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酵母が糖を食べることで酒のアルコールは生まれる
そもそも、酒類のアルコールは糖から始まる。酵母と呼ばれる微生物が糖を食べることで、アルコールと炭酸ガスに分解される。これがアルコール発酵で、結果できあがるのが酒だ。酵母はあらゆる場所に存在する。空気中に漂ったり、生物の表面に付着したり。そして、増殖するためにエサとなる糖を探しているのだ。
ただ、酵母には弱点がある。それは、食べられる糖が限定されていること。デンプンのように、糖が大きな固まりになっていては、歯が立たない。小さな糖を狙っているのだ。そのためヒトは糖を細かくする方法(糖化)を探り、酒を造ってきた。
ワイン、ビール、日本酒は発酵させることは共通するが、糖を細かくする作業がまるで違うのだ。発酵して酒を造る過程を醸造と言い、完成した酒を醸造酒と呼ぶが、それをさらに進めた蒸留という作業も人間は考え出した。ここでは、代表的な酒の歴史と糖にまつわる話をしよう。
醸造酒と蒸留酒の例
元からある小さな糖が自然発酵して、ワインができた
もし、糖が大きな固まりでしか存在しなかったら酵母は生きていけない。酵母が存続できたのは、細かい糖が太古から存在した証しでもある。
世界最古の酒は葡萄酒、つまりワインとされている。ブドウに含まれているのはブドウ糖。糖の最小単位である単糖類だから、酵母も簡単に食べられる。酒の歴史は、この単糖類が酵母によって発酵(単発酵)したことを、我々の祖先が発見したのが始まりだったようだ。
その自然現象を日常に取り入れることで、ワインを醸造する術を考えた。紀元前17〜14世紀ごろには、既にブドウをつぶしたジュースを、自然発酵させる酒造りも行われていた。こうして人間は“酔う”楽しみを覚えていったのである。
ただ、どのような発酵手順でも、基本的には糖質すべてが酵母のエサになるわけではない。例えば赤ワインなら100g当たり1.5gの糖が残留している。そして、これが味の決め手のひとつとなるのだ。
麴によってデンプンを分解して、日本酒はできる
で、我らが日本酒である。
あの香り、味は日本人のみならず、世界中で評価を得ている。原料はコメ。まずは、これを削る。よくある吟醸、大吟醸は削った量で決まる。削るほどイヤな雑味が消えるのだ。そして、蒸す。このときコメにはデンプンというカタチで糖が蓄えられているが、まだ酵母が食べられないサイズだ。
そこで、麴を投入する。麴はカビの一種で、酵素を放出して糖やタンパク質の分解を促進。これにより、コメのデンプンは細かい糖へと変化していく。ここに酵母を加えて発酵(並行複発酵)させることで、日本独特の酒が生まれる。
日本酒には麴で細かくできなかったデンプンと、酵母が食べ切れなかった糖が、酒の中に残る。100g当たり4.9gだ。これが芳醇な味に繫がる。
加えて、日本酒の味わいの違いは造られた酒蔵にもある。数百年も続く酒蔵には、その蔵独特の菌(常在菌)がいて味に影響を与えるのだ。日本酒には歴史が詰まっている。
植物が育つために分解した糖を、酵母が利用して作られるビール
ビールの主原料は大麦。日本では主に二条大麦が使用される。これも日本酒のコメと同じように内部にデンプンを抱えている。細かくしなくては酵母が食べられない。そこで考えられたのが発芽を利用すること。ビール醸造は大麦の力を利用することで、それを実現した。
植物が発芽するためには、たくさんのエネルギーがいる。そのため、糖はデンプンとして種子に蓄えられている。そして、成長するために酵素というタンパク質の力を借り、デンプンを砕こうとする。ビール造りの中では、仕込み工程でその力を借りてデンプンを糖に分解するのだ。
ビールは麦芽で作られた細かい糖を、酵母が食べることで発酵(単行複発酵)が進む。そして、ホップという植物も加え、苦みや香りをつけ、殺菌効果も高めて完成となる。日本で多く売られている淡色のビールは100g当たり3.1gの糖が残っている。これも、味を演出する。
アルコールを抽出すれば、糖質はなくなり、味わいも変わる
これまで記した醸造酒は酒に糖が残る。デンプンを分解し切れなかったり、酵母が糖を食べ切れなかったりするからだ。でも、これが醸造酒ならではの旨さの元となっている。だから、醸造元にとってはどれくらい糖を残すかが、品質を極めるための技の見せどころとなるのである。
酒でいう蒸留とは、簡単に言えばアルコールと香気成分だけを抽出する作業。沸点が低いこれらを蒸発させて糖などと分離し、冷却して液体に戻すわけである。つまり、旨味や雑味を取り除いたアルコールといえる。基本的に糖質はゼロとなる。
蒸留酒はこのアルコールを利用して作られる。ウィスキーやジンはビールと似た工程で得た原料を蒸留する。ウィスキーは木の樽で寝かし、ジンは植物性の香りをつけ完成となる。日本酒と同じような醸造を経て蒸留したのが焼酎だ。そして、ワインのようにストレートに醸造し、蒸留したのがブランデー。まったくヒトの“快楽”には限りがないのだ。
糖とうまく付き合う飲み方のコツを知ろう
① 醸造酒は1杯、あとは蒸留酒に切り替える
アルコールのカロリーが糖の上昇に関与しているから高血糖の人は酒を控えたほうがいい。以前はこのように考えられ、実際の医療現場でも言われてきた。ただ、最近では酒のアルコールは血糖値を上昇させるどころか、下げる働きがあることが研究で明らかになってきた。もちろん、適量を守ることは大前提だが。
ただし、酒に含まれる糖ということになると話は違ってくる。たとえば焼酎は糖質0gだが、ビールは100g中に3.1gも含まれている。これらは、もちろん血糖の上昇を促す。だから、これを抑えたいならば、蒸留することで糖質を分離させた、蒸留酒を選ぶのが一番いいのだ。
とはいえ、最初の一杯はギュッとビールでという人も多い。ならば、その一杯を飲んだら、チューハイやハイボールに替えるようにする。醸造酒の量を減らすように工夫するのだ。このごろは、糖質ゼロのビールや発泡酒もいろいろと揃っている。もちろん、これらを利用すれば、糖を気にせずに飲むことができる。
② 中性脂肪を溜めないようサクッと飲む
酒のアルコールは肝臓で分解される。その過程でできるのがアセチルCoAという物質。この物質は脂肪酸の原料となり、過剰分は中性脂肪として蓄えられる。一方、体内にはビーマル1という遺伝子がある。この遺伝子は起床して約13時間後に活動を始め、15〜19時間後に活動のピークを迎える。仕事内容は、脂肪の蓄積を促進させることだ。
つまり、ビーマル1の活動がピークになったとき、アセチルCoAが体内に大量にあれば、より多くの脂肪がカラダに溜まることになる。結果、肥満から糖尿病などの習慣病へと繫がるのだ。そうならないためには、飲む時間を一考してほしい。
1日のアルコール摂取量の基準は男性で20g。ウィスキー60mL、焼酎110mLに当たる。そして、これを肝臓が分解するのに2時間と少しかかる。つまりビーマル1が盛んに働き始める2時間前に飲み終えればいいのだ。朝7時に起床するなら、夜8時までに飲み終える。会社帰りにサクッと1時間、それが一番なのだ。
③ 血糖値を保つ。ならば肝臓を休ませよう
当たり前のことだが、毎日飲んではいけない。肝臓は体内の化学工場とも呼ばれ、エネルギー代謝や有毒な物質の解毒など、生命を維持するうえでの大切な機能を多く担っている。その臓器が最優先事項にしているのが、アルコールの分解なのだ。
体内に入ったアルコールは速やかに無害化される。ただ、それにばかり煩わされていると、肝臓は当然疲弊していく。他にたくさん仕事を抱えているから、休む暇がなくなるのである。そして、肝臓病の初期状態である、脂肪肝に陥っていくのだ。
この状態になると、インスリン抵抗性が起こりやすくなる。このホルモンは膵臓から分泌され、血糖を正常な状態に保つ働きがあるが、その効きが悪くなってしまい、血糖値が上がったままになってしまうのだ。
だから、肝臓が休める時間を作ってやることが重要。最低でも週2回、できれば3回は休肝日が欲しい。さらに、連続で抜くほうがよい。そうすれば血糖をコントロールして、上手に長く飲み続けることができる。
④ 脳の錯覚で食欲が増す。締めは不必要
酒が好きな人ならば、誰しも締めのラーメンは美味と知っている。しかし、これはやめなくてはならない。
何度も言うが、酒を飲むと肝臓がアルコールを分解する。そのためには実は糖が必要で、まず肝臓は貯め込んでいたグリコーゲンを糖へと変化させる。ここで、一時的に血糖値は上がる。
が、次に糖を使ってアルコールを分解する作業に入ると、血糖値は下がり、逆に低血糖の状態となってしまう。加えて、肝臓には糖を作る働き(糖新生)もあるが、アルコールの処理をしている間はこれもストップしてしまうのだ。そして、ますます血中の糖は少なくなる。
ただ、カラダに蓄えられている糖の総量に比べたら、アルコールの分解で使われる量は知れたもの。それでもラーメンを食べたくなるのは、血液中の糖が減ったことで、脳が錯覚を起こして食欲を増進させるから。これを繰り返せば、血糖値は最終的に恒常的に上昇し、インスリンの効きも悪くなる。カラダにとって悪いことばかり。“締め”はいらない。