転倒など直接的な膝への衝撃がリスクに。膝後十字靱帯(PCL)損傷
連載「コンディショニングのひみつ」第45回。膝関節の障害と、そのコンディショニングについて解説するシリーズの6回目は「膝後十字靱帯(PCL)損傷」について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.852・2023年3月9日発売
直接的な強い衝撃が受傷の原因に
膝後十字靱帯(PCL)とは、膝関節の中心部を前十字靱帯(ACL)と十字にクロスする形状で交差し、膝関節を支える重要な靱帯のひとつだ。関節上部の大腿骨では前側、下部の脛骨では後ろ側に付着し、膝関節がねじれる動きを支えたり、脛骨が後方へずれないように安定させたりする役割を担っている。
この後十字靱帯はACLに比べて太さと強度があり、スポーツ時などで不測の動きにより受傷するケースは後者が圧倒的に多いのに対し、後十字靱帯は直接的な強い衝撃が受傷につながりやすい。
特に膝を曲げた状態で前面に突発的な衝撃が加わると、剪断力(=逆向きの力によって断面に生じる滑りやズレ)が働いて脛骨が後方に押し込まれ、結果として靱帯が損傷してしまうのだ。
発症例はコンタクトスポーツや転倒など
具体的な発症例としては、ラグビーなどに代表されるコンタクトスポーツでタックルを受けたり、転倒するなどで地面に膝を強打すること、また交通事故で車が急停車し、ダッシュボードに膝下(脛骨上部)をぶつけて受傷する、いわゆる「ダッシュボード損傷」などが挙げられる。
後十字靱帯の受傷時には動けないほどの激痛を伴い、やがて徐々に炎症による腫れや熱を感じるようになる。このため急性期には疼痛によって膝を動かしづらくなり、可動域が制限されるようになる。
ただし多くが手術を要するACL損傷に対し、後十字靱帯損傷では炎症がやがて治まると痛みは軽減し、関節の可動域も改善される。とはいうものの、損傷直後の腫れが落ち着くと次第に関節の緩みが顕著となり、膝の不安定性が残ることが多い。
放置すると半月板損傷を併発したり、加齢とともに変形性膝関節症を発症しやすくなったりと、膝関節の大きなダメージとなるため注意が必要だ。
そのため受傷後はサポーターなどによる適切な保存治療とともに、膝関節の緩みをカバーする以下のような運動療法が特に重要となる。
運動療法の例① レッグエクステンション
股関節から膝をまたいで脛骨につながる前腿の大腿四頭筋を強化することで、脛骨が後方にズレ込むのを防ぐトレーニング。行う際は腰を反らさないように注意し、足首を90度に曲げて膝と爪先を正面に向けることもポイントだ。
大腿四頭筋がより効果的に収縮され、脛骨を前から引っ張る力をつけることで、後十字靱帯への負荷を軽減できる。力が入りにくい場合は上図のように椅子を手で支えたり、前腿に手を置いて動きを確認するのもいいだろう。
運動療法の例② バランスディスクスクワット
バランスディスクとは、空気を入れて膨らませる円盤状のトレーニング機器。この上でバランスを微調整しながらスクワットを行うことで、大腿四頭筋をはじめとした膝関節を支える筋肉が満遍なく鍛えられる。
その結果、どんな状況下でも力を発揮できる筋肉の協調性が養えるのだ。膝関節の障害予防だけでなく、スポーツの競技レベル向上に有用なトレーニングとしてもぜひ推奨したい。
復習クイズ
答え:大腿四頭筋