適度なストレスが人間の成長には必要!?
「ストレスはカラダに悪いもの」という常套句がある。これは、生理学者のハンス・セリエ(1907〜1982)がネズミを対象にストレスを与えた実験に由来する。
ハンス先生はネズミに対し、外部から寒冷、外傷、失病など様々な有害な因子を与えた。その結果、共通して副腎機能の肥大、脳やひ臓の萎縮、胃腸の潰瘍・出血の症状が現れたという。つまり、生体は生死に関わる刺激を受けたとき、それらに適応しようとして一定の反応が起こすことがわかったのだ(※)。
この考え方が広まったせいか『ストレスがあると病気になってしまう』と捉われがちだが、それは誤解だという。
「ハンス先生の提唱するストレスは、冷却地獄の灼熱地獄のどちらかを選ぶような生死に関わる環境によって生じたものです。上司に怒られた、恋人に振られた、食べるものが気に食わなかった、といった日常的に発生するストレスとは別物で、こちらが病気につながったという証明はされていません」(ゆうメンタルクリニック院長・ゆうきゆうさん)
実はハンス先生もこの誤解に気づき、「ストレスは人生のスパイスである」という言葉を後に残している。「嵐は若木を鍛える」という言葉があるように、ヒトは本来、ストレスを糧に成長できる生き物なのだ。
※…『生命体としてのストレス反応−キャリア教育におけるストレス・コントロールのための考察−』九州栄養福祉大学・東筑紫短期大学 キャリア教育推進支援センター長・講師 中村吉男 著より
ストレスが抱えているのは負の側面だけではない。
しかし、精神力や体力を消耗してしまうほど「ストレスが溜まっている」と感じることもあるだろう。では、ストレスがはびこる現代社会において、ストレスと上手に付き合っていくコツはあるのだろうか?
「ストレスを悪いものとする誤った思い込みこそ、暗示的に悪い作用を及ぼす恐れがあると私は考えています。生きているかぎりストレスは付き物ですので、どうやって避けるかを考えるより、ポジティブに捉える習慣を身につける方がいいでしょう」
ボストン大学医学部のレウィナ・リー准教授による調査では、楽観的にストレスを受けることが長寿と健康的な老化を促進する可能性を示している。
とはいえ、ストレスを正面から受け止めてしまう性格の人にとっては、その考え方を今すぐ変えるのは難しいもの。どのようなマインドセットであるべきなのか?
「仕事で失敗したのなら、悔しさをバネに仕事を頑張る。恋人に振られたのなら、負の感情をバネにもっといい相手を見つける。人間は、適度なストレスであればバネにして成長することができます。そういった意味では、ストレスを楽観的に受けることは人生の質を高め、寿命を長くするためのスパイスとして受け止めるのがいいと思います」
苦しさの元凶であると思っていたストレスが持っているのは、実は負の側面だけではないと知っておくことから、少しずつ心持ちが軽くなれば幸いだ。
ストレスを感じやすいHSPの人はどうする?
昨今、ストレスを含めたを過剰に感じ取ってしまうHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)が注目されている。これは1996年に心理学者・エレイン・N・アーロン博士が提唱した言葉で、調査によると5人に1人が該当するという。
このHSPの特性を持つ人は、通常よりも物事に対して敏感に反応してしまうため、人から何か言われたときに「これは悪口じゃないか?」「自分を否定しているんじゃないか?」とネガティブに捉えてしまう傾向が強い。そのため、うつになりやすいそうだ。
ゆうき先生によれば、以下の診断チェックリストで6つ以上該当する人はHSPの可能性が高い。
HSP診断チェックリスト
- 人の顔色をうかがってしまう
- 人が話している内容が気になる
- 騒音に悩まされやすい
- すぐにビックリする
- ニオイに敏感である
- 生活上の変化に混乱しやすい
- いっぺんに色んなことを頼まれると混乱する
- ドラマの登場人物に感情移入しやすい
- 美術や音楽に深く感動する
- 周りの人によく「敏感だね」と言われる
※出典… 「生きづらさの強い「HSP」~横浜心療内科マンガ」
とはいえ、自分自身を卑下する必要はない。人よりも敏感ということは、小さな変化に気づきやすく、行動も慎重になりやすい。
「HSPは病気ではなく気質なのでその点は安心してください。自分の思考パターンや行動傾向を把握して楽観的かつポジティブに受け入れていくことが大切です」
どうしても生きづらさを解消できない場合は、無理せず精神科医のカウンセリングを受けてみよう。ひとりで抱え込むより、突破口が見つかりやすいはずだ。