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リモートとリアルのハイブリッドワークが定着した昨今。リモートは物理的な負担軽減には繋がる一方、人と対面で話す重要性に気づいた人も多いのでは? 実はそれ、自律神経のうち、「腹側迷走神経」という副交感神経が関わっていた。何事もオンライン、ネットに依存しがちな“交感神経優位時代”が抱える6つのリスクを紹介。
「コロナ後の今、リモートとリアルのハイブリッドワークが定着しました。一般的にリモートでは自分のペースを保つのが難しく、リアルでは物理的に忙しい。働きやすさを求めているのに、どちらの良さも生かしきれていない感触がありますね」
と言うのは作業療法士の菅原洋平さん。企業セミナーなどで働く人々の生の声を聞くことが多いというが、
「とくにリモートでは会議と会議の合間がなく、立て続けの会議でストレスを感じている人が多いように見受けられます」とのこと。
また、言葉や文字だけのやりとりのリモートに比べ、人と対面するリアルワークでは相手の表情や振る舞いが目に見えるので話が通じやすい。実はその部分こそが重要だと気づき始めた人が多いのだとか。これ、実は自律神経と密接に関係している話。キーワードは次項の「腹側迷走神経」。
リモートワークは孤独な作業。他人との繫がりやサポートがない中で淡々と仕事をすることになるので、誰かと達成感や感情を共有する機会がほとんどない。
「そうなると腹側迷走神経という神経活動が低下します。この神経は副交感神経の一種で、交感神経を抑制する働きがあるとされています」
これはポリヴェーガル理論という新しい自律神経の捉え方。人は進化していく過程で豊かな表情を作り、相手に気持ちを伝える腹側迷走神経を獲得したという。
「腹側迷走神経の働きが低下することで交感神経が前面に出て、ひたすら活動し続けることになります。交感神経活動は心身ともに消耗が激しく、沈静化しにくい。だから夜よく眠れなくなる。睡眠の弊害の相談をよく受けますが、背景にはそんな神経の働きがあるように思います」
腹側迷走神経の働きが低下して交感神経が過剰に働くと、今度は交感神経がバーストして背側迷走神経が前面に出てくるという。こちらはカラダを低代謝状態にさせて生命維持を最優先にする最も原始的な神経。
「背側迷走神経が前面に出てくると人は動けなくなり、フリージングという“死んだふり現象”が起こります。これにはふたつ種類があって、上司とのトラブルなど恐怖で動けなくなるケースと、安定した地位にある人がふと“自分の人生は何だったんだろう”と感じ、停滞して動けなくなるケースがあります」
恐怖にとらわれても安全すぎても発動する背側迷走神経。それが高じてうつ状態に陥ることも。
ただし、社会的な繫がりを持ったり家事の一部を行うことで家族にお礼を言われたりすると、腹側迷走神経が働いて蘇生状態に持っていけるとのこと。
睡眠以外に菅原さんがよく相談を受けるのが、物忘れや思うように言葉が出てこないという類いのもの。自分が専門にしている分野の言葉が出てこないことに衝撃を受け、認知症ではないかと疑う人も多いという。
「原因として考えられるのは、情報過多で脳のワーキングメモリーを使いすぎ、自前のネットワークを活用できなくなること。ネット検索ではいきなり、これが正解ですという答えが出てきますよね。
そうなると自分で考えたり記憶にアクセスする暇もなく、情報をストックすることに神経活動が奪われます。脳内で検索する必要がないから語彙も減ります。だから、いざ喋ってくださいというときに喋れなくなるわけです」
情報でワーキングメモリーがパンパンになっている状態は交感神経が優位になっている可能性大。何事もネット頼みになっていないか?
タイパ重視でオンライン授業も映画も倍速で流す時代。
「情報を理解するだけなら倍速で見ても構いませんが、理解して使おうとなると考えるために時間を割く必要があります。情報を見た後に“動かない”ならその情報はいらない、と僕はよく言うんですが、今の時代は活用しないのに、単に知っているという情報がとても多い。それが早回しのファスト教養です」
情報の中のエッセンスを汲み取って行動に繫げる。本来ならばそれが情報を取得する最大の目的。ところが現代では“目新しいもの”や“映えるもの”のみに注意を向けがち。
「これはドーパミンが発火した交感神経優位な状態。新しいキーワードに飽きたら、また次の新しいことを探すことになります。そんな“映え疲れ”の果てにデジタル断食をするという流れも出てきています」
コロナ禍に突入してからタイムマネジメントの能力が二極化した、と菅原さんは言う。
「もともと自分をコントロールしている人はリモートワークが楽にできます。でもリアルワークで会社に行ってから何をするか考える人は時間の配分ができません。
後者の人々は肝心なことになかなか手をつけず、ようやく手をつけると今度は最後までやらないと気が済まない。結局、交感神経を働かせ続けて夜になってもなかなか眠れないということに」
生産性の高い人は睡眠の質も高い。生産性の最大値を100%として4段階の自己評価をしてもらい、睡眠の時間と質を比較。生産性が高い人ほど睡眠の質がいい傾向にあった。
会社に行ったらまずメールの返信、ではなく自分のパフォーマンスを上げる最適の設定をする。たとえば単純にデスクを片付けて効率を上げるといったことでも構わない。どのくらいの配分で何をするか。タイムマネジメントが上手にできれば自律神経のバランスもおのずと整い、夜もぐっすり眠れるはずだ。
取材・文/石飛カノ 取材協力/菅原洋平(作業療法士、ユークロニア代表) 写真/Shutter stock
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