中村直樹さん
教えてくれた人
なかむら・なおき/理学療法士。一般社団法人アジアNOVASTストレッチ協会代表理事。トレーナーとしてプロゴルファーの指導経験のほか、愛知・一宮市でコンディショニングサロン〈RIPS!!〉運営、運動器疾患のリハビリなども行う。
関節を取り囲む支持組織が安定した動きを生み出す
ローカル筋
ここでの主役で、深層部に存在するインナーの筋肉。1つの関節をつなぐ単関節筋で、関節包や靱帯を守る“動的な支持組織”の一面もある。関節の安定性に寄与し、運動パフォーマンスを上げ、疲れない・正しい姿勢を保つうえでも不可欠な筋肉だが、グローバル筋の緊張によって働きが妨げられやすい。
グローバル筋
2つ以上の関節をまたぐ多関節筋で、アウターマッスルと同義。カラダの大きな動きを行うときに働くが、姿勢の悪化や動きのクセなどで過剰に緊張して凝り固まりやすい。
目次
「回旋」の最終可動域で運動パフォーマンスをUPする“下後鋸筋”
肋骨の背面下部に位置する下後鋸筋。解剖学的に見ると、息を吸う際に胸郭の下側が狭まらないように引っ張り、横隔膜を安定させる「呼吸補助筋」としての役割がメジャーな位置づけだ。
下後鋸筋(かこうきょきん)の基本情報
- 起始:第11胸椎~第2腰椎の棘突起、胸腰筋膜
- 停止:第9~12肋骨
- 神経支配:第9~12胸椎の肋間神経
- 作用:吸気時、横隔膜に安定した支点を提供
だが、ワイヤー電極を用いた下後鋸筋の機能的な実験研究において、実はこれが体幹をひねる「回旋」の動き、しかも最終可動域において重要な働きを担うことが示唆されている。つまり、運動パフォーマンスを高めるのみならず、姿勢の保持にも不可欠な筋肉なのである。
そもそも、体幹の回旋は胸椎がその大部分を担う。ところがデスクワークなどで姿勢が悪化し、広背筋や外腹斜筋などのグローバル筋が過緊張すると胸郭下部の動きが制限され、胸椎の回旋を妨げる「チェストグリッピング」という現象が発生。
すると本来、回旋の機能をほとんど持たない腰椎が過剰に働くことで、腰痛などのリスクになりやすい。
実験では、下後鋸筋がチェストグリッピングを解除させる拮抗筋として働くことが判明。体幹が回旋する際は胸郭が連動して開くが、下後鋸筋はこれに関与していると考えられるのだ。チェストグリッピングの影響は側屈のやりづらさで判別できるため、STEP1のストレッチ(後述)でチェックしてみよう。
呼吸を深め、疲れない姿勢をキープ
体幹の回旋において、上肢(腕)を一緒に後ろへ回すと広背筋がメインに働く。一方で下後鋸筋は、上肢と広背筋の動きを抑制したうえで、体幹に特化した回旋に働くローカル筋としての機能を持つ。これが最大限に働くシーンの例としては、野球の投手やゴルファーが体幹をひねって振りかぶる動作などが挙げられる。
その他、スポーツ全般に体幹の回旋が必須なのはもちろん、下後鋸筋の働きは日常生活にも不可欠だ。胸郭の可動性を高めて呼吸を深め、チェストグリッピングを制御して疲れない姿勢を保つうえでも、この機能を役立てたい。
ローカル筋活性化エクササイズのやり方
STEP1 ゆるめる|グローバル筋ストレッチ
ローカル筋が持つ本来の機能を妨げるグローバル筋の硬さや緊張をゆるめる。ただし長時間伸ばしすぎると深層のローカル筋までが不必要にゆるんでしまうため、ストレッチは10~20秒までにとどめたい。
STEP2 活性化|ローカル筋エクササイズ
ローカル筋の働きを取り戻すエクササイズを行い、滑らかに動く体幹コントロールに必要な、筋肉の協調性が取り戻す。
STEP1 ゆるめる|グローバル筋ストレッチ
広背筋のストレッチ
硬くなると腕の挙上や体幹の回旋を妨げる広背筋をストレッチ。正座で膝を開き、体幹を前屈させてねじる。下側の手を上に向けて、腕から脇、体側部を10~20秒伸ばしたら、反対側も。
外腹斜筋のストレッチ
外腹斜筋が硬くなると、体幹の回旋が制限されて猫背の原因に。胸郭の拡張も妨げるため、ローカル筋が働きづらくなる。
脚を開いて立ち、片手を頭の後ろに当てる。肘を突き出すように側屈して、10~20秒ストレッチを。反対側も同様に行う。
STEP2 活性化|下後鋸筋トレーニング
親指を後ろへ向けて肘を直角に曲げ、上腕を水平に。これを動かさず体幹部の半身を後ろにねじり、3秒キープして戻る。
体幹だけを回旋させるのが目的のため、肘を引いたり、肩甲帯を寄せたりしないように注意を。10回繰り返して反対側も。