筋肉だけでは身を守れない。震災時のための「徒歩帰宅の装備」

連載「ジャングルブック」では、都市でも自然でも、いざという時の役に立つ“生き抜く力”にまつわる知恵を紹介。今回のテーマは「徒歩帰宅の装備」。

edit & text: Ryo Ishii illustration: Yoshifumi Takeda 監修・取材協力/伊澤直人(週末冒険会代表)※最新著作『焚き火の教科書』(扶桑社)好評発売中。

初出『Tarzan』No.854・2023年4月6日発売

Jungle book 伊澤直人週末冒険会代表 防災テクニック

震災時、自宅までの距離が20km以内であれば、徒歩による帰宅が可能だと一般的にいわれている。しかし、現実にはどうだろう。動きにくいスーツに歩きにくい革靴やパンプスで20km。

道には瓦礫が散乱し、火災が至るところで発生。落下物もいつ降ってくるか分からない。少しでも安全に、そして疲労を最小限に留めるためにも、徒歩帰宅の装備を備えておくべし。今回は、東京や大阪など大都市部を想定した徒歩帰宅の装備を紹介しよう。

装備を揃えるうえで考慮すべき4つのこと

装備を揃えるうえで考慮するべきことは大きく4つある。まず、道にはあらゆる危険が潜んでいること。前述の通り、瓦礫や火災、落下物など、一瞬の判断ミスが命取りになる場合も。動きやすい服装やケガをしにくい工夫は必須だ。

そして、長距離をなるべく速く移動したいということ。そのため、装備はできるだけ軽くしたい。たくさんの物資は安心感を与えてくれるが、体力が奪われてしまう。

さらに、夜間の行動も想定しておきたい。基本的には夜は動かないのが得策だが、地震は明るい時間にのみ起こるとは限らない。最低限安全を確保できるだけのライト類は備えておくべきだろう。

最後に、悪天候や寒さ対策も忘れずに。特に衣服が濡れると体温が奪われ、急激に体力を消耗してしまう。これら4つのことを意識しつつ、個別に必要なものを加えれば、キミだけの徒歩帰宅の装備が完成する。自宅や会社に備えておこう。

火災や落下物から身を守るために

年々リスクが高まっている首都直下地震で想定されている揺れは、最大震度7。これは震度階級の中で最も大きなレベルであり、もし起こってしまえば甚大な被害は免れない。

ブロック塀が倒れ、ガラスは散乱し、時には道を塞ぐ障害物を乗り越えていく必要がある。そんな最悪の状況にも対応できるよう、必要な装備を吟味するべし。

Jungle book 伊澤直人週末冒険会代表 防災テクニック

A ヘルメット     余震がなくても頭上には常に注意が必要。窓ガラスや看板、外壁など、落下物は小さなものでも命に関わる。防災用のヘルメットは必ず用意し、いつも被っておきたい。
B ヘッドランプ 停電になれば辺りは真っ暗。安全に移動するだけでなく、地図を見たり応急処置をしたりする際に手元を照らす。充電式で乾電池も使える両用タイプが理想。
C 防災頭巾 大人になると疎かにされがちな防災頭巾だが、火災から髪の毛や顔を守り、急所である首筋を保護してくれる重要なアイテム。ヘルメットと重ねて被ればより安全だ。
D 防護メガネ 倒壊したブロック塀などの瓦礫からは、思っている以上にホコリや粉塵など有害なものが出る。風が強ければより悪影響。装着するならゴーグルタイプのものが理想だ。
E マスクやバンダナ         防護メガネと同じく、ホコリや粉塵などからカラダを守るのが役目。マスクはフィルターとしての性能が高く、バンダナはもしもの時に三角巾などとしても使える。
F バックパック 防災用のバックパックは、できれば登山向けのものがいい。重くても背負いやすく長時間の歩行に適しているばかりか、転倒時に後頭部を守るクッションにもなる。
G グローブ 徒歩帰宅をただ歩くだけと侮るなかれ。時には両手を使い、瓦礫を乗り越えるようなこともあり得る。安い軍手でも構わないが、できれば耐切創性の高いグローブを。
H レインウェア 雨風からカラダを守り、体温の低下を防いでくれる。傘では片手が塞がってしまうし、ポンチョタイプは引っ掛けやすい。できれば上下セパレートのものが理想的だ。
I 地図 防災情報を書き込んだ地図や防災マップは、災害時の貴重な情報源であり道しるべ。ジャケットのポケットなど、すぐに取り出せるところへ収納しておこう。
J スニーカー 歩きやすさは当然ながら、頑丈さも重要。ガラスや釘などによる踏み抜きを防ぐ防災シューズや登山用のブーツなどが適任だが、履き慣れた古いスニーカーでもいい。

地図は雨対策も忘れるべからず

Jungle book 伊澤直人週末冒険会代表 防災テクニック

帰るべき道を示してくれる地図。徒歩帰宅においては命の次に大切なものと言っても過言ではないが、弱点は紙であること。天敵である雨から守るため、食品用の保存袋などに入れるひと工夫を施そう。

スマートフォン本体やポータブルバッテリーなど、電気製品を浸水から守ることもできるため、保存袋は複数枚持っていて損はない。