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食欲を正常化。ダイエットのための、3つのホルモン操縦術

食欲を正常化。ダイエットのための、3つのホルモン操縦術

痩せたいけど食べたい…。ならば無理なく&ラクに痩せるための食欲ホルモンコントロール術を身につけよう。食行動のメカニズムを研究する京都大学大学院、佐々木努先生に3つのポイントを教えてもらった。

① 少量ずつ口にして、舌で転がしながら味わって食べる

早食いだと太るのは、ダイエッターの常識。その本当の理由は、食欲をめぐる、報酬系と栄養系のタイムラグ(時間差)にある。

報酬系は、食べ物を舌で感知し、その情報を大脳に伝えて処理する仕組み。1秒もかからないうちに瞬間的に働く。豚骨ラーメンでもマリトッツォでも、たったひと口で瞬時に食レポができるのは、報酬系による情報伝達の賜物なのである。

一方の栄養系が働き始めるのは、食べ物が胃や小腸へ到達してから。何を食べたかによってもビミョーに変わるけれど、作動するまでには、早くても15〜20分はかかる。

栄養系が「栄養は十分だから、もう食べなくていいよ」と食欲を抑える前に、報酬系から「美味しいから、どんどん食べよう!」とアジられるから、食べすぎるというワケ。

そこで、よく嚙んで食べる、ひと口ごとに箸を置くといった工夫で、報酬系と栄養系のタイムラグを縮める努力が求められる。加えて、佐々木先生が薦めるのは、ワインをテイスティングするように、食べ物を舌で転がして味わうこと。

「舌の味覚の感度は高いのですが、同じ場所ばかりで味わうと慣れて感度が鈍くなる。そこで舌の先端、右端、左端、再び先端と食べ物を動かし、最後にいちばん奥で味わってから飲み込みましょう。すると舌からに伝わる情報量が増え、報酬系も少量で満足できます。栄養系が働くまでの時間稼ぎにもなります」(京都大学大学院の佐々木努教授)

安ワインはガブ飲みしがちだが、良質なワインは自然とゆっくり味わいたくなるもの。食事もジャンク品を避け、舌で大事に吟味したくなるような良質のものを選ぼう。

食事のときは集中。舌で存分に味わう

まずは食事中にスマホを見たりしないで、食べることに集中。そのうえでワインをテイスティングするように、舌で存分に吟味していると脳の報酬系の満足度もアップ。消化管ホルモンが機能するまでの時間差が埋められる。

② 週0.5kgずつのスローダイエットでリバウンドなし

太っている人ほど、結果を焦り、一刻も早く痩せたいと願うもの。しかも、ダイエットは初期ほどモチベーションが高いから、「1か月で10kg痩せるぞ!」といった性急で、野心的な目標を立てがち。

頑張って目標がクリアできたとしても、多くの場合はリバウンドを起こして体重がスタート前より増えてしまう。ダイエットあるあるだ。このリバウンドの背景にあるのが、レプチンの存在。痩せて脂肪細胞に溜めている体脂肪が減ると、それにつれてレプチンの分泌量が減ってくる。

レプチンは食欲を抑えるホルモンなので、レプチンが減ると食欲がアップ。脳から「食べろ! 食べろ!」という指令が出続ける。いくら抵抗しても脳には勝てないので、いずれ根負けし、食べすぎてリバウンドを起こしてしまうのだ。

こうしたレプチンの罠にハマらないために求められるのは、焦らずにゆっくり痩せること。

「急激に痩せて、レプチンが急に減ると食欲が増しやすい。週に0.5kgのペースでゆっくり痩せると、レプチンも少しずつ減り、摂食を促す脳の指令も穏やかになるので、リバウンドは起こりにくいのです」

短期的なファストダイエットは、ハイリスク・ハイリターン。成功すれば見事にイメチェンできるが、失敗するとますます太るだけ。

週0.5kgペースのスローダイエットは、ローリスク・ローリターン。少しずつしか痩せない代わりに、リバウンド知らずで、確実に体脂肪が減らせる。それでも1か月で2kg、3か月で6kgは痩せられるのだから、スローダイエットこそ賢者の選択

短期間で痩せるとリバウンドを起こしやすい

短期間で痩せるとレプチンが一気に減るため、食欲が暴走してリバウンドを起こしやすい。アメリカでは、“超”がつく肥満治療のために脂肪細胞の吸引手術が行われることもあるが、その際はレプチンを製剤で補うのが一般的だという。

③ 肉は控えめに食べて、魚油やオリーブ油を増やす

食欲ホルモンの働きが落ちると、過食から肥満に陥りやすい。ことに問題なのは、食欲を抑えるレプチンとインスリンの機能不全だ。レプチンでもインスリンでも、ホルモンの指令が出ているのに、食欲は落ちない現象が起こりやすい。これをそれぞれレプチン抵抗性インスリン抵抗性と呼ぶ。

「ホルモンは電波のようなもの。電波をキャッチするアンテナの調子が悪いと、機能できません。これが “抵抗性”の正体。脳がレプチンやインスリンの情報を受け取れないと、食欲は抑えられないのです

抵抗性を起こす要因は、脳の炎症。炎症があると、レプチンやインスリンの情報伝達が邪魔されるのだ。炎症を起こす要素は、おもに2つ。

1つ目は、肉や牛乳・乳製品などに多い飽和脂肪酸。炎症&抵抗性が生じやすい。減量時は、飽和脂肪酸が多い食品を控えよう。代わりに、オリーブオイルや青魚の魚油などの不飽和脂肪酸、ココナッツオイルなどの中鎖脂肪酸を摂るといい。

2つ目は、肥満そのもの。太ると脳内のみならず、全身で慢性的な炎症が起こる。太る→抵抗性で食欲が落ちにくい→太る…いう負のループにハマると最悪。肥満の自覚があるなら、少しでも痩せる努力を。

飽和脂肪酸が多い肉の食べすぎはNG

ダイエット中も筋肉を減らさないためにタンパク質は減らさないのが鉄則だが、炎症と抵抗性を起こしやすい飽和脂肪酸が多い肉の食べすぎはNG。タンパク質は飽和脂肪酸が少なめで、不飽和脂肪酸が多い魚介類や大豆食品などから摂ろう。

コラム:腸内細菌が食欲をコントロール?

全身の細胞は約37兆個。腸内には、それを超える約40兆個もの腸内細菌が棲んでいるとされる。そう考えると、脳腸相関で腸内細菌が食欲にも深く関わっていそうだと想像したくなる。その実態はどうなのだろう。

痩せたマウスの腸内細菌を太ったマウスに移植すると、痩せるという結果が報告されている。ヒトでも、消化管の難病治療などのために腸内細菌を移植する方法もあるが、肥満の治療には必ずしも効き目がない。

また、腸内細菌が食物繊維から作る短鎖脂肪酸が大腸から吸収されると、脳の視床下部に作用して食欲を抑えるという研究もある。

「仮に腸内細菌が食欲に関わるとしても、それはあくまで限定的です」

腸内細菌に頼らず、ホルモンの力も借りて食欲を整えるのが正解。

取材・文/井上健二 イラストレーション/naotte 取材協力/佐々木努(京都大学大学院農学研究科教授)

初出『Tarzan』No.836・2022年6月23日発売

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