本当に効果があるのは? アレルギーを軽減する8つのセルフケア
なかなか瞬時には治りにくいのがアレルギー。けれども近年、これはアレルギー改善に効果がありそうだという研究報告も増えている。なかでも巷でよく耳にするキーワードをピックアップ。専門家の意見を基に○×△で検証した。
取材・文/井上健二 撮影/安田光優 イラストレーション/ユア 取材協力/福田真嗣(慶應義塾大学特任教授)、伊藤浩明(あいち小児保健医療総合センター センター長)、清益功浩(大阪府済生会中津病院免疫・アレルギーセンター部長)、幸井俊高(薬石花房幸福薬局院長)
初出『Tarzan』No.875・2024年3月7日発売
教えてくれた人
福田真嗣さん
ふくだ・しんじ/慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授、順天堂大学大学院医学研究科特任教授。(株)メタジェン代表取締役社長CEO。ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」でバイオサイエンスグランプリ最優秀賞を受賞。博士(農学)。
伊藤浩明さん
いとう・こうめい/あいち小児保健医療総合センター センター長。米国留学、国立名古屋病院小児科などを経て現職。日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会副委員長として『食物アレルギー診療ガイドライン2021』を監修。医学博士。
清益功浩さん
きよます・たかひろ/大阪府済生会中津病院免疫・アレルギーセンター部長。日本赤十字社和歌山医療センター、京都医療センターなどを経て現職。メディアでの情報発信にも積極的。専門は一般小児科、小児アレルギー疾患、感染症。医学博士。
幸井俊高さん
こうい・としたか/薬石花房 幸福薬局代表。東京大学薬学部卒業、北京中医薬大学卒業。1998年、中国政府の認定を受け、日本人として18人目の中医師に。著書に『漢方でアレルギー体質を改善する』など多数。アレルギーの根本治療を目指す。
腸内フローラは…◯
アレルギーのセルフケアの一丁目一番地は、腸内環境の改善。腸内環境は、アレルギーに深く関わるからだ。
腸内には、約40兆個の腸内細菌が棲む。腸内細菌は両親から受け継ぐなどするため、本人には元来外からの異物だが、3歳前後までに顔ぶれが固定化。この集団が個々の腸内フローラとなる。よそ者ながら定住を許されるため、免疫にもスルーされる。
ただ腸内フローラのおかげで免疫細胞にも学びがある。たとえば、免疫細胞のうちT細胞には、感染症で働くタイプ(Th1細胞)とアレルギーで働くタイプ(Th2細胞)がある。腸内フローラには、両者のバランスを整える働きもあるのだ。
「衛生環境が悪く感染症が多かった時代はTh1細胞が優位でしたが、衛生環境が良くなり感染症が減った現代ではTh1細胞の出番が減少。相対的にTh2細胞が優位になり、結果として無害なアレルゲンにも反応しやすくなり、アレルギーが増えてきています。多様な腸内細菌が免疫をきちんとトレーニングしてくれたら、Th1細胞とTh2細胞のバランスなどが整い、アレルギーに罹りにくくなると考えられます」(慶應義塾大学の福田真嗣特任教授)
アレルギーを減らす方法は2つ。
第一に、腸内細菌に短鎖脂肪酸を多く作ってもらうこと。短鎖脂肪酸には酪酸、酢酸、プロピオン酸があり、アレルギー反応を抑える制御性T細胞(Tレグ)の成熟を促す。腸管の粘膜で作られたTレグは、全身の粘膜を自在に移動し、アレルギー反応をセーブする。
短鎖脂肪酸は腸内細菌の発酵で作られる。原料は、消化されず大腸まで届く食物繊維やオリゴ糖。とくに未精製穀物、豆類、海藻類などに多い発酵性食物繊維だ。自分にどんな腸内細菌が多いかを調べ、それらが好む発酵性食物繊維を摂ると、短鎖脂肪酸は効率良く増やせる。
より手軽なのは、ヨーグルト、納豆、キムチなどの発酵食品の摂取を増やすこと。発酵食品を作る微生物を一緒に摂ると、その刺激でTh1細胞とTh2細胞のバランスが整いやすい。何が効くかには個人差も影響するから、発酵食品をいろいろ試し、症状が軽快するものを探そう。
腸内環境を調べて作るグラノーラ
福田先生が創設したメタジェンなど2社とカルビーが共同で開発したのが《Body Granola》。まず検査キットで自らの腸内細菌のタイプを調べる。その結果を参考に、自分の腸内細菌に合う餌となるプレバイオティクストッピングを3種選び、ベースグラノーラに混ぜて食べる。検査キット10,780円、グラノーラ1か月分(20食)3,780円(定期購入価格)。WEBサイト
ビタミンDは…◯
生まれ月とアレルギー疾患の発症率には相関がある。北半球では4〜6月生まれで発症率はもっとも低く、10〜12月生まれでもっとも高いのだ。
違いを生むのは星座ではなく、日照時間。北半球では4〜6月は日照時間が長く紫外線も強いが、10〜12月は日照時間が短くて紫外線も弱くなる(南半球では真逆になる)。
「日照時間が長く紫外線が強いと、皮膚で多くのビタミンDが合成される。ビタミンDはアレルギーを抑制する制御性T細胞を活性化し、免疫を正常化してアレルギー発症を抑えます」(あいち小児保健医療総合センターの伊藤浩明センター長)
体質が決まる乳幼児期のビタミンDの生成量が、その後のアレルギー発症にも関わるのだ。大人でもビタミンDはアレルギー発症を抑えるが、現代人は日焼けを嫌い、紫外線を浴びる機会が減り、ビタミンD不足に陥りやすい。日本人の98%は血清中のビタミンD濃度が基準値より低いという。シミができないように顔は日焼け止めで守りつつ、手足などで適切に日光を浴び、ビタミンDを自前で作ろう。
ビタミンDを食品から補うなら、鮭やイワシといった魚類、キクラゲや舞茸といったきのこ類がお薦め。
日本人の98%はビタミンD不足
東京都内で健康診断を受けた5518人を対象に調査。健常者の約98%が、日本代謝内分泌学会・日本整形外科学会が提唱するビタミンD濃度(<30ng/ml)に達していなかった。
ストレスケアは…△
「現代のようにストレスフルで緊張を強いられると、交感神経と副交感神経からなる自律神経のバランスが崩れやすい。それはアレルギー症状を悪化させる一因です」(大阪府済生会中津病院の清益功浩医師)
たとえば、花粉症だと朝起床時に鼻水やくしゃみなどが起こりやすい。この「モーニングアタック」も、寝ている間の副交感神経から、活動に備えた交感神経へのスイッチングがうまくいかず、鼻の粘膜が刺激に弱くなるのが誘因とされる。
また、俗に「寒暖差アレルギー」と言われる血管運動性鼻炎にも、自律神経が関わる。血管運動性鼻炎はアレルギーではない。血管の伸縮を担う自律神経が温度差で乱れると、鼻粘膜の血管が腫れ、花粉症と同じように鼻水・くしゃみ・鼻づまりといった症状が出てくるのだ。
ストレスと緊張を解消して自律神経を整えるには、ストレスから離れてリラックスできる時間を設けることが大事。なかでも睡眠が重要だ。
眠りが十分取れなくなると、アレルギー反応はよりひどくなる。浴槽入浴、深呼吸を伴うヨガやマインドフルネスなどは自律神経を調整する作用があり、安眠へ誘う。できるものから試そう。
オメガ3脂肪酸は…◯
アレルギー症状を起こすきっかけは、マスト細胞から放出されるロイコトリエンなどの炎症性脂質。
炎症性脂質は、免疫細胞内でアラキドン酸という脂肪酸から作られる。その合成にブレーキをかけて、炎症性脂質を減らしてアレルギー症状を軽減してくれる物質がある。それがオメガ3脂肪酸。
マウスを使った順天堂大学の研究では、オメガ3を含む亜麻仁油の摂取で炎症性脂質が減り、花粉症の症状が和らいだ(グラフ参照)。
オメガ3脂肪酸でアレルギー性結膜炎が改善
ブタクサ花粉を用い、アレルギー性結膜炎マウスモデルを作成。オメガ3脂肪酸を含む亜麻仁油を4%含む餌を2か月与えた。すると亜麻仁油を含まない餌を食べた群よりもアレルギー性結膜炎の症状が改善。結膜中の炎症性脂質メディエーターも大幅に減少していた。
「ただ、人でどの程度効果があるかには個人差も大きい」(清益先生)
オメガ3には、亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸の他、サバなど青魚に多いEPAとDHAがある。いずれも必要量を体内で合成できない必須脂肪酸。毎日のように亜麻仁油を摂ったり、青魚を食べたりするのが難しいなら、EPAやDHAを含むサプリメントも活用しよう。
また、オメガ3とは対照的に、オメガ6脂肪酸を摂り過ぎるとアラキドン酸が増えるため、炎症性脂質も増加。アレルギーが増悪する恐れがある。オメガ6も必須脂肪酸だが、サラダ油や加工食品などに豊富に含まれるため、現代人は不足よりもむしろ過剰摂取が心配。アレルギーに悩んでいるなら、揚げ物や加工食品の食べ過ぎはなるたけ避けたい。
遅延型食物アレルギー検査は…✖️
食物アレルギーの多くは即時型。食べ物を食べて2時間以内にじんましんなどのアレルギー症状が出る。
それに対して、食べてから数時間から数日後に起こる食物アレルギーがあるという。これを、即時型に対して俗に“遅延型”と称する。
遅延型だと食べてから反応が出るまでに時間がかかりすぎるため、何がアレルゲンなのかを特定するのが難しく、そこから「隠れアレルギー」とも呼ばれる。ネット上には、「遅延型食物アレルギー」「隠れアレルギー」の有無を調べる検査を行うサービスを喧伝するサイトも多い。
だが、今回取材したアレルギーの専門医は全員、口を揃えてこうした検査をまったく推奨していない。
一般的なアレルギーはアレルゲンに対してIgE抗体が生じて起こる。ところが、巷の遅延型食物アレルギー検査で調べるのは、IgG抗体。
「IgG抗体は人体でもっとも多い抗体。ウイルス、細菌、カビなどに反応して生じるため、健康な人も持っていて当たり前であり、その値を調べても食物アレルギーかどうかはわからない。加えてこれらのIgG抗体検査では正常値が示されておらず、何が病的かを判断する医学的根拠に乏しいのです」(伊藤先生)
不安を煽る宣伝文句に乗せられて、安易に検査を受けるのはNG。
漢方は…◯
アレルギーはまず西洋医学の専門医の診察を受け、アレルゲンの特定を踏まえた治療に進むべき。それで満足できなかったら、信頼できる漢方医のセカンドオピニオンを受ける手も。
「漢方では、“証”と呼ぶ体質の改善でアレルギーを和らげます。“証”は千差万別ですが、現代人に多い“証”は4つに大別できて、漢方薬の処方や日常生活の留意点も変わります」(漢方医の幸井俊高さん)
その4つは「補」「捨」「流」「調」。下のリストでチェックしよう。
体質(証)チェックリスト
- 補|虚弱タイプ
- 疲れやすい。
- 食欲不振が続く。
- ときどき動悸がする。
- 唇が荒れやすい。
- 頭がボーッとすることがある。
- 捨|過剰タイプ
- 手足がだるく感じることがある。
- ときどき頭が重くなる。
- むくみやすい。
- 体重が増えている。
- 関節痛がある。
- 流|停滞タイプ
- 皮膚がカサカサしている。
- 冷えやのぼせがある。
- イライラしやすい。
- 胸が苦しく感じることがある。
- 腹部に膨満感がある。
- 調|不均衡タイプ
- 手足が冷えやすい。
- ときどきめまいがする。
- ときどき物忘れがある。
- 頻尿でトイレが近い。
- 眠りが浅い。
該当する項目が最も多いものが自分の体質になる。同数だった場合は両方の証を見てみよう。
4大体質によるアレルギー症状の違い
証/症状 | 花粉症 | アトピー性皮膚炎 | 喘息 |
---|---|---|---|
補 | 風邪をひきやすい、疲れやすい | 痒みが激しい、痒みが夜間にひどくなる | 元気がない、疲れやすい、排便回数が多い |
捨 | 水様の大量の鼻水、くしゃみ、黄色い鼻水で鼻が詰まる | 患部が赤くなる、ジクジクしやすい | 痰が黄色く粘稠で切れにくい、胸苦しい |
流 | つねにどちらかの鼻が詰まる、夜間に悪化する | ストレスで悪化しやすい、色素沈着が残りやすい | 痰が薄く透明から白っぽい、寒がり、むくみがある |
調 | 薄い鼻水が出やすい、温度変化や食事の際に鼻水が出る | 胃腸が弱い、女性なら生理不順を伴う | 痰が黄色く粘稠で切れにくい、寝汗や肌の乾燥を伴う |
漢方は、人体には気・血・津液の3つの構成要素があると捉え、それらがバランスよくスムーズに流れるように導く。気は生命エネルギーや免疫力、血は血液とその循環、津液は体液などに相当する。
「補」は、気・血・津液のどれかが足りない虚弱タイプ。朝食を食べる、睡眠を取るといった普段の心構えが大切。荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)といった漢方薬が処方される。
「捨」は、カラダに不要な気・血・津液を溜め込みやすい過剰タイプ。腹八分目で野菜中心の食生活、適度な運動の習慣化がお薦め。用いられる漢方薬に、小青竜湯加石膏(しょうせいりゅうとうかせっこう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、六君子湯(りっくんしとう)、清肺湯(せいはいとう)がある。
「流」は、気・血・津液の流れが悪い停滞(ドロドロ)タイプ。スポーツや入浴で汗をしっかりかく、深呼吸を続けることなどが大切。香蘇散(こうそさん)、四逆散(しぎゃくさん)、葛根紅花湯(かっこんこうかとう)、逍遙散(しょうようさん)などが処方されることが多い。
「調」は、気・血・津液やそれと連携する五臓の機能バランスが崩れている不均衡(アンバランス)タイプ。食べ物をよく嚙んで食べ過ぎない、カラダを冷やさない、十分な睡眠と休養を取ることが求められる。用いられるおもな漢方薬に、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)、四君子湯(しくんしとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)がある。
自由診療がメインの幸井先生が処方する漢方薬は1日分1400円前後。1日2回、お湯で煎じて飲む。
「半年から1年ほど根気よく続けていれば、花粉症の6割、アトピー性皮膚炎の5割ほどが軽くなります」
スキンケアは…◯
八百屋でアルバイトしていた野菜好きの人が野菜アレルギーになったり、寿司職人が突如として魚類アレルギーになったりすることもある。
これらの食物アレルギーの原因は、意外にも肌荒れ。肌は皮脂や角質で守られており、細菌やウイルス、アレルゲンが侵入しないようになっている。肌が荒れて炎症が生じると、このバリア機能が下がり、アレルゲンが侵入。炎症に応答して集まった免疫細胞(樹状細胞)がアレルゲンを感知すると、アレルゲンで炎症が生じたと誤解して、一連のアレルギー反応の引き金を引いてしまう。
スキンケアの初めの一歩は保湿! 目に見えて肌荒れしていなくても、乾燥肌だと皮膚のバリア能力が大幅ダウンし、経皮アレルギーを起こしやすい。顔だけではなく、アレルゲンと触れ合う可能性のある部位を徹底保湿しよう。フェイスケア同様、まずは肌をキレイに洗って清潔に。肌をゴシゴシ強く擦って洗うと、肌荒れを起こしやすいから気を付ける。続いてたっぷりの化粧水で潤いを補い、乳液やクリームでそれを保つ。
ただし、薄切りのキュウリやハチミツなど食べ物を貼り付け、自己流の保湿をするのはNG。肌が荒れていると、それらの食べ物が肌から入ってアレルゲンとなり、食物アレルギーを発症するケースもある。
お茶は…△
お茶は減量やストレスに効くとされるが、アレルギー症状の緩和も期待できる。筆頭は、べにふうき緑茶だ。
べにふうきで花粉症の症状が改善
メチル化カテキンを含むべにふうき緑茶、メチル化カテキンを含まない緑茶(やぶきた)を飲んだところ、前者でスギ花粉飛散時の鼻症状が改善できた。
べにふうきとは、インド由来の紅茶用の茶葉から、日本で初めて紅茶・ウーロン茶用に開発された茶葉。お茶には、カテキンという渋みの成分が含まれるが、べにふうきにはカテキンにメチルが付いたメチル化カテキンが多い。このメチル化カテキンが、アレルゲンと合体するIgE抗体がマスト細胞に付くのを防ぎ、アレルギー反応を抑制する。
べにふうきはもともと紅茶・ウーロン茶用だが、紅茶・ウーロン茶用に酸化発酵させるプロセスでメチル化カテキンは激減するため、酸化発酵させない緑茶で飲む方が効く。メチル化カテキンは吸収されやすく、脂に溶けやすいので体内に長く残りやすいというメリットもある。
甜茶やルイボスティーもいい。
甜茶は、アレルギー反応を起こすマスト細胞からのヒスタミン分泌にブレーキをかける。ルイボスティーは体内で有害な活性酸素を除去する酵素(SOD)に似た成分を含み、炎症反応の悪化を防ぐ。
べにふうき緑茶と甜茶はネット通販などで粉末やティーバッグが手に入る。ルイボスティーはペットボトル入りがコンビニでも買える。
「オメガ3脂肪酸と同様、お茶の効果にも個人差がある。自分に合うものを続けましょう」(清益先生)