気圧の変化が自律神経を乱す。その不調「気象病」かも?
自律神経を乱してカラダと心のさまざまな不調を招き、また慢性症状も悪化させるという「気象病」。その原因と、症状を悪化させる身近な原因を知っておこう。
編集・取材・文/オカモトノブコ イラストレーション/うえむらのぶこ 取材協力/佐藤純(医学博士)
初出『Tarzan』No.858・2023年6月8日発売
教えてくれた人
佐藤純さん(さとう・じゅん)/愛知医科大学客員教授、中部大学生命健康科学研究科教授。医学博士。疼痛・環境生理学を学び、名古屋大学教授を経て愛知医大病院で日本初「気象病外来・天気痛外来」を開設。
その不調、もしかして気象病かも?
雨が降ると古傷がうずく、台風が近づくと頭がボンヤリする…。天気の変化によるそんな心身の不調には、実はちゃんと根拠がある。
「地球上に住む人間には全身で常に15トン以上の圧力がかかり、これが自律神経のバランスを乱す要因になるのです」と話すのは、“気象病”の研究と臨床治療の第一人者として知られる佐藤純さん。
天気の変化が引き起こす不調は実に多岐にわたり、気象病研究の先進国・ドイツでは、実に30種類もの症状が認められているのだとか。
「国内の2015年の統計では、片頭痛を除いた慢性痛だけでも実に4人に1人が気象病の可能性が高いと明らかに。また私自身が2年にわたる臨床の統計をまとめたところ、気象病は働き盛り世代に多く、また頭痛、首・肩こりで全体の65%ほどを占めていました」
気象病から来る不調を“原因不明”と放置したまま、休職や退職を余儀なくされる人も増加中という。生活の質向上という観点からも、決して無視できない問題だ。
ほかにも心身に表れる不調は多々
- 腰痛
- 古傷の痛み
- うつ・不安症
- 眠気
- 気分の落ち込み
- 倦怠感
- めまい
- 耳の痛み
- 聴力の悪化
- 耳鳴り
- 関節リウマチ
- 神経痛の悪化
- 肩こり
- 首こり
内耳の気圧センサーが交感神経を興奮させる
天気が悪い=低気圧だから不調になる、と誤解しがちだが、気象病の原因をズバリ、ひと言で表すなら「気圧の変化」にあるという。
「耳の奥には、リンパ液で満たされた内耳という部分があります。ここに、気圧を感じ取るセンサーが存在すると考えられるのです」
もう少し具体的に見ていこう。
「気圧を変化させた実験では、平衡感覚をコントロールする前庭神経が反応。この情報が脳へと送られ、“カラダが回転している”という脳のカン違いがストレスとなって交感神経が興奮し、自律神経が乱れると考えられています」
内耳には平衡感覚を司る三半規管や前庭、音を感知する蝸牛などがある。この中に気圧センサーが存在し、前庭神経から脳を経由して自律神経にさまざまな影響を与えると考えられるのだ。
交感神経が過剰に働くと血管が収縮し、血流が低下して不調を増幅させる。一方で内耳自体の血流も低下し、リンパ液の滞りによるむくみで、気圧のセンサー機能にさらなる悪影響を与えるのだ。
「痛みそのものも交感神経を興奮させる要因に。気象病がさらに悪化する“負のスパイラル”を防ぐには、早めの対策がお薦めです」
気象病を悪化させる身近な4つの原因
① 湿度|ジメジメした不快な湿気が内耳のむくみと不調を招く
気象病にとって、最も“鬼門”といえるのが梅雨のシーズン。降雨による気圧の変動をはじめ、ジメジメ、ムシムシした高い湿度も大きく影響するという。
「近年、人間の皮膚に湿度を感知するセンサーが備わることなどが研究で解明され、関節リウマチや熱中症との関連性も深い。こうした湿気は東洋医学的に“湿邪”と呼ばれ、カラダが余分な水分を溜め込むことで内耳がむくみ、自律神経にも悪影響を及ぼすと考えられるのです」
② 姿勢|座り仕事が多い人は注意! 歪んだ背骨が神経を圧迫
患者の初診に際し全身の骨格と可動性も含めた首のX線画像を必ず撮影するという佐藤さん。「気象病に悩む人は、ほぼ漏れなく姿勢が悪化した状態」と言う。
「特にデスクワーク中心のビジネスマンでは、首の自然なカーブが失われたストレートネックや、頭が前に出たフォワードネック、猫背の人が大半です。こうした歪みが背骨に並走する自律神経を圧迫するうえ、胸まわりが縮んで呼吸が浅くなり、自律神経をさらに乱す可能性も」
③ 更年期|ホルモンの減少によって自律神経の乱れが増幅する
ホルモンバランスの乱れが自律神経に影響するのはよく知られた話。「更年期=女性のイメージがありますが、ホルモンの減少に影響を受けるのは男性も同じ。むしろ生理周期による心身の変調に慣れっこな女性に比べて、若い頃とのギャップが大きく、気象病が重症化する働き盛りの男性は非常に多いです」と佐藤さん。
疲れやすさや倦怠感、集中力の低下、急な気分の落ち込みといった予兆がカラダとメンタルに表れ始めたら、要注意だ。
④ 乗り物|高速&高低差のある移動が気圧差によるリスク要因に
高速または高低差の激しい移動は気圧変化を生じやすく、症状悪化のリスクに。
「飛行機の離着陸時をはじめ、高層ビルでの勤務やタワマン住まいで体調を崩しやすくなるのも、よくあるケースです」
新幹線で特に注意すべきは、トンネルの突入時だという。「先頭車両の気圧は上がり、後方では減圧して、その気圧差は小型台風に匹敵するほど。逆に影響が少ないのはグリーン車のある中央付近の車両」とのこと。旅行や出張時の参考に。
なりやすいタイプ別気象病チェックリスト
気象病を引き起こす要因は人によりさまざま。当てはまる項目が多い人は、セルフケアで対策をしよう!
- 何となく雨が降りそうだとわかる
- 乗り物酔いをしやすいほうだ
- 高いところが好きではない
- 耳抜きが苦手である
→内耳が敏感なタイプ
- 台風が近づくと気が滅入る
- 季節の変わり目に体調を崩しやすい
- 雨が降る前に眠くなりやすい
- 夏はのぼせやすく、冬は冷えやすい
→体質的に天気の影響を受けやすい
- 真面目で几帳面なタイプだ
- 頭痛持ちである
- ストレスが多い生活をしている
- 骨折などのケガをしたことがある
- 首こり・肩こりがある
→気象病になりやすい要因がある
- むくみが出やすいほうだ
- 蒸し暑い、湿気が多いのが苦手
- 汗をかきにくいタイプだ
- デスクワークが多く運動不足
→梅雨の高い湿度で調子を崩しやすい