脳のために朝摂りたい食事は? 脳の働きが良くなる朝の行動【後編】
毎朝やる気が出ないのはそういう体質だと諦めていないか? 食事や起きる時間など、朝の行動次第でその日の脳の働きが変わることも。脳の仕組みを知れば、これまで以上に快適な一日が過ごせそうだ。今回は脳のために選びたい朝食や運動、ルーティンなどを解説。
取材・文/黒田創 イラストレーション/イマイヤスフミ(vision track)
初出『Tarzan』No.854・2023年4月6日発売
教えてくれた人
篠原菊紀先生(しのはら・きくのり)/公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授。専門は脳神経科学、応用健康科学。脳についての研究結果を広く紹介する。『クイズ!脳ベルSHOW』(BSフジ)の監修担当。
目次
Q. 脳のために朝摂った方がいい食べ物や飲み物は?
A. 地中海食のような健康食です
野菜や果物、オリーブオイル、魚類が豊富な地中海食は認知機能低下の予防効果があるといわれており、あらゆる世代の脳にとっても良い食事である。
「普段ジャンクフード中心の人たちが3週間地中海食を食べたところ、認知機能がてきめんにアップしたとの研究結果があります。地中海食は短期的に見ても脳への効果があると考えられます」
そのカギは地中海食に豊富に含まれるポリフェノール。これが脳細胞を活性化するのだ。
「食事が不規則な鬱病患者に三食しっかり摂るよう指導したら病状が改善したケースもあります。朝に地中海食は無理でもまずは三食しっかり食べる。食生活が乱れている人はここから始めましょう」
Q. 目が覚めたらすぐカラダを動かすorしばらく何もしない。どちらが脳が働く?
A. 何かしら動かした方がいいです
朝イチの運動がカラダにいいのは当然だが、脳にとっては?
「脳の働きという観点でも朝の運動は効果的です。すぐに走れる人はジョギングしても構いませんが、低血圧の人は布団の中で手をグー、パーと閉じたり開いたり、脚をゆっくり動かすだけでもいい。
朝は自然とドーパミンなどのやる気に関わる神経伝達物質が増加しますが、筋肉を動かすことでも体性感覚野が刺激され、脳が活性化することがわかっています」
わずかな運動でも朝の脳は活性化される。とりあえず手足を動かすことから始めよう。
Q. 起きてから何時間後が脳のゴールデンタイム?
A. 起床後2〜3時間後です
「起床時間がある程度安定している場合、起きる2時間ほど前から起床時にかけてコルチゾールというホルモンが増加し、起きてすぐ活動できるよう血糖値や血圧を高めますが、起床後はアドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質の値が2~3時間後にピークを迎えます。このあたりが脳のゴールデンタイムといえるでしょう」
アドレナリンやドーパミンを総称してカテコラミンと呼ぶが、これらはやる気ホルモンとされている。毎日同じ時間に起きて2~3時間後に作業するのが最も効率がアップするかもしれない。
Q. 朝の脳に適した作業は?
A. 前日の復習や確認作業が最適
朝は記憶の定着を強めるのに適した時間帯です、と篠原先生。
「基本的に人間の記憶の定着は夜、寝ている間に行われるため、頭に入れておきたい物事があったら、寝る前に情報整理をしておき、朝起きたときに改めて見直すなりして確認作業を行うと、よりしっかり頭に叩き込むことができる。これは勉強においても有効です」
また朝は一日の期待感を生み出す作業にも適しているという。
「今日はどの仕事をどんな手順で行うかTODOリストを起きてすぐに作るのもいいでしょう。ただ何となく仕事をこなすよりも、リストを作ることでモチベーションはかなり変わってくるはずです」
逆に、朝やってはいけないのが激しい運動。脳が十分活性化する前に動いても神経や筋肉への指令がうまく伝わらず、昼間やる場合に比べてケガのリスクが高くなる。体力自慢も朝の運動は軽めに。
Q. 仕事に着ていく服はパターン化する方が朝に脳を無駄づかいしない?
A. 服を選ぶワクワク感が得られれば無駄ではありません
「脳はいくら使っても物理的に減るわけではありませんが、慌ただしい朝に服を選ぶという意思決定行動は前頭葉をフル回転させている状態で、脳に負荷がかかっているのは事実。毎日の服をパターン化していれば、その分他のことを考える余裕ができるので、仕事のことなどに脳のリソースを割けるのは間違いないでしょう」
ただし、朝に服を選ぶことのメリットもあるという。
「気分を一新するべく普段と違うスーツを着るなど、パターン化しないことでワクワク感を得られればモチベーションアップにつながります。そう考えると毎朝の服選びは決して無駄ではありません」
Q. 朝はルーティンを実践した方がいい?
A. 無意識でできるようになるまでは効果的です
寝坊生活から早起きに切り替えたり、ストレッチをしたりと、これから朝の活動をルーティンにしたいと考えている人も少なくないはず。これらは言うまでもなくカラダにとっていいことだけど、脳への効果という点ではどうなのか。
「脳にとってのルーティンは、その行動を実践することで雑念を振り払うなど、気持ちの切り替えができて初めて効果が得られるもの。たとえば初めて朝活をする人にとってはその行動が新鮮で、脳内もクリアになっていると思われますが、やがてそれがパターン化してしまうと、最初に得られたような脳への効果は薄まります」
いいルーティンは継続しつつ、適度に行動を変化させたりルーティンを増やしていくのが脳にとってはベター、とも。
「朝活に限らず、朝トイレに行く時間を変えたり、家を出るタイミングを微妙にずらすだけでも脳には新しい刺激が入るのです。これらは無意識にやっているケースも多いはずで、つまり私たちはもともと自然とルーティンを取り入れたり変えていく性質を有しているのかもしれません」
Q. 朝はとりあえず血糖値を上げようと糖質中心に食べてしまうが、本当に脳は働いている?
A. 脳は働きますが注意が必要です
「カラダ全体で見ると脳の重さは2%程度ですが、脳は摂取するカロリーの20%程度を消費します。ゆえに朝、何も摂らないまま仕事しても脳のエネルギーは欠乏し、頭はボーッとしてしまいます」
ならば手っ取り早く脳を働かせる甘いものの方がいいってこと?と思いきや、さにあらず。
「甘い菓子パンなどで急激に血糖値を上げてしまうと、その後眠気に襲われて作業効率が悪くなる可能性がある。朝に糖質を摂るなら、血糖値を緩やかに上げて緩やかに下げるものがベター。ご飯や、ジャムなどをつけず甘くしないパン類がいいでしょう。これで脳もしっかり働いてくれますよ」