ヒトは元来、肉食体質。ケトジェニックダイエットが理にかなってるワケ

ケトン体は、体内で糖質が枯渇すると、肝臓で脂肪酸から合成される物質。糖質と脂質に続く3番目のエネルギー源で、筋肉や脳をはじめとするほとんどの細胞がエネルギー源として使える。糖質を厳しく制限するケトジェニックダイエットによって、ケトン体をフル活用すると、なんだかいろいろメリットがあるらしい。

取材・文/井上健二 撮影/中島慶子 取材協力・監修/斎藤糧三

初出『Tarzan』No.871・2024年1月4日発売

教えてくれた人:斎藤糧三さん

さいとう・りょうぞう/日本機能性医学研究所所長、斎藤クリニック院長。次世代型医療の機能性医学を日本に紹介、日本人初の認定医となる。10年ほど前からケトジェニックダイエットを多くの人に指導し、成果を上げる。

ケトン体が長寿遺伝子のスイッチを入れる

老化や生活習慣病の誘因は、活性酸素による酸化。ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンという3つの総称)のうち、β-ヒドロキシ酪酸は強力な抗酸化作用を持つ。カタラーゼや、ミトコンドリア内で活性酸素を抑えるマンガンSODといった抗酸化酵素の活性を高めるのだ。

またケトン体が出ているケトジェニック状態では、長寿遺伝子が活性化していると考えられる。

ヒトは、誰しも長寿遺伝子を持っている。ただそのスイッチが入っている人と入っていない人がいるのだ。ケトン体合成を促す際、長寿遺伝子の一つである「サート3」のスイッチがオンになる。逆に言うと、ケトダイエットでケトン体がつねに出ているのは、サート3がスイッチオンになっている何よりの証し。健康寿命が延びると期待できるのだ。

加えてケトン体は、気掛かりながんの予防にも役立ちそう。

北極圏に暮らすイヌイットの伝統的な食生活は、アザラシや魚が主食。ケトダイエットと似た高脂質低糖質食で、伝統食を守っていた頃の彼らはがん発生率が非常に低かった。がん細胞のメインのエネルギー源は糖質だから、ケトン体主体の代謝に切り替えると、がんが抑えられる可能性もある。

人類はもともと肉食。糖質は体質に合わない?

後述するように、ケトダイエットでは、主食などの糖質を大胆にカットする代わりに、肉類を中心としてタンパク質の摂取を大幅に増やすことを提案している。

「なぜならヒトは元来、肉食体質だから。主食などが多く含む糖質の過食に代謝機能が対応できず、結果として肥満や糖尿病などの生活習慣病が増えているのです」

肉食を始めたのは、数百万年前のアウストラロピテクス。初めて二足歩行を始めた大先輩だ。

その後も人類の祖先たちは肉食に精を出し、おかげで脳が大きくなった。脳の材料となるタンパク質と脂質を提供できるのは、ほとんど肉食のみ。発掘された骨の分析から、ネアンデルタール人や現生人類のタンパク質摂取量は、キツネなど肉食動物並みだとわかっている。それだけのタンパク質が供給できるのは肉食のほかにない。

一方、現在の主食である小麦やイネなど穀物の栽培を始め、糖質を多く摂るようになったのは1万年ほど前。穀物などの農耕で食糧を安定供給できるようになり、それが人口爆発につながったのは事実だが、生来は肉食のヒトのカラダは、必ずしも糖質の摂取に適応できているとは言いがたいのだ。

ヒトの肉好きはキツネ並み?

ヒトの肉好きはキツネ並み? グラフ

イギリスのガフ洞窟で農耕開始以前の1万4000年ほど前の現生人類の化石が発見された。骨の窒素量から推定するタンパク質摂取量は草食動物の鹿や牛より多く、肉食のキツネに近かった。

出典/Richards MP et al., J Archaeolog Sci 2000; 27: 1-3

ケトジェニックダイエットには100年の歴史がある

ケトン体という馴染みの薄い名前にビビり、「そんな新しいダイエットに飛びつくのは危険だ」と不安になる人もいるかも。

でも、ケトダイエットにはかなり長い歴史があり、安全性は確立している。

ケトダイエットが最初に用いられたのは、おもに子供の難治性てんかんの食事療法として。100年以上前の1921年の話だ。てんかんの一因は、脳の神経細胞がエネルギー源として糖質を使えなくなること。そこで脳にケトン体の利用を促し、てんかんの症状を緩和しようという治療法だった。

ケトン食療法は、カロリーに占める脂肪の割合が80%超という極端な高脂肪低糖質食。いわば究極の糖質制限ともいえる。1938年にてんかんの治療薬が開発されたが、現在でも抗てんかん剤やホルモン療法で発作が抑えられない場合、大人でもアレンジされたケトン食療法が用いられるケースがある。ケトン食を実施した患者の約半数で、発作の頻度が半分以下になるなどの効果が期待される。