上手に減らして、向き合う。ストレスの解決法7つの心得
意思に関係なく容赦なく降りかかるストレス。うやむやにせず、軽やかにかわしながらストレスに負けないメンタルを培える本質的な対処法を、今こそ心得ておこう。今回は、特に現代の40代以降に向けた、ストレスマネジメント7つの心得を紹介。
取材・文/門上奈央 イラストレーション/東海林巨樹 取材協力/武神健之(産業医)、南舞(臨床心理士、ヨガ講師)
初出『Tarzan』No.859・2023年6月22日発売
目次
心得① 自分を労うメンテナンスを日課に
気分転換や運動不足解消のために続けているフィットネスも、日々のスキンケアなどの美容ルーティンも全てメンテナンスの一環。
「普段は何気なく実践しているような自分自身のケアも、健やかに生きていくうえではとても大切なものです。セルフケアができている男性は幸福度が高いという調査結果もあるほど」(公認心理師兼臨床心理士、ヨガ講師としても活動する南舞さん)
今、特に何もしていない人には“自分のことにそんなにかまってられない”“そこにはコストをかけたくない”などの考えが根底にあるのかもしれない。
「まだ自分には必要ないと自らを縛ってしまっている可能性もあります。でも、セルフケアを通して自分に手をかけるのは決して自分本位なことではなく、むしろ家族や周囲の人にも安心感や良い影響をもたらす行為なのです」
自分なんかがと思う人は大切な人のために始めてみるのもアリだ。
「ケアが習慣になり身なりが整うと、不思議と心も満たされるもの。すると家族に対する物言いが少し柔らかくなったり、家族以外の人に対しても穏やかな振る舞いができたりといい循環が生まれます」
心得② ストレス対処法の持ち駒を増やす
一問一答などでよく“ストレス解消法は?”と聞かれることがあるが、その答えを一つに絞らなければいけない理由はどこにもない。
「その時々の場面や気分に合わせ、複数ある対処法から選べるよう“持ち駒”を揃えておくと自分の助けに。ストレスの対処法(ストレスコーピング)は主に3つに分類できます。1つ目はストレスの原因を分析して対処する課題優先型。2つ目はストレスになることを一時的に避ける回避優先型。3つ目は気心の知れた人と共感し合う情緒優先型です」(南さん)
ストレスコーピングに関する研究では結果に性差も見られたそう。
「男性は課題優先型が得意な一方、情緒優先型が苦手という傾向がありました。確かに私のカウンセリングでも“この話を誰かにするのは初めて”と打ち明けてくれるクライアントは男性に多いです。
でも原因分析と対処だけでは苦しくなって当然なので、現実逃避した気分を味わえる行動をする回避優先型や、友達に話を聞いてもらう情緒優先型の対処法を持っておくと今よりもっと楽になれるはず」
心得③「手伝って」「教えて」をもっと気軽に
職場でも街なかでも困っている人がいれば躊躇なく手を差し出すのに、いざ自分がHELPを出したい状況に置かれるとなぜか尻込みしてしまうのは40代あるある?
「産業医としてカウンセリングをしていると、いわゆる“学歴が高い”男性ほど弱みを見せられない傾向が。弱い自分を受け入れることがまずは大切です」(産業医の武神健之さん)
ここでも、やはり性差が見られると南さんは感じているそう。
「女性は困り事があれば職場の仲間や友達に相談したり、手助けし合う傾向がありますが、男性は一人で抱えようとしてしまう。今なお社会に残る“男らしさ”という価値観の影響から逃れるのは難しいこと。
でも今の20〜30代には助けをうまく求められる人が増えてきた印象もあります。40代の方も誰かに助けてもらう経験をしては。小さなことでいいので最初は家族など親しい人に“〜をやれるようになりたいから教えてくれる?”“手伝ってもらえる?”などと声をかけてみる。苦手だから、難しいからと弱さを自己開示しなくても手を差し伸べてくれるはず」
心得④ SNSとの付き合いはほどほどにする
SNSは現代人のインフラ。もはやオンライン上のコミュニティなくして今の生活は成り立たないが、その弊害も再三語られている。
「かつては生きることに必死にならざるを得なかった時代もありましたが、現代の日本は食に困ることもなく、自己実現に欲求を向けられます。ただSNSの影響もあり、オンライン上で常に人と繫がれてしまうことに疲れている人が多いのは言わずもがな。良くも悪くも情報洪水社会で自分がどこまで受け入れられるか、取捨選択の手間もかかるように」(南さん)
その徒労感を濃く味わったのはコロナ下だという人も多いはず。
「とにかく流れてくる情報が多かったですね。いろんな人がいろんな情報を発信していること自体がストレスになった人も数多くいました。
ダイエット情報を集める場合にも同じことが言えますが、SNSで情報収集する時には流れてくるものを全てそのまま受け入れるのではなく、“これは自分に必要だろうか”と、ある程度精査しながら見ていくなど情報を鵜呑みにしない力を鍛えたいものです」
心得⑤ 自分の中に価値基準を持つ
“かっこいい”と感じる基準も自分が描く理想像も、この歳になればそう簡単にはブレない。と思っていても、“40代にもなってこれはないよな”などと自分を戒めることがあるとすれば、その価値基準は一度見直した方がいいかも。
「それこそダイエットでも“みっともない体型だと思われたくないから”といった動機であれば、そのためにわざわざ頑張っている食事改善や運動習慣でふとつまずいた時、自分を見失うこともあるのではないでしょうか。何のために痩せたいのか、それを決めるには自分のための価値基準が必要だと私は思います」(南さん)
その価値基準を決めるうえで心得ておきたい前提がある。
「若い頃にはどうしても戻れません。昔の体型や体力と比べることにそもそも無理があるので、アンチエイジングにあまりこだわると、過去に執着することになり、苦しい気持ちになると思います。
昔と今と未来を切り分けて、今の自分の基準をそのつど見つけたいもの。もちろんこれはダイエット以外のことにも言えることです」
心得⑥ 自分自身に戻れるサードプレイスを確保
「僕のクライアントには、メンタルの調子を崩して仕事を辞めても家族には言えないという人が少なくない。でもストレスに対処するには、自分の気持ちをいつでも何でも話せる人がいることが一番大事。
それはカウンセラーや医者ではなく、友人や家族のなかにそういう存在がいるかどうかなんです。職場にも家庭にも居場所がないのなら、サードプレイスを作りましょう」(武神さん)
第3の居場所の重要性は南さんも痛感しているそう。
「今までカウンセリングをしてきて、サードプレイスにいる時にストレスを感じているという話を聞いたことがなく。仕事か家族かの二択でなく、それ以外に見つけるのはとてもいいと思います」
どうすれば見つけられるのか。
「とにかく趣味を持つこと。趣味の場で仲間ができ、コミュニティも自然と広がっていくでしょう。趣味が充実している人のメンタルヘルスはまず大丈夫。話せる仲間がいるし、会社と家庭で自分の存在価値を見出せなくてもアイデンティティを保てます」(武神さん)
心得⑦ ただただカラダを動かす時間をつくる
心がもやっとしていると感じたら、とりあえずカラダを動かす。そういう時間を定期的に設けることが、ストレスにも強くなる近道。
「カラダを動かすことはシンプルにストレス発散になりますし、思考から離れてカラダを使うことでいったん気分を切り替えるのは効果的。例えばヨガには、ストレスが溜まると分泌量が増えるコルチゾールを減らし幸せホルモンことセロトニンを増やす効果があり、自律神経も整えられます。ヨガに限らず、適度な運動は精神面にも利点があるのです」(南さん)
40代のストレス要因の一つであるホルモンにも運動はやはりキク。
「特に男性の更年期はテストステロンの減少が大きな原因なので、それを増やすのが症状改善に繫がると僕は思います。現時点で明確に言えるのは、筋トレはテストステロンを増やしますし、有酸素運動も、運動を全くしないよりは健康にいい。続けるうちにカラダが変わればそれが自信になり、食事改善にも積極的になる。運動はいろんなことがうまく回るきっかけになります」(武神さん)