有酸素運動と筋トレは両立できる?
脂肪を燃焼させるのが、有酸素運動。糖質を燃焼させるのが、筋トレをはじめとする無酸素運動。有酸素のマラソンと無酸素の100m走では、求められる体質も体型もまったく異なるが、両者を併用してトレーニングすることはできるのだろうか。成果は上がるのだろうか。
「有酸素運動と無酸素運動はもちろん両立できます。効果的にトレーニングもできます」
きっぱりと言うのは池澤智さん。
パーソナル・トレーニングジム〈トータル・ワークアウト〉の代表で、俳優、モデル、アスリートをはじめ、数多くのボディメイクを手掛け、ミス・ユニバース・ジャパンなど数々のメジャー大会のオフィシャルトレーナーも務めてきた。
「スポーツやビジネスのパフォーマンス向上を目的に、限られた時間で成果を上げるには、無酸素運動が効率的です。うちのジムでも時間に余裕があれば無酸素と有酸素を組み合わせるトレーニングも提案しています。
糖質を使う無酸素運動ですが、低糖質の食事を組み合わせることで、糖質のタンクを早く使い切り、予備のタンクである脂肪を燃やすことができるので、実は効率的な脂肪燃焼を促せます。
一方、初めから有酸素運動だけで脂肪を燃やすのは、実はけっこうストイックな人でないと難しい。有酸素運動を取り入れるのであれば、無酸素運動で脂肪が燃え始めた段階でプラスするほうが上手に脂肪燃焼を底上げできます」
右:有酸素運動の前に無酸素運動を行う。大腿筋、大臀筋、広背筋…など大きい筋肉から鍛える。筋肉が増えれば代謝が上がる。写真はスクワット。例えば1セット目が100kgを13回ならば、2セット目は110kgを10回と負荷を上げることで運動効果は高まる。
左:有酸素運動は、全力の70~80%で継続して行う。無酸素運動の後、(220-年齢)×0.75の心拍数で10~20分継続すると運動効果が高い。写真はトータル・ワークアウト常備のバイクトレーナー。有酸素の運動量をキープできるようにデジタルでカリキュレートしてくれる。
有酸素運動はランでもバイクマシンでも全力の75%を意識。
「二人で並走中にパートナーに話しかけられた時、応じられるけれどちょっと苦しいくらいが目安。話しかけられたくないなあ、と感じるくらいです。走っていて苦しければ、それはもう有酸素運動のレベルを超えていると言えます」
時間は10~20分がいい。
「筋肉量がしっかりある代謝の良いカラダを保つためには、有酸素運動をやりすぎないことも大切。個人差はあるものの、走り始めて20分を過ぎると大切な筋肉が燃え始めてしまいます」
トータル・ワークアウト渋谷店
- 住所:東京都渋谷区円山町3-6E・スペースタワー3階
- TEL:03-5728-2029
- アクセス:JR、東京メトロなど渋谷駅から徒歩10分。京王井の頭線渋谷駅から徒歩5分。六本木ヒルズ店、福岡店もある。
- WEBサイト
複数の筋肉を連動させる神経系のトレーニングも行うことができ、3店舗とも、俳優、プロスポーツ選手、格闘家、ミス・ユニバース日本代表、アーティスト、企業のトップが多数通っている。
有酸素運動はやりすぎると老ける?
教えてくれた人:中西真さん
なかにし・まこと/東京大学医科学研究所所長・教授、生化学者。1960年愛知県生まれ。東京大学医科学研究所所長。癌防御シグナル分野教授。2022年に東京大学新世代感染症メンバー、23年より現職。著書に『老化は治療できる!』(宝島社新書)。
ランナーが老けて見えるといわれるのは、有酸素運動をやりすぎて、体内に活性酸素が発生しているからかもしれません。人が生きるためには酸素が必要ですが、過剰な酸素はカラダに害になります。DNAやタンパク質を傷つけてしまうのです」とは、東京大学教授の中西真さん。
活性酸素とは、体内に取り込んだ余剰な酸素が活性化したもの。強い酸化作用があり、細胞を攻撃してしまう。
「ただし、エビデンスは取れていません。人間には個体差があり、食事も生活環境も異なるので、同じサンプルで比較することが難しいからです。それに、なにをもって老け顔というのか、基準が難しいですよね」
マウスではすでに実験済みだ。
「同じ親から生まれた2匹のうち片方に有酸素運動をやらせたら、その個体には明らかに活性酸素が多く発生しています」
アスリートでない限り、有酸素運動をやりすぎてはいけない。
「たとえばランナーズハイは脳が毒性のある物質を出してつらさを緩和させている状態です。気をつけてください」
笑うことは有酸素運動になる?
教えてくれた人:大平哲也さん
おおひら・てつや/1965年福島県生まれ。福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授。ふくしま国際医療科学センター放射線医学県民健康管理センター健康調査支援部門部門長などを務める。
「約10分間の笑いで、人は20~40キロカロリーを消費するといわれています」
福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授の大平哲也さんは、声を上げて笑うことを推奨する。
「ワハハワハハと笑うのは、腹式呼吸の一つです。腹筋、胸筋と連動し全身の筋肉を収縮させます。腹を抱えるくらい大きな笑いは、より多くのカロリー消費を期待していいでしょう」
大平さんがとくに勧めるのは笑いと運動の併用。
「ランニングもウォーキングも、一人よりも複数でやるのがいい。そこに会話や笑いが生まれるからです。同じようにテニスや卓球のダブルスを楽しむのも、有酸素運動の効果を高めるでしょう。健康面から言うと、ガチガチの体育会よりも、体力の負担の大きくない同好会的な楽しむ運動がいいでしょう」
大平さん自身は1週間に2回、落語を聴きながら走っている。
「笑いながらのランはより効率よくカロリーを消費できるからです。雨天の日のジムでは、マシンのモニターでバラエティ番組を見ながら走っています」