「だったら歩きでいいかな」為末大さんが1日1万2000歩を歩く理由
ウォーキングをする理由は十人十色。ダイエットや運動不足だけが目的じゃない。なぜ歩くのか? 歩くことに何かを見出しているという人たちにその理由や歩き方を聞いてみた。奥深さや楽しみを知れば、もっと長く、もっと頻繁にウォーキングに出かけたくなるはず。今回は元陸上選手・為末大さんの歩く理由。
取材・文/石飛カノ 撮影/五十嵐一晴
初出『Tarzan』No.866・2023年10月5日発売
歩いていると、どんどん思考が深くなる
25年のアスリート人生に終止符を打ったのが12年前。カラダを鈍らせないため、引退後はジムに通ったりランニングをしたり。でも、筋トレは性に合わず、ランでは現役時代に酷使した膝に痛みが生じがちだった。
「それで7、8年前くらいから歩き始めました。歩いているだけで思ったより太らないし楽しい。だったら歩きでいいかなと。
ランとウォークでは体感的にはエネルギー消費量が数倍違うような感じがしますが、実際は30分走るのと1時間歩くのとではそんなに違わないんです。
カラダを引き締めたかったら、食事を少々控えめにしてウォーキングをしていたらすぐに効果は出ると思います」
現在のところ、1日の目標歩数は1万2000歩程度。都内なら目的地の2、3駅前で電車を降り、散歩感覚で歩く。
この日も最寄り駅ではなく、モノレールの2駅手前から歩いてきたという。といっても、歩く主な目的は健康やダイエットのためというよりも“考える”こと。
「僕は油断すると“そもそも○○とは何か?”と考えてしまうんです。その考えを巡らせてる間はほとんど歩いています。歩いていると思考がどんどん深くなっていく感じですね。
電車での移動中に本を読んで、そのまま電車を降りて歩きながら自分の頭で考えて、辿り着いたカフェで何かを書き始めるときれいなコンボになります。
思うに、脳内の接続みたいなものは脳の活動だけで作り出すのは難しいんじゃないかと。基本的に人間は狩猟採集活動をすることで脳の接続を進化させてきました。だから身体活動で血流がよくなって異なる接続パターンが生まれたときに、ひらめきが得られると思うんです」
ひらめく人は歩き方も効率的。危険を察知して生き延びるためには首が前に出た猫背姿勢ではなく、全方位的に意識を巡らせて、周囲の人を気遣いながら歩くのが正解。哲学の人、為末大さんのこのウォーキングフォームのように。