湿度や気流にも注意!熱中症対策のための「暑さ指数」とは?
連載「コンディショニングのひみつ」。第53回は熱中症対策として知っておきたい「暑さ指数」について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.860・2023年7月6日発売
そもそも熱中症はなぜ起こるのか?
今回からは3回にわたり、熱中症をテーマにその原因やコンディショニング対策を解説していく。
厚生労働省によると、そもそも熱中症とは「高温多湿な環境下において、体内の水分および塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、循環調節や体温調節などの体内の重要な調整機能が破綻するなどして発症する障害の総称」と定義される。
平常時であれば、カラダは体温が上がっても汗をかいたり、皮膚温度が上昇したりすることで、体温を外へ逃がす仕組みが働く。ところが体温の上昇と調整機能のバランスが崩れると、カラダにどんどん熱が溜まって熱中症の発症へと至るのだ。
注目したいのは「湿球黒球温度」
ここではまず、熱中症を引き起こす要因を「環境」という側面から見ていこう。一般的にイメージしがちなのは高い気温、強い日差しなどだが、見落としやすい要因として湿度、風(気流)の弱さなどがある。
そこで注目したいのが、1950年代、アメリカ海兵隊で熱中症のリスクを事前に判断するために開発された湿球黒球温度(WBGT/Wet Bulb Globe Temperature)という指標だ。
黒球付きで日射や輻射熱も測定できる「黒球式熱中症指数計」も手軽に入手できる。活動の際は、暑さ指数の測定にぜひ役立てたい。
運動や労働環境の指針としてその有効性が国際的に規格化され、日本では「暑さ指数」と呼ばれている。
この指標では人体と外気との熱のやりとり(=熱収支)に着目し、それに影響する「湿球温度(湿度)」「黒球温度(輻射熱=熱環境のこと)」「乾球温度(気温)」の3つの値が使われる。
WBGTの単位は気温と同じ摂氏度(℃)だが、数値の表し方が異なる。日射のある場合は【0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度】、日射がない場合は【0.7×湿球温度+0.3×黒球温度】と算出。
つまり気温だけの一般的な測定では、熱中症になりやすい環境を見落としてしまう可能性があるのだ。
運動を中止した方が良いWBGT(暑さ指数)は?
熱中症警戒アラートの発表は、このWBGTが33℃以上になる予報の場合。また公益財団法人日本スポーツ協会は「熱中症予防運動指針」(下の表)で、数値ごとの目安を公開している。
環境条件の評価にはWBGT(暑さ指数)の使用が望ましいが、乾球温度(気温)を用いる場合は湿度に注意。湿度が高い場合は1ランク厳しい環境条件の運動指針を適用のこと。
31℃以上~ 運動は原則中止:特別な場合以外は運動を中止する。特に子供の場合には中止すべき。
28~31℃ 厳重警戒:熱中症の危険性が高いので、激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避ける。10~20分おきに休憩を取り、水分・塩分の補給を行う。暑さに弱い人(体力の低い人、肥満の人や暑さに慣れていない人など)は運動を軽減または中止。
25~28℃ 警戒:熱中症の危険が増すので、積極的に休憩を取り、適宜、水分・塩分を補給する。激しい運動では、30分おきくらいに休憩を取る。
21~25℃ 注意:熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。熱中症の兆候に注意するとともに、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給する。
21℃未満 ほぼ安全:通常は熱中症の危険は小さいが、適宜水分・塩分の補給は必要である。市民マラソンなどではこの条件でも熱中症が発生するので注意。
特に運動を行う際は、この指標を用いてリスク管理を心がけていこう。
復習クイズ
答え:気温