朝、出かける前に背骨リセット。姿勢&歩き方の正解
どんなに締まったボディも猫背や反り腰では台なし。“良い姿勢”の定義とそれに基づく姿勢づくりのエクササイズ、さらには歩く際に意識すべきポイントを、理学療法士の視点、そしてピラティスのメソッドから考えてみた。
取材・文/黒田創 イラストレーション/東海林巨樹 監修/児玉佳奈子
初出『Tarzan』No.813・2021年6月23日発売
そもそも良い姿勢ってどんな姿勢?
子どもの頃、“前を向いて姿勢をピシッと正しく!”と注意されると途端に背すじを伸ばし、胸を張っていたもの。ゆえに私たちはこれを「良い姿勢」と思いがちだが、必ずしもそうではない、と話すのは、理学療法士、ヨガやピラティス指導の資格を持ち、パーソナルトレーナーとしても活動する児玉佳奈子さん。
「背骨は本来、横から見ると緩やかなS字カーブを描いており、これが重心位置を調整し、衝撃を吸収しています。しかし、スマホを見る姿勢などさまざまな要因で機能しなくなるケースも多い。ただ背すじを伸ばすのではなく、背骨のS字カーブをうまく使えている状態こそ本当の意味での“良い姿勢”だといえます」
背骨を伸ばした状態を覚えておく。
では、背骨のS字カーブをきちんと機能させるにはどうすればいいか。ここでキーワードとなるのが「エロンゲーション」である。
「エロンゲーションには伸張、伸びといった意味があり、ピラティスでは背骨のひとつひとつの椎骨を広げ、背骨全体を伸張させる動作を指します。これを日常生活やエクササイズで意識すると、凝り固まりがちな背骨の椎骨と椎骨の間に空間ができ、背骨全体の可動性を高められます」
エロンゲーションを意識すると、腹筋群や背筋群、さらに腹横筋や多裂筋といった姿勢保持に欠かせない筋肉が動かされ、それらが協調することで背骨の自然なS字カーブが取り戻せる。やり方は下記で。
エロンゲーションは朝イチから。
前述のイラストはいくつかの骨格が床と垂直に一直線に並び、かつ背骨が緩やかなS字を描いた自然で偏りのない良い立ち姿勢。この姿勢だと実はスマホは見づらい。
画面に見入って首を前に倒すと、次第に首に負担がかかる。さらに頭の位置が背骨からずれてもそれに合わせて立とうとするため、骨盤や股関節のポジションはどんどん崩れていく。スマホに限らず、他の些細な生活動作でも姿勢は簡単に悪くなると心得よう。
「そこで、朝にエロンゲーションを行い、正しい姿勢をカラダにインプットしたうえで一日を送れば、姿勢は次第に改善されていくはず。まずはここから始めましょう」
以下では、いい姿勢を保つために「朝」「日中」「夜」の3つのシーンで行いたい(あるいは意識したい)エクササイズとポイントをまとめた。
「朝」出かける前に。
頭の位置と目線の確認、背骨の伸張動作を行う。
四六時中スマホを見たり、パソコン作業で前かがみになったり、背中を曲げて洗い物などの家事作業を行ったり。私たちの日常動作は、総じて頭が前に出がち。
それ自体は仕方のないことなので、一日の始まりにせめて頭を本来あるべき位置にセットし、背骨のS字カーブで頭の重心を支える感覚を得ておく。それだけでも“良い姿勢”を無意識のうちにキープできることにつながる。
「頭がきちんと背骨の上に乗った状態が普通になれば、首や肩にかかる負担が減って疲れにくくなりますし、相乗効果で良い姿勢を保つ時間が増えていきます。
そのためには目線も大事。頭の位置は目線に引っ張られる形でどんどん前にずれますから、毎朝本来の目線の高さを確認しておくことでかなり改善されます」
① 目の高さを確認(エロンゲーションを意識)
起き抜けに壁を背にして立ち、肩甲骨と尻を壁につける。踵は壁につけないこと。軽く顎を引き、目線をまっすぐ前へ。次に髪の毛が真上に引っ張られるイメージで、他の筋肉が動かないよう背骨だけを上に引き上げ、逆に尻を引き下げる。
このとき足裏は床にベタッとつけ、踵に体重の6割程度が乗っている感覚。その姿勢のまま背骨の伸びをしっかり感じながら呼吸を10回繰り返そう。
② 首のリセット(サーヴィカルノット)
頭を背骨の上に正しく乗せるうえで、必要な筋肉をストレッチするエクササイズ。①と同じく壁を背にして立ち、肩甲骨と尻を壁につける。踵は壁につけない。次に鼻先を軽く下げ、首の後ろの骨を伸ばし、元に戻す。
これを5~8回、1~3セット繰り返そう。首の骨が伸びると同時に首まわりの細かい筋肉がストレッチされ、前に出たまま凝り固まりがちな首が背骨の真上に乗りやすくなる。
③ 重心の確認。(スタンディングエクササイズ)
活動の前に、脚のすべての関節を動かし、足裏にしっかり体重を乗せ、その情報をもとに背骨を中心に全身でバランスよく重心を支える感覚を思い出しておこう。
一日の間に立ったり座ったり、歩いたり小走りしたりといった動きを繰り返すが、朝のうちに重心感覚を養い、なるべく正しい重心位置がキープできれば“良い姿勢”の維持により近づける。さらには足首の安定性アップも期待できる。
- 踵同士をつけ、爪先を拳1個分開いて立ち、骨盤を前傾させながら両膝を爪先に向けて曲げる。目線はまっすぐ。
- 腰と膝を曲げたまま爪先立ちになる。
- そのまま膝を伸ばし、頭頂部を引き上げる意識で真上に立ち上がる。最後は踵を下ろして元の姿勢に。踵同士はずっとつけたまま。5~8回を1~3セット行う。
「日中」歩くときに。
後ろ側の筋肉を使って歩くためのポイントを押さえよう。
続いては日中の活動タイム。大抵の人は普段無意識に歩いていると思うが、どんな歩き方をすればきれいな歩き姿勢になるのだろうか。
「シンプルに言うと重心移動を使い、前後左右、上下のブレを小さくし、後ろ足でしっかり蹴り出します。そのうえでカラダの捻りを利用しながら歩くこと。そこで大切になってくるのはやはりカラダの軸なんです」
児玉さんが挙げてくれた具体的なポイントは8つ。これらを意識して一日歩くと…? ふくらはぎやハムストリングス、尻、背筋がやたらと使われていると感じないだろうか。
「それこそが、全身の筋肉をバランスよく使った理想的な歩き方。多くの方の歩行動作はカラダの後ろが使えていません。少し意識するだけでも歩き姿勢はかなり変わりますよ」
① 軸を意識。
まず意識したいのは、頭頂部から股の間まで一本の軸が通っているイメージで歩くこと。このとき頭のてっぺんを真上から引っ張られる感覚で歩いてみると何となく感覚がつかめるはず。
普段歩いていて猫背になりがちな人も、ちょっとの意識で頭が背骨の上にしっかり乗った正しい姿勢がキープしやすくなる。
② 目線は正面。
①でカラダの軸を意識すると、自然と目線は顔の真正面を向く形になる。歩行時間の長短にかかわらず、そのまま正面を見て歩くと頭の位置がブレないきれいな歩行姿勢になる。
5~6m先にいる人を眺めながら歩くイメージだが、顎が斜め上を向いてしまうのは×。軽く顎を引いて歩くといいだろう。
③ みぞおちあたりから上を捻るように。
歩くとき、軸とともにもうひとつ意識したいのがみぞおち。ヘソの真上あたりにある窪んだ部分のことで、言うなればカラダの中心のひとつ。
ここから左右の脚が延びているイメージで、みぞおちから上の部分を捻るように歩くとより体幹を使った歩き方となり、安定したきれいな歩き姿勢になる。
④ 歩幅は肩幅程度かやや大きく。
③とも関係する話だが、みぞおちから脚が延びているイメージで歩くと、自然と歩幅は大きくなるはず。とはいえあまり大きく脚を開くと左右の足裏にしっかり体重が乗らず、軸がブレてギッタンバッコンした歩き方になってしまう。
歩幅は肩幅と同等か、それよりやや大きい程度に開くこと。
⑤ 肩を下げてリラックス。
姿勢を意識するあまり歩く際に肩に力が入ると、それにつられて頭が背骨の真上からずれたまま歩くことになってしまう。普段いかり肩で歩きがちな人は、歩く前に軽くその場でジャンプするなどして肩の力を抜くこと。
なるべくリラックスした状態で歩くことが“良い姿勢の歩き方”のポイントだ。
⑥ 腕は振らない。自然に揺れる程度。
ランやウォーキングの経験があると大きく腕を振りがちだが、姿勢作りの観点からは肩や腕の筋肉が疲れるだけであまり意味がない。
歩いている際の腕振りは「振ろうとする」のではなく、カラダを正しく捻った結果「自然に揺れている」のが理想。腕を振ることよりも③のカラダの捻りの方を意識するべし。
⑦ 後ろ脚は伸ばす。
歩く際の足の運びで、前についた足がそのまま体重移動で後ろ足に切り替わるが、その際の後ろ脚の膝は決して曲げないこと。後ろ足が地面を離れるときも同様で、膝を伸ばし、脚の裏側の筋肉を使って前に進むこと。
後ろ足を前に出す際は、中指の延長線上に向けてまっすぐ動かすイメージで。
⑧ 足の親指の下あたりから押し出す。
朝のエクササイズで足裏で重心を支える確認を行うと、歩くときもしっかり両足に体重が乗るのを感じるはず。さらに足を後ろに蹴り出す際は、後ろ足の親指の下にある拇趾球に体重をかけ、グッと押し出すように歩くといいだろう。
そのまま③の動きを意識しながらカラダの捻りを利用して歩こう。
「夜」入浴前に。
一日の終わりは背骨と脚のエクササイズで翌日の準備。
帰宅後、バスタイムの前にやっておきたいのが、姿勢と歩き方を司る部位の3種類のエクササイズだ。
ハーフロールダウンは背骨や背骨まわりの筋肉の柔軟性を高め、かつ体幹の強化も狙える。デスクワークなどで丸まりがちな背骨をうんと伸ばし、周りの筋肉もしっかり使って本来の背骨の位置にリセットしよう。
バイシクルは歩くときの脚の動きのイメージ作りに。股関節から両脚をしっかり動かしたり、脚の関節を連動させたり、さらには脚の後ろ側の筋肉をストレッチすることで、普段の歩行時に左右バランスのとれた正しい足運びが可能となる。
最後はアーティキュレーティングブリッジ。足裏で全身を支えて立ち姿勢や歩行時の重心感覚を養い、背骨の可動域を高めることができる。