スポーツ中のタックル、急な方向転換がリスクに。膝内側側副靱帯(MCL)損傷
連載「コンディショニングのひみつ」第46回。膝関節の障害と、そのコンディショニングについて解説するシリーズの7回目は「膝内側側副靱帯(MCL)損傷」について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.853・2023年3月23日発売
外側から強い力が加わり、膝の内側の靱帯が損傷する
膝内側側副靱帯(MCL)は膝の内側で大腿骨と脛骨をつなぐ、膝関節の4つの主要な靱帯のひとつだ。膝の外側からの力(外反ストレス)に抵抗して関節の内側が開くのを防ぎ、安定性を保つ役割を担う。
そして実は膝靱帯の損傷のうち、最も頻度が高いとされるのがこの内側側副靱帯だ。多く見られる受傷シーンは、ラグビーやアメリカンフットボールなどでタックルを受けること。膝の外側から強い力が加わって関節に外反や過度な外旋力が働き、損傷や断裂へと至ってしまうのだ。
コンタクトスポーツ以外でも発生する
発生原因としては大きく2つに大別され、まず前述のようなコンタクトスポーツ、また事故などが原因で膝が不自然な方向に曲がって損傷するのが“接触型”。
さらにサッカーやバスケットボールなどの急な方向転換、スキーの転倒やツイスト動作、バレーボールなど着地の瞬間に損傷するという“非接触型”がある。
内側側副靱帯は単独での損傷が多いものの、前十字靱帯(ACL)・後十字靱帯(PCL)損傷や、半月板損傷を合併することもある。
大変な痛みを伴うはずなのだが、スポーツ競技中は脳内にアドレナリンが大量に出て、痛みを感じないこともある。ブツッと切れる音とともに「気がついたら膝が“く”の字に曲がっていた」という人もいるほどだ。
膝内側側副靱帯(MCL)損傷の症状
症状としては熱感や圧痛、腫れ、曲げ伸ばしの痛み、荷重の際の外反や不安定感が見られるが、初期に適切な処置をすればACL損傷に比べて修復しやすい。
ただ軽度だと単に捻挫として取り扱われることも多く、急性期に処置をせず伸びた状態のままでは、半月板損傷などを誘発する場合もあるので注意が必要だ。
重症では手術を要することもあるが、多くの場合は基本的な処置と安静、運動療法で治癒する。以下に具体的なトレーニングを紹介しよう。
予防・改善トレ① 可動域と筋力の訓練
椅子に座って片脚の膝を伸ばし、5~10度の範囲内で曲げ伸ばしを行う。1セット20回とし、回復に応じて徐々に負荷を追加。
まずは座位での負荷がない状態から、少しずつ膝の曲げ伸ばしをしていく。特にここで行うレッグカールは屈曲を5~10度の範囲で行うことで、筋の動きが太腿の内側から膝下につながる内側広筋にフォーカスされる。
これは膝の伸展動作に働く筋肉のため、膝の安定性を内側から高められるのだ。できるようになれば、次のトレーニングも加えていく。
予防・改善トレ② 下肢の協調性の訓練
両足は腰幅で立ち、片足を後ろに引いて爪先を立てる。腰を落として前脚に体重をかけ、膝を軽く曲げ伸ばし。1セット20回。
立位姿勢で股関節から足首、さらに足裏も連動させて、膝関節に負担のない動きを身につけるのが目的。脚を前後に軽く開き、片脚でスクワットをするように荷重を加えて、膝を浅く曲げ伸ばしすることから始めよう。
最終的にはスプリットスクワットの要領で両脚のスタンスを広げ、膝の可動域を徐々に深めていく。
予防・改善トレ①は脚の重みでスムーズにできるようになれば、足首に巻くタイプのウェイトを追加して筋力を強化していく。重さは20回1セットをギリギリできる程度が目安だ。
予防・改善トレ①②は、いずれも負傷した側の脚で2~3セット、反対側の脚も1セットは行い、左右の協調性を高めることも意識したい。
復習クイズ
答え:内側広筋