教えてくれた人:近藤拓人さん
アスレティックトレーナー/ビュテイコ呼吸法セラピスト。医科学修士、アスレティックトレーナー(BOC-ATC)。感覚運動分野をベースとした運動療法を専門とし、現在はパーソナルトレーニング施設〈NEXPORT新小岩〉の代表を務める。共著に『新しい呼吸の教科書』。
目次
鼻呼吸エクササイズとは?
紹介するのは、普段からスムーズな鼻呼吸を身につけるためのエクササイズ。トレーナーの近藤さんに実演してもらった。
「呼吸トレーニングで最も重要なのは、カラダや心の緊張を招く“呼吸過多”を改善すること。日常のストレスによる緊張も呼吸を荒くしますが、これらは呼吸のコントロールで改善が可能です」
近藤さんがトレーニングに応用する「ビュテイコ呼吸法」は“息を吐いて止める”のが大きな特徴。
「酸素の摂取量を減らすと、結果的には全身の細胞へ酸素が効率よく送り届けられます。これをさまざまな姿勢のエクササイズで行うと、日常生活や運動時でも緊張のないスムーズな鼻呼吸が可能に」
さらにビュテイコ博士の研究によると、「ヒトは単一の呼吸パターンを24時間続けるだけで、これを記憶して慢性化する」のだという。
「現代人のほとんどは緊張した荒い呼吸が常態化していますが、逆に言えば、秒数を管理する呼吸エクササイズで改善もできるということ。1日に何回行ってもいいので、ぜひ継続してみてください」
鼻呼吸エクササイズの基本
最初は必ずステップ1からスタート。まずは3秒ずつ、慣れたら7秒、10秒と秒数を増やしつつ次のステップへ。セット間の休憩や、息が乱れた場合は十分に休み、息を整えたら再開しよう。
ステップ① 仰向けで呼吸量をコントロールする
まずは、カラダが最も安定しやすい仰向けのエクササイズから。両膝は曲げて腕は楽に伸ばし、基本の呼吸を繰り返そう。
腰が反る・胸が突き出るなどで緊張した姿勢、過度な呼吸をリセットするのが目的のため、腰が浮かないように注意しつつリラックスして行うのがコツ。難しければ両手を下に向け、腰の下に挟んで押し付けると感覚が分かりやすい。
ステップ② 側臥位で鼻の通りをスムーズにする
横向きの側臥位になると、天井側の鼻腔が通りやすくなるヒトの生体反応を応用したエクササイズ。
下側の手で頭を支え、さらにカラダの前についた上側の手を支えに背中を丸めて背筋の緊張をリリースし、腹筋を使いやすくするのもポイントだ。両膝は軽く曲げ、上側の脚を少し後ろへズラすと骨盤が起きるので、この姿勢のまま基本の呼吸を。反対側も。
ステップ③ ねじりの姿勢で鼻呼吸を深める
歩行にマストな胸郭と骨盤の“回旋”動作では、重心移動を伴うため筋肉も緊張しがち。ここでは呼吸機能の改善とともに、この過緊張を取り除くのが狙いだ。仰向けから両膝を腰幅に開いて曲げ、両手は楽に広げる。
続いて両脚を片側に倒したら、反対の腕は斜め上に伸ばして胸を開き、肋骨の可動性をさらに高めよう。基本の呼吸を繰り返し、反対側も。
スムーズな鼻呼吸とともにカラダに酸素を行き渡らせる
ここからはさらに一歩進んで、鼻呼吸と運動をリンクさせたエクササイズにもチャレンジしよう。
「本来、呼吸は脳が無意識にコントロールし、状況により変化させるもの。鼻呼吸エクササイズで行うスクワットは筋トレと異なり、動きの中で呼吸をコントロールするのが目的です。体勢に応じて適切な呼吸法を脳が臨機応変に選択できれば、姿勢の安定にもつながります」
続いて行うのは、呼吸量を大幅に減らした状態でのいわば“低酸素トレーニング”的なエクササイズ。
「強度の高い運動時には口呼吸もやむを得ませんが、最終的には鼻呼吸でも有酸素運動がスムーズにできるようになるのが理想。カラダに取り込める最大酸素摂取量(VO₂max)も高まります」
スクワット呼吸で姿勢を安定させる
横隔膜の上下動に伴う重心の変化(吸う=下がる、吐く=上がる)と、カラダが上下する動きをさまざまに組み合わせ(ただし「吸いながら立ち上がる」は重心移動と動きが真逆になるため行わない)、呼吸のコントロール力を高めるエクササイズ。
各10回繰り返す。息が乱れたら途中で中止し、休んで息を整えてから再開しよう。
鼻呼吸+有酸素運動トレーニング
酸素摂取量をなるべく減らした状態での運動にカラダを慣らすのが狙い。椅子に座って鼻の下に指を当て、細く小さく調整した呼吸を感じながら足踏みを4分間続けよう。有酸素運動なので、多少の苦しさを感じつつ行うのもポイント。