発症時の見極めの参考に。熱中症の4つの分類と対策
連載「コンディショニングのひみつ」。第55回は「熱中症の症状と水分補給」について。熱中症の症状はさまざまだが、実は4つの分類がある。予防としての「水分補給のコツ」とともに学んでいこう。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.862・2023年8月3日発売
熱中症は4つの種類に分けられる
本連載ではこれまで2回にわたり、熱中症の原因や対策を解説してきた。最後に、熱中症で引き起こされる症状やその分類、対策として効果的な水分補給の方法を紹介しよう。
熱中症の症状はさまざまだが、実はそれぞれ病名のついた分類がある。発症時の見極めとして参考にしたい。
熱失神…暑熱環境によって起きる、皮膚血流の著しい増加・多量の発汗により、脳への相対的な血流が一時的に減少。これによって生じるめまいや立ちくらみなどのことを指し、失神に至る場合もある。
熱痙攣…汗で失われた塩分の不足により生じる、筋肉の硬直(こむら返りなど)や痛みなど。手足の運動障害も多く発生する。
熱疲労…脱水が進行し、全身に倦怠感・虚脱感(だるさ・集中力の低下した状態)をともなう。頭痛、気分の不快感、吐き気や嘔吐などが起こり、放置すると次項の「熱射病」に至って命にもかかわる。
熱射病…中枢神経症状や腎臓・肝臓機能障害、さらに血液凝固の異常まで生じた状態。普段と違う言動やふらつき、意識障害、全身の痙攣(ひきつけ)などが表れる。
ただし、これらの症状はタイミングや個人の諸条件で刻々と変化する。必要なのは、早期に異常を把握して対策・治療につなげること。そのため日本救急医学会では、臨床データに照らした重症度をⅠ~Ⅲ度の3段階に分類している(下図)。
熱中症の重症度
【Ⅰ度】は臨床症状から見ると「熱失神」「熱痙攣」に該当し、通常は現場での対応が可能。冷所での安静、体表の冷却、経口での水分とナトリウム補給が必要となる。
【Ⅱ度】は「熱疲労」に当たり、これらの症状が表れたり、Ⅰ度に改善が見られない場合は医療機関へ。
【Ⅲ度】は「熱射病」となり、医療関係者により診断されるもの。入院加療(場合により集中治療)が必要。
予防には「ウォーターローディング」も効果的
さて、熱中症への対策として水分・塩分(ナトリウム)の補給が不可欠なのは周知のとおり。小腸ではナトリウムとブドウ糖が1対1で吸収されるため、応急処置にはこれらを含む経口補水液が多く用いられる。
また予防という観点からは、ナトリウムとあわせて細胞の水分バランスに作用するマグネシウム、カリウムなどのミネラルをバランスよく摂取するのが望ましい。これらを含む市販のタブレットなどを、発症時の対策としても常備するといいだろう。
最後に効果的な水分摂取法として、試合前のアスリートも実践する「ウォーターローディング」を紹介しよう。喉が渇く前にこまめに補給することで、カラダが常に水分で満たされた状態を保つというものだ。
具体的にはコップ1杯(150~200mL)程度を6~8回、1日トータルで2Lの摂取を目安とする。ここには食事から摂る水分も含まれるため、その目的においてはパン食より、ごはんと味噌汁に代表される和食がより適するといえるだろう。
復習クイズ
答え:すべて