暑熱環境に慣れるのもポイント!「カラダ」と「行動」からみる熱中症の対策
連載「コンディショニングのひみつ」。第54回は「熱中症の要因と対策」について。本来であれば夏のピークを迎える前に行いたい「暑熱順化」と、身近にできる対策を学んでいこう。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.861・2023年7月20日発売
熱中症を引き起こす3つの要因
熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで体温調節機能がうまく働かず、体内に熱がこもった状態によって引き起こされる不調のこと。今回は、熱中症を引き起こす要因から対策を考えていこう。条件として挙げられるのが「環境」と「カラダ」、そして「行動」によるものだ。
1つ目の「環境」要因は、気温や日差し、湿度や風の弱さなど。次に「カラダ」は、乳幼児や高齢者、体調不良、暑さに慣れていないなどの要因が挙げられる。
そして「行動」の要因は、激しい・慣れない運動、 長時間の屋外作業、水分補給できない状況などのこと。
夏のピーク前に行いたい暑熱順化
ここまでを受け、まずは「暑熱順化」というキーワードから、夏のピークを迎える前に行いたい対策について説明しよう。暑熱順化とは簡単に言えば、カラダが暑さに慣れること。
ヒトは体温が上昇すると、汗をかいたり、心拍数の上昇・皮膚の血管拡張などで体表から熱を逃がしたりして、体温を調節している。ところがカラダが暑さに慣れず、この体温調整がうまくできなくなると、体内に熱が溜まって体温が上昇し、熱中症が引き起こされてしまうのだ。
暑熱順化のしくみ
暑さに慣れないと皮膚の血流が増えにくく、熱の放散もしづらくなる。汗に含まれる塩分も多くナトリウムが失われて、体温が上昇=熱中症に。こうした変化にカラダを対応させるため、必要なのが暑熱順化だ。
特に、気候が急に変化するタイミングは要注意。例えば5月でも暑い日は、最高気温25度以上の夏日、30度以上の真夏日になる場合も。また、雨で気温が下がったときの梅雨の晴れ間には、温度も湿度も高くなるため要注意だ。
さらに梅雨の間には暑熱順化がしづらく、梅雨が明けると熱中症による救急搬送者数が急増することも知られている。対策としては、カラダを暑さに慣れさせることが重要。
具体的には、気温が上がって熱中症リスクが高まる前に、運動や入浴などで日常的に、無理のない範囲で汗をかくことが効果的だ。暑熱順化には個人差もあるが2週間ほどかかり、アスリートが酷暑の国に試合で遠征する際は、初日の運動時間を10分程度にして徐々に増やしていくのがセオリー。
ここからも、時間に余裕を持って、カラダを暑熱環境に慣れさせていくのがポイントだと分かるだろう。
「カラダ」「行動」の要因への対策は?
また、「カラダ」において見落としやすい要因としては、寝不足などの体調不良がある。バランスの取れた食事を心がけ、熱帯夜でも寝苦しくない睡眠環境を整えるなど、日頃の体調管理をこの時季は特にしっかり意識しておきたい。
そのほか身近にできる対策としては衣類の工夫がある。熱や日差しを遮る帽子をかぶる、湿気のこもらない速乾性の服を着用するなど、熱中症のリスク要因を防げるものを選ぶように心がけよう。
「行動」要因に対しては、まず暑熱環境を避けるのがベストだが、それ以外にも、こまめな休憩や水分補給ができるといい。熱中症になった場合も同様に、まずは涼しい場所に移動し、カラダを冷やして体温を下げることが第一だ。
応急処置で冷やす部位
熱中症になったときの応急処置として、カラダの一部を冷やして体温を下げる方法がある。首筋や両脇、脚の付け根などを氷枕や保冷剤などで冷やすほか、皮膚に水をかけ、うちわなどであおいでもいい。
さらに、失われた水分や塩分を補給することも重要。次回は熱中症の症状の見極め方とあわせて、その効果的なチャージ法を紹介していこう。
復習クイズ
答え:2週間