脂肪肝はアルコール性か否かで二分される。NAFLDは非アルコール性脂肪性疾患のこと。炎症が見られない状態がNAFL(非アルコール性脂肪肝)。炎症がある場合はNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と診断され、肝硬変や肝がんに進行することも。
肝臓はもちろん内臓。そこに脂肪が蓄積されて脂肪肝となった…のに内臓脂肪じゃない!? 肝硬変や肝がんにも進行する場合があるという恐ろしい脂肪肝について、きちんと知っておこう。
「脂肪肝」の原因はさまざま
カンゾー先生
教えてくれた人
肝臓研究ひと筋の開業医。東に脂肪肝の人あれば行って看病してやり、西に脂肪肝予備群の人あれば行って生活指導を行う。
※当記事は専門家の監修を受けた内容ですが、カンゾー先生は実在しません。
脂肪肝のみなさん、こんにちは。私の名はカンゾーです。まさかとは思いますが、みなさん脂肪肝を内臓脂肪と勘違いしてませんか?
内臓脂肪は即効力のあるエネルギーとして腸間膜という場所に適度に蓄えられているもの。一方、肝臓は脂肪を作る臓器ではありますが、溜める臓器ではありません。
本来つくはずのない場所に溜まった脂肪は「異所性脂肪」といって、過剰な内臓脂肪同様に生活習慣病のリスクを高めると考えられています。「テヘへ、脂肪肝って言われちゃった」では済まないのです。
ひと口に脂肪肝といっても、その原因はさまざまなので厄介です。みなさんの肝臓にどうして脂肪が溜まってしまったのか? お一人ずつ説明していきましょう。
タイプ① 内臓脂肪が蓄積しすぎな人
フトシさん/学生時代はラガーマン。社会人になってからは運動から遠ざかり、ごはん大好き揚げ物大好きの食生活のみ継続中。
フトシさん
カンゾー先生、僕2年前にメタボ診断にひっかかっちゃったんですけど、脂肪肝かどうかははっきりしてないんです。
カンゾー先生
さっきCT画像撮りましたよね。ホラ肝臓が黒っぽくなってるのが分かるでしょう? これは間違いなく脂肪肝です。
フトシさん
はあ、そうなんですか…でも内臓脂肪が溜まるより深刻じゃないんですよね。
カンゾー先生
いやいや、フトシさんの場合は内臓脂肪がある程度蓄積されて、もうこれ以上溜められなくなったので肝臓に脂肪が溜まりだしたと考えられます。最も典型的な非アルコール性脂肪性疾患です。
フトシさん
じゃあ2年前から肝臓に着々と脂肪が溜まりだしたってことですか? なんてこった、全然気づかなかったー!
カンゾー先生
メタボと診断されて生活習慣は何か変わりましたか?
フトシさん
ごはんおかわりをやめて丼めし1杯にしました。トンカツをやめてチキン南蛮食べてます。
カンゾー先生
えーと、まずその食習慣から変えていきましょう。
なぜ内臓脂肪の蓄積が脂肪肝につながる?
脂肪肝の原因となるキーワードはインスリン抵抗性。インスリン抵抗性が高まる=血液中の糖を各組織に運ぶインスリンの効きが悪くなるということ。
内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインという悪玉物質が分泌され、インスリン抵抗性が高まる。行き場を失った糖はまず皮下脂肪として溜め込まれ、そこがいっぱいになったら次に内臓脂肪として蓄積され、いよいよ最後は肝臓や筋肉に異所性脂肪として蓄えられるという説がある。
タイプ② 食べても太りにくいインドア派な人
ホソミさん/根っからの文科系。休みの日にすることといえば寝転がってのマンガ観賞→メシ→ゲーム対戦→メシ→マンガ観賞の無限循環。
カンゾー先生
ホソミさんのウェスト周径は75cmですから内臓脂肪は溜まっていないようですね。
ホソミさん
食べても太らないタイプで。でもこの間、人間ドックで脂肪肝かもって言われました。
カンゾー先生
内臓脂肪が少なくても肝臓にだけ脂肪が溜まる人もいるんですよ。超音波で見てみましょう。ホラ肝臓が腎臓より白っぽく見えるでしょう? これが脂肪肝です。
ホソミさん
あれ? さっき脂肪肝は黒っぽく見えるって…。
カンゾー先生
検査機器によって見え方が違うんです。で、なぜ太ってないのに肝臓に脂肪が溜まるかというと、筋肉のインスリン感受性が低いことが考えられます。筋肉に糖が取り込めなくなり、余った分が脂肪として肝臓に蓄積するんです。
ホソミさん
ガーン、僕の筋肉は鈍いってことですか…。
ホソミさん
ゴロ寝しつつのゲームとマンガが生き甲斐です。
カンゾー先生
運動で筋肉の感受性は高まります。自宅トレしましょう。
内容脂肪が少なくても脂肪肝になるケースも
インスリンが主に作用する組織は脂肪と肝臓と筋肉。
順天堂大学の研究グループが正常体型の人々を調べたところ、内臓脂肪がなくても脂肪肝があると脂肪と筋肉のインスリン抵抗性が高く、逆に内臓脂肪があっても脂肪肝がなければインスリン抵抗性が低いことが分かったという。
つまり、非肥満者では内臓脂肪より脂肪肝の方がインスリン感受性との関連が深い。脂肪肝の原因のひとつは筋肉の糖の取り込みが悪いこと。かくれ肥満には運動が不可欠。
タイプ③ 酒好きで毎日のように飲んでる人
ジョウゴさん/毎日飲まない日はないというお酒大好きライフを過ごすこと二十数年。近頃ちょっとだけ疲れやすさを感じるように。
ジョウゴさん
みんなの話を聞いていると、お酒を飲まなくても脂肪肝になることが分かって驚きです。
カンゾー先生
ジョウゴさんは飲まれるんですね。普段どれくらい?
ジョウゴさん
日本酒4合くらいです。缶チューハイならロング缶を3本くらい行きます。
カンゾー先生
適度な飲酒は純アルコールで20g程度までです。ジョウゴさんの場合は60g以上ですから明らかに大量飲酒者ですね。
ジョウゴさん
はぁ、なんか犯罪者みたいな呼ばれ方ですね。
カンゾー先生
体内でアルコールが分解されるとき有害物質のアセトアルデヒドが発生します。肝臓がこの物質を解毒するとき、アセトアルデヒドが肝臓を攻撃してダメージを与えてしまいます。この状態が続くと脂肪肝や肝炎、肝がんになることもあるんですよ。
ジョウゴさん
ええっ、でも先生、脂肪肝と言われたのは5年くらい前で、疲れやすい以外は健康です。
カンゾー先生
肝臓は沈黙の臓器。その疲れはサインかもしれません。今のうちから節酒をしましょう。
アルコールを摂取すると脂肪肝になりやすい?
アルコール性脂肪肝の原因は、アセトアルデヒドによって肝臓の機能が低下することだけではない。アルコールを分解するときにビタミンなどの微量栄養素が消費されてしまうので、必要な組織に回せなくなり全身の代謝が低下する。
また、アルコールを摂取すると筋肉の合成が阻害されるので、体内の糖を消費する場が奪われる。結果的に糖がだぶついて余った分が肝臓に回されるという説もある。日本酒なら1合、チューハイなら350mL缶1本が適量だ。
タイプ④ 果物大好き自称ヘルシーな人
ヘルシーさん/美容と健康に関心の強いおしゃれ女子。「カラダにいい」というフレーズに敏感で、家には健康食品が売るほどある。
ヘルシーさん
自分で言うのもなんですけど、私、健康意識は高い方だと思うんです。なのに脂肪肝だなんてとってもショックです…。
カンゾー先生
お察しします。ヘルシーさん、食生活ではどんなことに気をつけてますか?
ヘルシーさん
ビタミン補給のために果物と野菜をたくさん食べるようにしています。朝は手作りスムージーで、昼と夜はコンビニのスムージーを飲んでます。
カンゾー先生
なるほど、分かりました。ヘルシーさんの脂肪肝の原因は果糖の摂り過ぎです!
ヘルシーさん
なんですって!? というか、果糖って一体なんですか?
カンゾー先生
果物に含まれる糖質の最小単位の単糖類です。単糖類にはブドウ糖もありますが、こちらは肝臓を経由してエネルギーとして使われやすいのに対し、果糖は肝臓で脂肪合成のルートに取り込まれやすいという特徴があるんです。
ヘルシーさん
ガーン! カラダによかれと思っていたのに…。
カンゾー先生
スムージーは1日1杯くらいにしておきましょう。
果糖ブドウ糖液糖にも注意
フレッシュな果物の食べ過ぎも脂肪肝の原因のひとつと考えられるが、問題なのは果物よりもむしろ果糖ブドウ糖液糖。これはトウモロコシやジャガイモのでんぷんを原料とした人工甘味料で、ブドウ糖より果糖が多め。脂肪合成に傾きやすい果糖を無意識に口にしてしまうことになる。
加工食品のラベルはしっかりチェックのこと。ちなみに果糖が作り出す終末糖化産物・AGEsは肝臓の炎症や線維化を促すという説もある。
タイプ⑤ 無理なダイエットで栄養失調な人
スキニーさん/数年前に一念発起してダイエットを始め、鉄の意志で食事をコントロール。今では太ることを極端に恐れるように。
スキニーさん
カンゾー先生、絶対おかしいと思うんです! 私、体脂肪率18%なんですよ?
カンゾー先生
そんな感じに見えますね。少し痩せ過ぎじゃないですか?
スキニーさん
でしょう? こんなに痩せてるのに脂肪肝っておかしいと思うんです!
カンゾー先生
まあまあスキニーさん、落ち着いてください。肝臓の働きについて説明しましょう。肝臓は脂肪を合成する能力があるんです。
スキニーさん
はい。今までのお話でそれは分かりました。
カンゾー先生
その作った脂肪を必要な場所に届ける必要があります。でも脂肪は水に溶けないのでタンパク質をくっつけて血液中に放出します。スキニーさんはそのタンパク質が足りないせいで、脂肪が肝臓から出ていけないと考えられます。
スキニーさん
ええー!? あっ、そういえばここ最近、ダイエットで肉はささみ、魚はめざし、卵はウズラの卵くらいしか食べてなかったかも!
カンゾー先生
栄養失調でも脂肪肝になることがあります。もっとしっかり食べましょう。
栄養失調だと肝臓から脂肪を放出しにくい
肝臓の重要な役割のひとつはコレステロールや中性脂肪を合成すること。これらの脂は肝臓から血液経由で各組織に送られて細胞膜やホルモンの材料となる。コレステロールや中性脂肪単体では血液に馴染まないのでアポタンパクというタンパク質と結合し、リポタンパクという形で血液中に運ばれていく。
しかし栄養失調の人はこのアポタンパクを合成できず、肝臓から脂肪を放出しにくくなる。飢餓状態で脂肪肝というレアケースもあるのだ。
もの言わぬ肝臓をいたわろう!
肝臓はどんな臓器よりも再生能力が高く、機能が低下してもなかなか悲鳴を上げない沈黙の臓器です。その忍耐力に甘えて脂肪肝を放っておくと、炎症を起こしたり、硬く線維化して肝機能障害に陥るリスクが高くなります。
「たかが脂肪肝」と甘く見ずにきちんと対処してください。カンゾー先生はいつもみなさんを見てますよ。
取材・文/石飛カノ 編集/阿部優子 イラストレーション/沼田光太郎 取材協力/南勲(横浜市立みなと赤十字病院糖尿病内科部長)
初出『Tarzan』No.825・2022年1月4日発売
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