“脳の疲労には甘いもの”は正しい?「食事・栄養」の勘違い part1
脳の疲労回復には甘い物、コゲた部分は食べるとカラダに悪いなど、数多くの食にまつわる健康の定説があるが、栄養の研究が進んだ今、数々の事実がわかってきている。いつまでも健康でいるためにも健康常識をアップデートしよう。
取材・文/松岡真子 撮影/石原敦志(記事内)、AdobeStock(TOP画像) スタイリスト/矢口紀子 取材協力/大塚亮(おおつか医院院長)、望月理恵子(管理栄養士)
初出『Tarzan』No.842・2022年9月22日発売
勘違い① 脳の疲労回復といえば甘いもの
正:糖分じゃなくても疲れは癒やせる
リモートワークでヘトヘトの頭を復活させる秘訣は、チョコやドーナツといったスイーツ! 食後はやる気も倍増して仕事も捗る~。
「それは、まやかしです。甘いもので疲れは取れませんよ。長い間、脳を機能させるためにはブドウ糖がマストであると定義されていました。集中力や記憶力などの思考の判断やモチベーションに関わる前頭葉が働くためのガソリンであると考えられていたんです。でも、脳内でブドウ糖が枯渇した場合は、代わりにケトン体をエネルギー源とします」(おおつか医院・大塚亮先生)
そうは言っても、ボーッとしたカラダが蘇る感覚があるのはなぜ?
「糖分の補給によって、快楽ホルモンのドーパミンが分泌されます。リフレッシュというよりは気持ちがいいだけ。脳はこの心地よさをインプットし、空腹や疲れを感じたら甘いものに手を伸ばさせます。習慣化するにつれ、食欲をコントロールするホルモンのレプチンが作用しなくなり、お菓子が手放せなくなります」
勘違い② 卵を口にするのは1日1個まで
正:上限はないが、せいぜい2個までに
2015年版の「日本人の食事摂取基準」でコレステロール値の基準が撤廃=卵の数のリミットも外れた。
「食事で摂取するコレステロールは排出されるので、影響は少ない。だから、個数はそこまで気にしなくていい。とはいえ、卵だけでは栄養が偏るので、1日2個程度がいいでしょう」(大塚先生)
卵を食べてもLDL=悪玉コレステロールが増えるのではなかった!
「そもそも、LDLコレステロールを“悪玉”と呼ぶのが間違い。ホルモンの材料にもなる、カラダにとって必要なものです。
ただ、LDLは活性酸素と結合しやすく、変性すると血管壁を傷つけます。この酸化LDLが少量であれば免疫細胞のマクロファージが処理しますが、増加すると血管壁にプラークとして蓄積し、動脈硬化を招きます。
この一連の流れのため、諸悪の根源はLDL値の高さだとされていたのです。たとえLDL値が低くても、酸化LDLが多い人は動脈硬化になりやすいです」
無罪放免。安心してたっぷりの卵サンドを頰張ろう。
勘違い③ スイカには栄養はない
正:血管をしなやかにする大注目のシトルリンがある!
真っ赤な実はジューシーなだけじゃない! 栄養もたっぷりなのだ。
「カラダにとって大事なアミノ酸の一種、シトルリンが含まれています。そもそもスイカから発見されているので、果実の学名Citrullus lanatus(シトルラス・ラナタス)から名付けられました。
血管の内皮機能を高める、注目の一酸化窒素の産生を促します。そして、血管を拡張して血流を促進したり、血管内の酸化LDLを抑えて動脈硬化を防ぎます。さらには免疫力もアップさせる働きもありますよ」(大塚先生)
ほかにも、運動時のパフォーマンスの向上や疲れにくいカラダを作る効果があるとされている。スイカをかじって筋トレに臨むと、最強!?
勘違い④ 塩分は限りなくゼロに近い方がいい
正 :1日2gはマスト。でも、日本人はまだまだ摂り過ぎ
むくみに始まり高血圧、心臓病、脳卒中…。生活習慣病の予防には塩分カットが近道になりそう。
「ただ、一切口にしないのはNG!生きるうえで1日2gは必須です」(管理栄養士・望月理恵子さん)
では、理想の量とは?
「厚生労働省の『日本人の食事摂取基準2020年版』によると、男性は7.5g未満、女性は6.5g未満、高血圧の人は5g未満です」
2gの2倍近くの塩分が許容されているのは、朗報では!?
「日本人の実際の食塩摂取量の平均値は約10gと、むしろ多い。塩そのものより、醬油、ソース、ケチャップなどから摂るケースがほとんど。調味料の見直しから始めてみては」
塩分摂取量の理想と現実
①WHOの世界基準(目標量) ②日本人の食塩摂取目標量(男性) ③日本人の食塩平均摂取量(男性) ④日本人の食塩摂取目標量(女性) ⑤日本人の食塩平均摂取量(女性)/日本人の摂取目標量は世界保健機関(WHO)の推奨量5gをオーバーし、現実はさらに上をゆく。調味料だけでなく漬物や干物などの加工品にも塩分が多いのも一因だろう。
勘違い⑤ こんがりトーストはカラダに毒
正:いいコゲもある
「焼きたての香ばしいパンは食欲をそそりますね。パンに含まれたタンパク質と糖が結びつき、茶色くなる現象をメイラード反応と呼び、そこでAGEs(最終糖化産物)が生まれます」(大塚先生)
AGEsはカラダのコゲに直結するので、避けた方がいいのでは!?
「体内で生成されたAGEsは老化の原因にもなりますが、調理によってできたAGEsにはポジティブな面もあります。加熱によって発生する褐色成分・メラノイジンには、抗酸化作用やお腹を整える働きがあります。
味噌や醬油にも同じ効果が見込まれるので、焼きおにぎりもこんがりしている方が栄養面でもプラスだと言えますね」