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古代人のうんこはダイバーシティ。知っておきたい「腸研究」最前線

ブームの陰に研究あり。いまや健康な人とそうでない人、海外の人と日本の人といった“横軸”を比べるだけでなく、親世代、そのまた親世代と“縦軸”で腸内環境を比較検討する段階に。まるで腸のごとく長い歴史をひもといて判明した最新のキーワードとは。

古代人のうんこはダイバーシティだった?

身長も骨格も筋肉のつき方もそれぞれ異なり、肌や髪や瞳の色も千差万別。2021年の夏、世界のアスリートが集ったトーキョーのありさまは、そのまま私たちの腸内環境に喩えることができる。小腸や大腸に棲んでいる腸内細菌は約100兆個。種にしておよそ1000種類といわれている。多種多様な腸内細菌が共存しているのが腸というダイバーシティだ。

むろん、すべての人間の腸に1000種類の腸内細菌が存在しているわけではない。細菌の集合体を細菌叢というが、これは民族または個人によってバラバラ。ただはっきりしているのは、多様性(ダイバーシティ)に富んでいた方が断然おトクということ。カードが多ければさまざまなリスクに対応ができるからだ。

さてつい最近、メキシコやアメリカで約1000〜2000年前の古代人のうんこが発見され遺伝子解析が行われた(テクノロジーはここまで進んでいる!)。その結果、多彩な腸内細菌が存在していたことが分かったという。

で、そのうちの一部の細菌を現代人のそれと比較してみると、工業国に住む人々のうんことはまったく別物、非工業地域に住む人々のうんこは若干近いものがあることが判明した。これ、裏を返せば、長い歴史の中で育まれてきた腸内細菌叢が都市生活の中で失われているんじゃないか? そんな「失われた細菌説」も出てきているという。

古代人、非工業国、工業国の腸内細菌叢(門)
ファーミキューテスとバクテロイデスは生物分類の「門」。これまで前者が少なく後者が多いと太りにくいとされていた。古代人と非工業地域の人々はその真逆なので、これは噓。
Wibowo MC, et al. Nature 2021, May 12.

第3世代の腸内環境がマジで危ない!

ではなぜ、工業国の都市生活者と古代人のうんこはかけ離れているのか? 考えられる可能性は食生活

「これまでの腸内細菌の研究では病気の患者と健常者の細菌叢の違いといったデータが多く出てきましたが、最近では食べ物の影響の方が重視され始めています」と言うのは、京都府立医科大学の内藤裕二教授だ。

「古代人はおそらく芋や植物性の食物を主に口にしていたでしょう。一方、都市生活者は砂糖や動物性脂肪を毎日のように食べています。こうした食生活によって腸内細菌の多様性が失われているという説は正しいのではないかと思っています」

マウスを使ったこんな実験報告がある。高脂肪で食物繊維の少ない食事をマウスに摂らせると、腸内細菌叢の多様性が大きく減少する。でも食物繊維の多い食事に戻すと元通りになる。めでたしめでたし。

ところが世代を重ねるごとに多様性は失われていき、第3世代になると、一度食生活で失われた多様性は食事を元に戻してもほとんど回復できないことが示されたという。

世代を超える腸内フローラ多様性の低下
腸内フローラ=腸内細菌叢。世代を超えてその多様性を見てみると、3世代目では食生活を改善しても回復力が低下していく。
Desai MS, et al. 2016

「同じことがヒトでも起こっている可能性があります。私たちが長寿研究をしている京丹後地域の調査では、65歳以上の世代と比較して世代が進むごとに多様性が低下していることが明らかになりました」

つまり、あなたの今の食生活は孫世代に反映されるのだ。

40歳以下の男性はビフィズス菌を持っていない?

先の世代のことなんか知ったこっちゃないね、と思ったあなた。お伝えしておこう。もうすでにあなた自身の腸内細菌叢がヤバい状態に陥っているかもしれない。

ハイテク技術によって腸内細菌の解析データが蓄積されたことで、細菌叢をいくつかのタイプに分けて分類する動きが出てきた。これが「エンテロタイプ」と呼ばれるもの。

「それによると、日本人のお年寄りはビフィズス菌が多く存在する“タイプ4”に分類されます。ビフィズス菌が多いというのは日本人の特徴といわれています。ところが約300例の腸内細菌を分析してみると、ビフィズス菌を0〜2%しか持っていない人が25%いることが分かりました」

ご存じのようにビフィズス菌はいわゆる“善玉菌”。確かに下のグラフを見ると、その平均割合は9%強。これは世界レベルで見れば多い方。でも実は20%、30%持っている人の数値に引っ張られて平均で9%ということ。フタを開けてみれば4人に1人は2%以下なのだ。

日本人のビフィズス菌比率
数値の少ないものから並べ替え、4等分する四分位数でいうと、ビフィズス菌が0〜約2%、約2〜6%、約6〜12%、約12%以上のグループが各25%を占めることになる。衝撃の結果。
Takagi T, et al. J Gastroenterol 2019, 54: 53-63.

「この25%という数値には明らかに性差があって、男性が多い。とくに40歳以下のグループは絶望的なくらいビフィズス菌を持っていないんです。このグループには便秘症状がほとんどないんですが、ビフィズス菌がいなくなると便が軟らかくなるという事実と一致しています」

理由は不明だが、かなりヤバい。

多様性のカギはアーリーライフイベントにあり

日本人の、とくに男性の若年層のビフィズス菌が減っている理由ははっきり分かっていない。ただひとつには、ビフィズス菌を育てるエサ、食物繊維不足が確かにあるということは想像できる。

2020年の18歳以上の食物繊維摂取量の中央値は1日13.7g。目標量は男性21g以上女性18g以上となっているがはるかに及ばない。ちなみに1995年の食物繊維摂取量は1日20g以上。四半世紀で見るも無残に下がってしまった。食物繊維を含む主食、炭水化物の摂取量が減っていることが原因のひとつとも考えられる。

さらに内藤教授が指摘しているのが「アーリーライフイベント」に潜む可能性だ。

「胎児は産道を通って産まれるときに母親の腸内細菌を受け継ぎます。その腸内細菌が腸に定着して安定化するのが生後3年。この時期の生活環境が影響して腸内環境が決まります。生後3年で腸内細菌の種類が決まり、一生変わらないと考えられています」

アーリーライフイベントで多様な菌に触れる機会が多い子どもほど、腸内細菌の多様性を育むことができる。具体的には自然の多い環境のもと、兄弟や祖父母がいる大家族で育ち、ペットと一緒に生活をして食物繊維が豊富な食事を摂る。その逆なら多様性が失われる可能性は高い。ある意味、3歳までが勝負。

多様性を育む因子
  • 兄弟姉妹がいる
  • 家にペットがいた
  • 野菜をよく食べて育った
  • 山や川のある環境で育った
  • 外出後の習慣は手洗い
  • 風邪をひくと寝て治した
多様性を阻む因子
  • 一人っ子
  • 生き物を飼ったことがない
  • ファストフード中心で育った
  • 大都市で育った
  • 外出後は消毒薬をよく使っていた
  • 風邪をひいた時は抗菌薬を飲んでいた

消毒薬や抗菌薬を多用して菌を寄せ付けない、一見清潔で健康そうな都市生活者。でも実は雑多な菌に囲まれて育つ方が腸内細菌の多様性が育まれると考えられている。

3大短鎖脂肪酸の役割分担が分かってきた

腸内細菌の研究が進むにつれ、細菌が食物繊維を分解して作り出す代謝物質に注目が集まるようになってきた。そのひとつに短鎖脂肪酸と呼ばれるものがある。

短鎖脂肪酸はその名の通り炭素数が2〜4の脂肪酸の総称で、代表格は酪酸プロピオン酸酢酸の3つ。

3大短鎖脂肪酸の変化
マウスに腸内細菌のエサとなる水溶性食物繊維を2週間投与し、盲腸内の短鎖脂肪酸の変化を計測。3大短鎖脂肪酸はいずれも大幅に増えている。
Takagi T, et al. 2016

「短鎖脂肪酸の受容体は全身にたくさんあるんです。ということは、もともと人間は菌とともに生きる運命にあったということ。これらの受容体は短鎖脂肪酸の種類によって異なる反応を表します」

なにかカラダによさげなことをしてくれる。そんな漠然とした捉え方をされてきた短鎖脂肪酸だが、それぞれに役割分担がちゃんとあることが、最近の研究で分かってきた。

たとえば酪酸は大腸の機能を助けるとても大事な物質。腸の蠕動運動や水分分泌を促して便を作る、大腸になくてはならない存在だ。プロピオン酸は全身を巡ってエネルギー代謝や脂肪代謝に関わり酢酸は炎症の抑制や腸管のバリア機能を維持する役割を果たす。

「日本人は世界の中でも短鎖脂肪酸が多い民族といわれています。酢酸はビフィズス菌から作られ、プロピオン酸はビフィズス菌から作られる乳酸の最終物質です。ビフィズス菌と酪酸が腸内に存在するというのが日本人にとってのベストコンディションだと思います」

これらの原料の食物繊維、超大事。

ディスバイオーシスが不調や肥満をもたらす

腸内細菌のバランスが乱れることをディスバイオーシスという。腸内細菌の数が激減したり構成バランスが著しく乱れると、消化器の病気肥満糖尿病などが引き起こされることが分かっている。

一律にこれが健康な腸内細菌叢で、これがディスバイオーシスと定義するのは難しい。民族や年齢によって細菌叢のバランスは異なるからだ。でも、少なくとも日本人にとってはビフィズス菌が少なくなっていることがすでにディスバイオーシスともいえる。

さらに、新型コロナウイルスもディスバイオーシスを引き起こす一因となるらしい。その際、震源地となるのは大腸ではなく小腸

大腸の腸内細菌叢は小腸がアミノ酸を取り込んで作り出す抗菌ペプチドによってコントロールされているという考え方がある。抗菌ペプチドは異物を攻撃する物質で、正常に分泌されていれば炎症を抑制する腸内細菌がよく働き、分泌が低下すると大腸の腸内細菌バランスが乱れるという。

ディスバイオーシスの発生の様子
腸内細菌のバランスをコントロールしているのは大腸の上流にある小腸。新型コロナウイルスに感染すると小腸が抗菌ペプチドを作り出せなくなり、ディスバイオーシスが起こる。
Penninger JM, et al. 2021

「新型コロナウイルスのACE受容体は小腸に多く存在していて、アミノ酸の受容体とリンクしています。ウイルスに感染するとアミノ酸の取り込みが阻害され抗菌ペプチドの分泌が低下し、その結果大腸の腸内環境が乱れると考えられています」

腸の健康を守るためにも感染対策を徹底したいもの。

不老長寿の秘密? 大注目のアッカーマンシアとは

善玉菌といえばパッと思いつくのが、ビフィズス菌や乳酸菌。最新研究ではこれら以外の次世代善玉菌が注目を浴びている。そのひとつがアッカーマンシアと呼ばれる腸内細菌。2004年に発見されたこの腸内細菌、肥満糖尿病、さらには免疫にも関わっている可能性があることが分かってきたのだ。

アッカーマンシアを持ち合わせているのは主にヨーロッパ人奄美群島の超高齢者がアッカーマンシアを多く持っていたという報告もあるが、残念なことにほとんどの日本人はこの菌を持っていない。

奄美群島の長寿者の腸内細菌叢の特徴
日本全国で見るとアッカーマンシアを持っている人は圧倒的に少ないが、奄美群島の長寿者は多くのアッカーマンシアを持っていた。長寿の因子のひとつ?
Odamaki et al., BMC Microbiology 16: 90(2016) 永田、森田ら 腸内細菌学会 2019

でも腸内細菌研究は日進月歩。今後、研究が進めばアッカーマンシア配合のヨーグルトなどがお目見えするかも。

取材・文/石飛カノ 取材協力/内藤裕二(京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学教授)

初出『Tarzan』No.817・2021年8月26日発売

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