落ち着くニオイがあるのはなぜ? 匂いと記憶のメカニズム
花や食べ物などの香りで古い記憶が呼び覚まされることがある。なぜ、匂いと記憶は強く結びついているのか。そのメカニズムを嗅覚研究を行う吉原良浩先生に教えてもらった。
取材・文/黒田創 撮影/小川朋央 イラストレーション/村上テツヤ 編集/堀越和幸
初出『Tarzan』No.850・2023年2月9日発売
吉原良浩先生
教えてくれた人
よしはら・よしひろ/京都大学大学院薬学研究科修了。理化学研究所に入所し、未知の部分が多い嗅覚研究の道へ進む。現在は理化学研究所脳神経科学研究センター副センター長を務めている。
脳が安心するニオイ、不安になるニオイ
花や食べ物などの香りで古い記憶が呼び覚まされることがある。なぜ匂いと記憶は強く結びつくのだろう。
「鼻から空気を吸うと、まずは鼻の奥の方にある嗅上皮に匂いの分子が到達します。人間の嗅上皮には約400種類の嗅覚受容体という匂いセンサーがあって、数千種類もの匂い分子を識別できます。
識別された匂いの情報は脳の嗅球へと伝わり、匂い分子の構造の違いに基づいた「匂い地図」が嗅球の表面にマッピングされます(下イラスト参照)。
その後、目や耳などの他の感覚器官の情報がいくつもの脳内のシナプスを経由して海馬に辿り着くのに対して、匂いの情報は情動を司る扁桃体や記憶を司る海馬に少数のシナプスを介して伝わるのです」(吉原良浩先生)
嗅球に表現される匂いの地図
匂い分子は嗅球で「匂い地図」として表現されて扁桃体や海馬に伝わる。脳への伝わり方が直接的だ。
さらに匂いは、良くも悪くも強烈な記憶と結びつきやすい。
「これを連合学習と呼びますが、脳が安心するニオイや不安になるニオイがあるのは私たちが無意識に連合学習を行うからです。ゆえにある人にはホッとする匂いでも、別の人には不安につながることが起きる」
あなたが安心するニオイは何?