カルシウム補給には牛乳?ヨーグルト?「食事・栄養」の勘違い part3
飽和脂肪酸はカラダに悪い、プロテインはできるだけ多く摂った方がいい…。食にまつわる健康の定説は色々あるが、栄養の研究が進んだ今、数々の事実がわかってきている。いつまでも健康でいるためにも健康常識をアップデートしよう。
取材・文/松岡真子 撮影/石原敦志(記事内)、AdobeStock(TOP画像) スタイリスト/矢口紀子 取材協力/大塚亮(おおつか医院院長)、望月理恵子(管理栄養士)、佐藤成美(サイエンスライター)
初出『Tarzan』No.842・2022年9月22日発売
目次
勘違い① 飽和脂肪酸はカラダに悪い
正:適量であれば内臓脂肪にはならない
チーズやバターのコクを堪能した代償は、コレステロール値の上昇や体脂肪の増加だと信じられていた。
「2017年に医学雑誌『ランセット』に発表された研究報告で常識が覆されました。世界各国の十何万人もの食生活を7年間追跡。主たるエネルギー源をリサーチし、疾患との関係性を導き出したんです。
脂肪の摂取量が高い人ほど体脂肪量は低く、心筋梗塞、脳梗塞に襲われる確率も少なかった。以降も同様の調査が進められて、血糖コントロールを改善する作用も見受けられました」(おおつか医院・大塚亮先生)
むしろその役目はオリーブオイルに代表される不飽和脂肪酸やDHAやEPAの多価不飽和脂肪酸が担っていたような気がするが。
「不飽和脂肪酸などと比べるとカラダに好影響を及ぼす速度は緩やかではあります。飽和脂肪酸は消化に時間を要するため吸収率も低いうえ、やがてはエネルギーに変換されます。むしろ注意したいのは糖質。摂りすぎた分だけ内臓脂肪となります」
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸
構造の違いによって脂肪は分類される。厄介者扱いされていた飽和脂肪酸だが、エネルギー源としての一面と組織を正常に機能させる役割を担う。
勘違い② 小麦粉の制限はしなくていい
正:グルテン不耐症が増加中。調整を心がけよう
グルテンフリーは意識高い系がすること。摂り過ぎはもちろんNGだけど、なしは考えられない!
「頑張れない。睡眠不足でもないのに起きられない。ガスが溜まってお腹が張る。下痢と便秘を繰り返す。そんなカラダとお腹の不調を訴える人が増えています」(大塚先生)
これらの症状にグルテンがどう関連しているのだろうか。
「グルテンは小麦粉に含まれるグルテニンとグリアジンという2種類のタンパク質が絡み合ったものです。腸のバリア機能が低下していると過敏に反応してしまうことも多い。不調が続く患者にグルテンフリーを薦めると、大半が改善します」
一方で疾患に発展するケースも。
「グルテンに対する自己抗体ができてしまった場合は、体内に吸収すると腸が炎症を起こして萎縮し、栄養素が吸収できなくなります。セリアック病と呼ばれる不耐症です。グルテンとの因果関係は解明中ですが、過敏性大腸炎などの急増との関連性も高そうです」
勘違い③ 喉の渇きにはとりあえず、スポドリ
正:果糖ブドウ糖液糖は脂肪肝を招く
一日中室内にいてPCと向き合う時のドリンクといえば、スポーツ飲料。汗はかいていないけど、糖分のおかげで集中力は高まると思いきや。
「水やお茶のように飲むのはNGです。運動などによる発汗で失われた水分、電解質の補給が目的です。カラダを動かすことなく摂取していると、急激に血糖値が上がるペットボトル症候群を引き起こします。
また、原料である果糖ブドウ糖液糖は脂肪肝の原因ともなるので飲み過ぎにご注意を」(管理栄養士・望月理恵子さん)
勘違い④ ヒジキは貧血にいい
正:かつてほどの鉄分量は期待できない
鉄の王であったのは昔日のこと。2015年の「日本食品標準成分表」改訂に伴い、100g当たり55mgの含有率から6.2mgまで減少。
「ヒジキを煮込む鍋が鉄でなくなったこともあるかも」(大塚先生)
一方でヒジキの無機ヒ素が問題視されている。短期間に大量に摂ると発熱や下痢などが起こることもある。
「戻した水を使わなければ心配無用。毎日5g以上摂取すると無機ヒ素が蓄積する可能性は高くなりますが、日本人の1日の平均摂取量は0.5g。5g摂る方が至難のワザです」
勘違い⑤ サシの牛より赤身肉だ
正:不飽和脂肪酸を含むグラスフェッド肉ならサシでもOK
バルクアップにはタンパク質の塊・赤身肉を取り入れるのが一番!
「牧草を食べて育った話題の肉(グラスフェッド肉)は、グレインフェッド(穀物飼育)と比べて脂肪分が少ない。サシがあっても引き締まった肉質で、旨みが凝縮されています」(大塚先生)
牧草由来によるβカロテンも豊富で脂肪の燃焼もサポートするそうだ。
「オレイン酸が豊富でとろけるような食感も楽しめます。肉質はエサの質が如実に反映されます。上質な脂の摂取はカラダ作りに不可欠です」
勘違い⑥ プロテインはできるだけたくさん飲む
正:度を越えた摂取が続くと腸に穴が開く危険性が
トレーニーの心得として、プロテインは最大限摂るようにしている。
「摂り過ぎはよくありません。タンパク質はアミノ酸となって吸収され、その一部は遊離アミノ酸として体内で一定量が蓄えられていますが、多めにチャージをしても排出されるだけ。
また単体で大量に摂った場合は腸が炎症を起こす引き金となりかねません。食事でタンパク源が確保されていたら1日1回で十分。タンパク質をエネルギーに変えるビタミンB群の補給も忘れずに」(大塚先生)
勘違い⑦ 玄米や豆、野菜にも有害物質がある
正:熱すれば問題なし
腸の内膜を刺激してお腹を下す原因になるとされるレクチン。100年以上前に発見されたタンパク質で、穀物や豆類、ナス、トマト、カボチャなど野菜の外皮に含まれる。食べるのを控えた方がいい?
「避けるデメリットの方が大きいです。食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラルといった重要な栄養素が摂りづらくなる。レクチンは消化吸収がしづらいため、生食だと下痢を引き起こします。火を通していただけば大丈夫ですよ」(サイエンスライター・佐藤成美さん)
勘違い⑧ カラダのサビを抑えるために鉄の摂取を控える
正:日本人の大半は鉄不足!チャージした方がいい
「タンパク質や脂質をはじめDNAの酸化に鉄が一枚嚙んでいるのは、たしかです。カラダのサビは老化や動脈硬化を招きます」(大塚先生)
時計の針を少しでも止めるためには、摂らないに越したことはない?
「それは違います。日本人は男女ともに不足しているので適量を摂るようにしましょう。成人の推奨量は男性で7.5mg、女性は10.5mg(月経あり)です。ところが平均値は男性7.4mg、女性になると6.2mgです。
鉄は丈夫な皮膚や骨を作りメンタルを安定させます。まずは健康なカラダ作りが優先。鉄は汗でも流れ出るので、日常的に補給を。レバーを筆頭に赤身、豚などの肉や卵の方が吸収率も高く、おすすめです」
鉄の摂取量の目安と充足率
ほとんどの年齢で充足率が100%に満たない。特に月経や妊娠&出産でたくさんの鉄分が必要となる10~40代女性が摂取できているのは目標の5割程度。日常の食事で摂り入れた方がいいのは一目瞭然だ。
勘違い⑨ 牛乳は丈夫なカラダを作る
正:カルシウム補給はヨーグルトがベター
「健康な骨を保つ視点では間違っていません。牛乳のカルシウム吸収率は40%を誇ります。ただ、日本人の3人に2人が乳糖不耐症であるとされているため、気を付けた方がいいのも事実ではあります」(望月さん)
2020年版の「日本人の食事摂取基準」によると30~74歳におけるカルシウムの摂取推奨量は、男性で750mg、女性は650mgである。
「残念ながら80年近く基準をクリアしたことがないんです。そもそも日本は軟水で土壌もミネラルが少ない。カルシウム源はもっぱら乳製品となるわけです。
とはいえ、先に述べたように牛乳でお腹を壊す人も多い。そうすると乳糖が乳酸菌で分解されたヨーグルトがベターとされます。嬉しいことに乳酸カルシウムとなるため吸収率は50~70%。
ちなみに小魚は30%程度。また骨量は20代でピークを迎え、以降は右肩下がりとなります。それまでにいかに貯金しておくかが肝要に。大人になって増やすことは難しくても、減少率は緩くできるので意識的に摂りましょう」