ジャンプ衝撃や急停止がリスクに。膝前十字靱帯(ACL)損傷
連載「コンディショニングのひみつ」第44回。膝関節の障害と、そのコンディショニングについて解説するシリーズの6回目は「膝前十字靱帯(ACL)損傷」について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.851・2023年2月22日発売
膝関節の動きに欠かせない「膝前十字靱帯」
「膝前十字靱帯(ACL)損傷」は、膝の靱帯損傷のうち最も高頻度で発生する外傷だ。多くがスポーツに起因し、トップアスリートにも起きやすい怪我としても知られている。
前十字靱帯とは、膝関節の間で大腿骨の後方から脛骨の前方へとつながる強靱なコラーゲンの線維束のこと。脛骨が前へズレる「前方引き出し現象」を防いだり、関節の過度な回旋を制御したりして安定性を保ちつつ、膝関節を滑らかに動かすうえで欠かせない働きを担う部位なのだ。
急停止や着地の衝撃など、不測の動きで発生しやすい
ACL損傷の発生機序は本連載の前回テーマ「半月板損傷」と類似し、荷重がかかった膝に無理な動きや衝撃が同時に加わることで、両者が同時に発症する例もよく見られる。
受傷リスクのある具体的な動きとしては、他選手と衝突するコンタクトスポーツなどで膝に無理な角度の力が加わること、ジャンプによる着地の衝撃などが挙げられる。さらにACL損傷で特有のリスク要因として、フェイントや切り返しといった急停止を伴う動作がある。
また、例えば長距離ランナーにACL損傷は稀なのに対し、トレイルランニングなどで不安定な場所に着地する、足を滑らせるなどは高リスクとなる。つまりこうした不測の動きでACLが引き伸ばされ、断裂や損傷へと至ってしまうのだ。
なおACL損傷は比較的、女性アスリートに多いスポーツ障害ともいわれる。原因のひとつに関節の弛緩性(緩みやすさ)があり、これが月経周期にも影響されるという近年の研究報告もある。
また男性に比べて筋力が弱いことや、骨盤の幅が広く、膝とのラインにズレが生じやすいことなども要因と考えられている。
ACL損傷は手術が第一選択肢。予防としてのコンディショニングを
ACL損傷は大きな1回のアクシデントで発生し、激痛とともにブツッという断裂音や膝が外れた感覚、また関節に溜まった血液で腫れを伴うのも特徴だ。自然治癒は見込めず手術が第一選択肢となるが、治療には長期を要する。
そのため重要なのが、予防としての積極的なコンディショニング。以下からは、その具体的な方法を紹介していこう。
予防エクササイズ① 足首の強化
片脚立ちで膝を曲げてしゃがみ、バランスを取りながら同じ側の手を床にタッチする。正面・右斜め前・左斜め前の3か所で1セットとし、これを10回。反対側も行う。
ACL損傷は膝関節そのものより、実は足関節の緩さが関与することが多い。足首が不安定だと、膝の内反や外反、ねじれや過伸展といった無理な動きが生じやすいためだ。
そこで実践したいのが、こうした足首まわりの筋力を全方位的に強化するトレーニング。足底のセンサー(固有受容器)を刺激することで、バランス感覚も同時に養える。
予防エクササイズ② ハムストリングスの強化
うつぶせになり、片足の足首を90度に曲げてトレーニングチューブをセットする。腰が反らないように注意して膝を深く曲げ、ゆっくり戻して20回繰り返す。反対側も。
骨盤から膝下を腿裏で支えるハムストリングスが弱化すると、脛から下が前に出ようとする動きで前十字靱帯に負担がかかりやすい。
レッグカール(上述の種目)は腿裏を重点的に強化し、リスクとなる動きを後ろから補強するのに有効なトレーニング。内股やガニ股にならないよう脚をまっすぐ保ち、足首は90度に背屈させることも、ハムストリングスを効果的に収縮させるポイントだ。
復習クイズ
答え:ハムストリングス