健やかな脳に育てるには? 子どもの脳の正しい育み方【前編】
子どもの成長=脳の成長とも言える。脳が育つからカラダが大きくなり、感情が豊かになり、言葉を覚える。勉強やスポーツができるようになるのも脳の発育の延長線上にある。そこで、小児科専門医の成田奈緒子先生に、子育てに悩むライター・クロダと編集ホシノが子育て=“脳育て”の教えを請い、気になるあれこれを伺った。
取材・文/黒田創 イラストレーション/川崎タカオ 監修・取材協力/成田奈緒子(文教大学教授、医学博士)
初出『Tarzan』No.850・2023年2月9日発売
成田奈緒子先生
教えてくれた人
小児科専門医。脳科学者。文教大学教育学部特別支援教育専修教授。子育てを応援する専門家による〈子育て科学アクセス〉を主宰。『子どもの自己肯定感は親のひと言で決まる!』(PHP研究所)など著書多数。
クロダ&ホシノ
話を聞いた人
ライター・クロダは10歳、編集・ホシノは9歳の子育て真っ最中。子どものためにと日々奮闘中だが、「ウチの子、ちゃんと育ってる?」と心配が尽きない今日この頃。
目次
Q1. 子どもの脳はどうすれば健やかに育つのでしょうか?
A.「カラダの脳」「おりこうさん脳」「こころの脳」を順番に育みましょう
子どもの脳を健やかに育てるには、まずはその役割を知る必要がある。
「子どもの脳は部位別に3つに大別されます。1つ目は寝たり起きたり、食べたりするための“カラダの脳”。2つ目は言葉を発したり学んだり運動するための“おりこうさん脳”。3つ目は物事を論理的に考えて実行したり、決断したりする“こころの脳”。この3つを順番を間違えずに育てることが大切です」(成田先生)
特に幼児期に育つカラダの脳は生きるための大きな土台となる。昨今はこの時期にスキルや知識を身につけさせようと幼児教室などに通うケースもあるが、本来は毎日決まった時間に寝起きして、食事をきちんと摂り、カラダを動かすことを重視するべし。
そのうえで、子どもの喜怒哀楽や、好奇心から生まれる要求は拒否せずに受け入れ、いい意味で甘えさせてあげるのがベターだという。
「カラダの脳がしっかり育ってはじめて、他人と会話したり、本を読んだり、勉強したりするおりこうさん脳が健全に育まれる。その後に、自立心を持ったり他人を思いやったりする人間らしさ、つまりこころの脳が発達します。この3つが互いにバランスを取り合っている状態が理想の脳の形なのです」
脳は約18年かけて一人前に育ちます
下のとおり、脳はカラダの脳(脳幹)、おりこうさん脳(大脳新皮質)、こころの脳(前頭葉)の順番で、生まれてからおよそ18年かけてさまざまな刺激を受けながら育っていく。
カラダの脳(脳幹) |
大脳新皮質の下にある、脳の芯にあたる脳幹が「カラダの脳」に相当。ホルモンの分泌や呼吸、自律神経の調整に加え、睡眠、食欲や情動といった生命を維持する機能を担っている。0〜5歳の時期に規則正しい生活を送ることでここが健全に育つ。 |
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おりこうさん脳(大脳新皮質) |
100億以上の神経細胞が多層状に配列されている大脳新皮質は思考の中枢の「おりこうさん脳」。言語や手作業、学習など高度な機能を担っており、会話や遊びが始まる1歳頃から徐々に育ち始め、6〜14歳あたりに飛躍的に発達する。 |
こころの脳(前頭葉) |
大脳新皮質の前半分にあたる前頭葉は「こころの脳」。思考や創造性を担う脳の最高中枢で、周囲の環境や状況を認識し、論理思考を使ってその場に合わせた行動をとるなど、社会的でより人間らしい働きを担う。主に10〜18歳あたりに発達する。 |
親目線だと「ウチの子はなんでこんなに幼いの?」と思うケースがしばしばあるが、子どもの脳はゆっくり育つことを考えれば、年齢より幼さを感じても過度に心配する必要はないのである。
良い子に育てようとするあまり、小さなうちからガミガミと怒ってしまうのは逆効果。脳が健全に育たず、脳のバランスが崩れてしまいかねない。焦らず、段階を踏みながら脳を育もう。
Q2. スマホやタブレットは、やはり脳に悪影響でしょうか?
A. 自由時間は何をしてもOK。睡眠不足にならないように注意を
子どもを「スマホ脳」にしないためには制限した方がいいと思いつつ、親に余裕がないとつい見せてしまうスマホやタブレットだけど…?
「子どもの脳にとって最も守らないといけないのが睡眠時間。小学生で10時間、最低でも9時間は必要ですから、朝7時に起きるとすると夜9時か10時には寝ないといけない。
放課後に友達と遊び、宿題を済ませ、食事や入浴の時間を考えると自由時間は1〜2時間程度と結構短い。その程度の時間であればスマホやタブレットで動画を見てもいいし、ゲームをしてもいいし、漫画を読んでも構わない。
かわりに、就寝時刻だけは厳格に決めて、その時間を過ぎたら勉強していようが遊んでいようが、容赦なくストップさせましょう。スマホやタブレットの良し悪し以前に、睡眠時間を遵守するよう意識させることの方が大事です」
睡眠時間を守れば、それ以外の時間の過ごし方も限られるため子どもの自覚を促す意味でも効果的。
もちろん、そのためには親も夕飯や入浴の時間を厳守し、子どもが早く寝られる状況を作らないといけない。夜型生活に慣れた親にとっては、子どものスマホを制限する前に、生活時間を見直す必要があるといえそうだ。
睡眠時間と自己肯定感の関係
成田先生が2015年に発表した共同研究によると、あるアンケート結果では十分な睡眠が確保できていると感じる中学生は55.5%が日々の生活を楽しいと感じているのに対し、睡眠が不十分な中学生は44%しか楽しいと感じておらず、残りの生徒はつまらないと感じていると報告されたという。
睡眠時間の長さは脳を育み、自己肯定感をも高めることがうかがえる。
研究では大学生を対象にした睡眠調査も行われ、夜型の学生は朝型の学生と比べて睡眠障害や感情障害の罹患率が上がり、注意力低下や外傷の頻度、早期月経などの高さが目立ったという。「寝る子は育つ」はいにしえの言い伝えではない。科学的根拠に裏付けされたれっきとした事実なのだ。
Q3. 集中力がない、片付けない、好き嫌いが多い…。脳の育ち方に問題が?
A. 小さいうちは当たり前。動物の本能がそうさせています
「幼児期は生命を維持するべくカラダ脳を働かせながら生きる時期なので、動物的な思考や行動をとります。子どもに集中力がないように見えるのは、それだけ好奇心が旺盛だからですし、危険を察知するために無意識のうちに注意を周囲に分散させているとも考えられます。
片付けないのも同様で、動物はそもそも片付けなんてしませんよね。子どもにとっては、あくまで必要なものを周りに並べているだけなのです」
好き嫌いの多さも動物的本能によるものだという。
「動物は毒だと感じたものは口にしません。それと同じ理屈で、子どもが初めて食べたピーマンを苦いと感じれば、その後拒否するのはごく自然な反応です。そこで無理やり食べさせるのは逆効果です」
でも、このままだらしなく育ってしまうのでは、と不安もよぎる。
「カラダ脳が健やかに育つよう導いてあげれば、10歳以降におりこうさん脳もしっかり育つため、集中するべきときに気持ちを切り替えられる。また、探し物が見つからなかったり、忘れ物をすると困る、と気づけば整理整頓しようという思考が生まれるはず。本人の自覚を待ちましょう」
Q4. どんな𠮟り方が子どもの脳にはベターでしょうか?
A. ルールはなるべく少なく、単純化。それを破った時は徹底的に𠮟る
「子どもへの𠮟り方でNGなのが、ルールをいくつも作ってしまうこと。子どもにとって怒られる理由がたくさんあると萎縮してしまい、我慢ばかりするようになってしまいます」
でも、親は子どものためを思って𠮟るわけですよね?
「本当に子どもを思うのであれば、自分に対しても他人に対しても、生命に関わることをしたら厳しく𠮟る。これが一番わかりやすいです。横断歩道を赤信号で渡る、友達に暴力を振るう。夜更かしも健康を害することに繫がるので𠮟って構いません」
𠮟り方はシンプルに、が基本。
「とくに10歳以降にこころの脳が育ち始めると、子どもは頭で論理的に考えて行動するようになるので、先回りして正論を押し付けるような𠮟り方は逆効果。𠮟られないために言うことを聞く子ではなく、自主性を持てる子に導いてあげましょう」
Q5. 子育てで絶対にやってはいけないことって何ですか?
A. 親がブレてしまうのが一番問題です
子どもに注意しても素直に謝らない。理由を聞けば「だって前に同じことをしてもママは怒らなかったもん」と口ごたえ。そんなときパパの立場からすると「ママは許してもパパは許さん!」と逆上しそうになるが、そうした父母間の食い違いは絶対に避けるべき、と成田先生。
「両親の言うことがブレると、子どもはどちらに従えばいいかわからず不安になってしまうんです。お菓子をこっそり食べたなど、些細なことであれば多少ブレても大丈夫ですが、約束を守らなかったり、噓をつくなど“これに関しては徹底的に𠮟る”という大事な物事に関して𠮟り方が父母間でブレてるのは大問題。パパとママの間できちんとコンセンサスをとっておきましょう」
Q4でも触れたように、このケースでも𠮟るルールをあまりたくさん設けないよう注意すること。