自律神経ってなに? 基礎から学ぶ「働きと特徴」
再提案続きの社内プレゼン中は心臓バクバク喉カラカラ、ランチ後の公園のベンチでは瞼が落ちてヨダレがツツー。自らの意思でそうしているわけではない、これらの身体反応はすべて自律神経のなせる業。カラダの中では、どんな役割を果たしているのだろうか?
取材・文/石飛カノ イラストレーション/高橋潤 監修/佐藤純(中部大学生命健康科学部教授)
初出『Tarzan』No.821・2021年10月7日発売
目次
ふたつの自律神経のバランスがカラダの動きを支配
ヒトの神経は中枢神経と末梢神経の2種類がある。中枢神経は脳と背骨の中を走る脊髄のこと。末梢神経は視覚、聴覚、触覚などの情報を中枢に送る感覚神経、中枢から筋肉に指令を送る運動神経、そして内臓をはじめとする各組織の身体反応に関わる自律神経だ。
で、自律神経はさらに交感神経と副交感神経という2つの種類があり、同じ組織に対して拮抗的な役割を果たしている。
心臓バクバク喉カラカラは交感神経、瞳孔収縮ヨダレツツーは副交感神経の仕業。上司の質問攻撃という敵と闘うときは交感神経、昼下がりの休憩時には副交感神経がカラダを支配する。すべてはヒトが生きていくための絶妙なバランス。
交感神経と副交感神経の拮抗支配
交感神経は胸と腰から、 副交感神経は頭とお尻から
ココロが心臓にあるとかつて思われていたように、自律神経のイメージはどこか漠然としている。まずその在り処について知っておこう。
交感神経は胸から腰にかけての脊髄のすぐ側を走っていて、そこから脊髄の外にある「交感神経管」にいったん集まり、一部の神経は「交感神経節」という神経の繫ぎ目を経由して各組織に至る。
副交感神経は脳神経の中の動眼神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経から目や口、内臓に向かって走り、ちょっと離れた骨盤にある仙髄神経からも骨盤周辺の標的内臓に向かって延びている。
交感神経と副交感神経のルートマップ
副交感神経は交感神経のような「管」と呼ばれるセンターを持たず、ひとつひとつがフリー走行で標的ギリギリ近くで神経の繫ぎ目の「節」を経由し、各臓器に至っているのが特徴だ。
交感神経は胸と腰、副交感神経は頭とお尻に端を発して全身を二重支配しているのだ。
交感・副交感神経が単独で支配する組織もある
基本、交感神経と副交感神経は同じ組織に至って拮抗的な役割を果たしているが、例外もある。たとえば汗腺と立毛筋(鳥肌を立てる筋肉)に関しては交感神経の単独支配で、唾液腺はどちらの神経が興奮しても唾液を出す。
心臓バクバクの状態は交感神経の末端からノルアドレナリンという情報伝達物質が分泌されて起こる反応。昼下がりの公園では副交感神経の末端からアセチルコリンという物質が分泌されて心臓が穏やかに拍動する。これが拮抗支配。
一方、例外的な支配の場合は交感神経や副交感神経にタッチ交替というわけにはいかない。各々の神経活動の量を調節して、汗をかいたり、鳥肌をひっこめたりしているのだ。
自律神経は体内時計とリンクして働いている
「自律神経」という名前だけれど、なにも自律的に好き勝手に動いているわけではない。脳の中には一日のバイオリズムを刻んでいる場所がある。その中枢は主に脳の視床下部という部位。体温、血圧、ホルモンの分泌量、すべての生体反応は視床下部が刻むこの「体内時計」リズムによって支配されている。
概日リズム(サーカディアンリズム)
朝目覚める前にはコルチゾールというホルモンが分泌されて血糖値を上昇させる。目覚めて活動を始めると血圧や体温が上がり、日中は活動がピークになり、夜は眠りを促すメラトニンというホルモンが分泌される。
こうした体内時計リズムに寄り添い、交感神経は主に日中に、副交感神経は夜間に優位に働く。
自律神経の持続的支配は24時間続いている
基本的に交感神経は日中、副交感神経は夜間に優位に働くと考えていい。ただし、一方の神経が活動しているとき、もう一方の神経は完全に休んでいるわけではない。交感神経も副交感神経も1日24時間、常に活動を続けている。
神経活動とは神経細胞が興奮することによる電気信号の発火だ。通常が「パン、パン、パン」と規則的な発火のリズムだとすると、神経が興奮するときは「ババババババ!!」と強く速い発火リズムとなる。
交感神経が興奮して勢いよく発火しているとき、もう一方の副交感神経の発火レベルは小さくなる。ふたつの神経は1日24時間の持続的支配を維持しながらシーソーのように上下動するのだ。
自律神経パワーは10代がピーク
自律神経のトータルパワーは一定枠が決まっていて、その枠内で交感神経と副交感神経が活動量をやりくりしている。これは何もしなくても消費するエネルギー、基礎代謝が1日1200キロカロリーなら1200キロカロリーの範囲内で呼吸や内臓の働きを維持しているのとよく似ている。
そして基礎代謝が年齢によって低下していくように、自律神経のパワーもまた、加齢によって落ちていく。
下のグラフをご覧いただこう。基礎代謝は20〜30代までそこそこ維持されるが、それとは異なり、自律神経パワーは10代をピークにかなり直線的な右肩下がりのラインを描いて低下する。なんと、40代では10代のパワーの半分以下に(!)。
年齢別に見る自律神経の総パワーの変化
パワーの低下で交感神経が暴走することも
哀しいことに歳を経るに従って自律神経パワーは落ちていく。とくにストレス時、心拍や血圧を上げて頑張る交感神経は疲れてパワーを失いがち。ただ、パワーが落ちる一方ではやがて困ったことに。
前述したように、カラダの各組織は自律神経の持続支配で常にある程度興奮している。たとえば血管は交感神経の刺激によって常に若干収縮しているが、パワーが低下すると広がってくる。これでは血圧が下がってカラダ的には非常にまずい。
血管側は反応が敏感になり、今か今かと交感神経の刺激を待つ。そこにわずかな刺激が入ると過度に血管が収縮、高血圧を引き起こすことも。これがパワー低下による自律神経系の暴走だ。恐ろしや。
自律神経の若さを保つには?
では自律神経パワーの加齢低下にはなす術がないのか? いいや、そんなことはない。きちんと休息をとれば自律神経は回復する。
まずは質のいい睡眠をとる。悪夢を見たり歯ぎしりをすると交感神経系が過度に働いてしまうからだ。副交感神経を無駄に働かせないよう夕食を早めに終え、消化器系を休ませることも重要だ。夜間はできるだけ脳の興奮を鎮めて交感神経系を労ることも忘れずに。
一方で運動で汗をかく、マイルドな寒冷刺激に身をさらすなどして自律神経機能を適度に働かせることもトータルパワーの維持に繫がる。もし「自律神経年齢」というものがあるなら、その年齢の最高の状態にもっていくよう努めたいもの。