の果物アレルギーは、果物を加熱しても起こるので要注意。

交差反応によるアレルギーには毛などネコのアレルゲンと豚肉による「ポーク・キャット症候群」、羽毛など小鳥のアレルゲンと鶏卵による「バード・エッグ症候群」がある。

花粉と交差反応が起こりやすい主な食べ物
バラ科(リンゴ、桃、サクランボ、ナシ、アーモンド)
マメ科(大豆、ピーナッツ、緑豆もやし)、マタタビ科(キウイフルーツ)、カバノキ科(ヘーゼルナッツ)
ナス科(トマト)
ウリ科(メロン、スイカ)、ナス科(トマト)、マタタビ科(キウイフルーツ)、ミカン科(オレンジ)、
マメ科(ピーナッツ)
ウリ科(メロン、スイカ、ズッキーニ、キュウリ)、バショウ科(バナナ)
セリ科(セロリ、ニンジン、スパイス類)、ウルシ科(マンゴー)
変わったアレルギー :消化管アレルギー

新生児や乳児に、粉ミルクなどを飲んで数時間後に嘔吐や血便などの症状が出ることがある。アレルギーの多くは皮膚や鼻腔といった体表に症状が出るものだが、これはカラダの奥深くにある消化管にアレルギーが出るもの。代表格が、最初に挙げた「食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)」だ。

「消化管アレルギーは世界で患者が増加中。子供では牛乳以外に卵黄、大人でも甲殻類と魚類で症状が出る人もいます」(山田先生)

アレルギーと呼ばれるものの、食物アレルギーとは異なる病気。なぜか通常アレルギーを起こすIgE抗体が見当たらないのだ。原因食物を除去すれば、幸い3歳くらいまでに大半は寛解する。

もう一つの消化管アレルギーが好酸球性消化管疾患(EGID)

喘息やアレルギー性鼻炎では、白血球の一種である好酸球が炎症を起こしている。同じようにEGIDでも好酸球が消化管に集まりアレルギーが生じる。こちらは原因食物の除去のほか、胃酸や炎症を抑える薬などが効いてくれる。

取材・文/井上健二 撮影/伊藤徹也 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/高松由佳 イラストレーション/obak 取材協力/山田佳之(東海大学医学部教授)、伊藤浩明(あいち小児保健医療総合センター センター長)

初出『Tarzan』No.875・2024年3月7日発売

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