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腸内フローラは肥満に関わるのか? くわしく学ぶ「腸内細菌と代謝」

そもそも腸内細菌と代謝はどう関係する?

近年、腸内細菌がカラダに想像以上のインパクトを与えることがわかってきた。代謝にはどう関わるのか。

腸内には、約37兆個とされるヒトの細胞より多い、およそ40兆個の腸内細菌が棲む。密集する様子を花畑に喩えて「腸内フローラ」と呼ぶ。腸内細菌は何もしないと、腸管の蠕動運動で体外へ押し出されるので、負けじと腸内で増殖を続けており、そのプロセスで活発に代謝を行う。

「この代謝活動が“体内発酵”で、その過程で作られた代謝物質は健康に寄与するものが多い。ヨーグルトや納豆などの発酵食品も健康と関わりますが、これは“体外発酵”。やはり体内発酵の代謝物質は直接体内に吸収されるので、ヒトの健康や代謝に大きく影響するのです」(腸内環境制御学が専門の福田真嗣先生)

腸内細菌は1000種類ほどあり、多彩なタイプが混在している。腸内細菌の勢力図の変化により、そこから生まれる代謝物質も変わる。

「私たちはお腹に発酵タンクを抱えているようなもの。この発酵タンクはもう一つの臓器と言うべき存在で、当然代謝にも影響します」

小腸にも大腸にも腸内細菌は存在するが、今回は大腸の腸内細菌と代謝の関連について考えてみよう。

腸内細菌の代謝物質が交感神経に働きかけ、代謝を活性化。

腸内細菌と代謝の関わりを語るうえで鍵を握るのは、「短鎖脂肪酸(SCFAs)」。腸内細菌が体内発酵で作り出す代謝物質だ。代表的な短鎖脂肪酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸の3つ。ここでは、酪酸と酢酸に目を向けよう。

短鎖脂肪酸の一部は腸管を作る細胞のエネルギー源となったり、腸壁から体内へ入ったりする。

体内に入った酪酸は交感神経節にあるGPR41という受容体と結合し、交感神経を刺激する。自律神経の交感神経には、全身の代謝を高める働きがあるため、酪酸の刺激で交感神経が優位になると代謝がアップ。また酪酸は、食欲を抑えるGLP-1という消化管ホルモンの産生も促してくれるので、食べすぎによる肥満も抑えられる。

一方、酢酸は体内に入ると、脂肪組織にあるGPR43という受容体と結合する。それにより、脂肪組織で体脂肪の合成を抑えて分解を促す。さらに、筋肉と肝臓では、血糖(糖質)を取り込むインスリンというホルモンの効き目を上げて、糖質からの体脂肪合成にもブレーキをかける。

太る菌、痩せる菌があるって本当?

代謝が落ちると太りやすくなるが、肥満にも腸内細菌は絡んでいる。

注目されるのは、腸内細菌の2大勢力であるファーミキューテス門とバクテロイデス門のバランス。海外では、肥満者ほどファーミキューテスが多く、バクテロイデスが少ない傾向がある。そのため俗にファーミキューテスをデブ菌、バクテロイデスを痩せ菌という。一方、世界的に肥満者が少ない日本では、なぜかファーミキューテスが比較的多め。

「特定の菌で太るというより、腸内環境が乱れて腸管バリアが破綻すると太りやすくなると考えられます」

たとえば、腸管バリアが崩れると、腸内細菌が作るLPSという物質が体内に侵入。脂肪細胞で炎症性サイトカインが作られるようになり、体脂肪燃焼作用を持つアディポネクチンの分泌量が減少。その結果、太りやすくなると考えられる。

腸管バリアを保ち、LPSの越境を防ぐうえでも、短鎖脂肪酸は大切。

「短鎖脂肪酸は腸管上皮細胞のエネルギー源になり、細胞の新陳代謝を促します。抗炎症効果もあり、腸管のバリア機能の維持に重要です」

腸内細菌はビタミンを作り、3大栄養素の代謝にも関わる。

本来ビタミンとは、体内で合成できないため、食事から摂り入れるべき必須の栄養素。だが、ビタミンB群の一部は、腸内細菌が発酵のプロセスで腸内で作る。

腸内細菌が作るビタミンB群は、B1、B2、B3(ナイアシン)、B6、B12。このうちB1は糖質、B2は脂質、B6はタンパク質と3大栄養素の代謝をおもに担っており、ことにB3は3大栄養素すべてをエネルギーに変える反応をアシストする。

また、健全な代謝には質の高い睡眠も不可欠だが、腸内細菌が合成するビタミンB群は眠りにも一枚嚙んでいる。眠りの準備を整えるメラトニンは、脳内でセロトニンから合成されるが、その際、B6が必要になる。

「腸内細菌をほぼゼロにしたマウスの腸内では、ビタミンB6やセロトニンが産生されなくなることがわかっています」

また、眠りを司る体内時計は、朝日で毎朝リセットされるが、B12には体内時計の光への感受性を高める働きがある。B12は動物性食品に多く含まれるため、ベジタリアンのように野菜など植物性食品中心の食生活だと、不足しやすい。

代謝アップを助けるバランスのいい腸内環境の整え方。

① 食物繊維を積極的に摂る。

腸内環境が代謝を左右すると知ると、選りすぐりの腸内細菌を摂りたくなるのが人情。でも、腸内細菌の顔ぶれは3歳くらいまでに決まり、その後は食習慣で変化する。一方、発酵食品などで細菌を摂っても、腸内にはほとんど定着しない。

大事なのは、子どもの頃から共生関係にある腸内細菌を元気にすること。ポイントは、有益な短鎖脂肪酸を作る腸内細菌を応援することだ。良い菌の持ち主でも、短鎖脂肪酸の原料となる食べ物を摂らないと、宝の持ち腐れ。良い菌が少なくても、原料をたくさん摂れば、短鎖脂肪酸が増えて代謝は改善しやすい。

腸内細菌が短鎖脂肪酸を作る原料となるのは、オリゴ糖や食物繊維。主な供給源を下にリスト化したが、それを細かく気にするより、多彩な食品の摂取を福田先生は薦める。

穀物、野菜、海藻、豆類、きのこ、芋類などには、総じてオリゴ糖や食物繊維が多い。これらの食品を毎日いろいろ食べましょう」

いい腸内細菌を育てる

② 腸内環境をモニタリング。毎日のウンチに注目せよ。

減量やカラダ作りを思うように進めるには、毎日の体重や体脂肪率のチェックはマスト。腸内環境を改善するには、同じように腸内環境の現状を知る必要がある。

確実なのは、腸内細菌叢のバランスなどを調べるサービスを利用すること。ただし、費用はそれなりにかかるし、結果が出るまでに1〜2か月は待つ。腸内環境を評価するうえでより手軽なのは、自らの便の状態をモニタリングして記録すること

排便回数便の形臭いなどをモニタリングし、普段と比べて何か変化があれば、腸内環境も変化したと考えられます」

排便回数は、健康な人でも年に100〜1000回と幅がある。回数が少ない便秘体質よりは、快便体質の方が望ましい。便は軟便でもコロコロ硬いウサギの糞状でもなく、バナナ状で色は黄褐色がベスト。食事を変えたら、排便回数や便の状態が変わるかどうかも、しっかり観察することが大事なのだ。

③ お腹を温める効果を探る。

体内でエネルギーを代謝すると、熱が発生して体温が上がる。食事で代謝量が増えて体熱が生じる食事誘発性熱産生は、1日の消費エネルギーの10%程度を占める。1日2000キロカロリー消費する人なら、200キロカロリー。これは、20分のジョグの消費エネルギーに匹敵する。

「同じように、腸内細菌の発酵も熱の発生を伴います。動物実験では、腸内細菌のエサとなる食物繊維を食べることで産生される酢酸の作用で、体温が1度ほど上がることが報告されています。ヒトでも腸内細菌の発酵による酢酸などの短鎖脂肪酸が、深部体温を保つ一助になっている可能性があります」

代謝・発酵で体温は上がるが、体温が適度に上がると代謝・発酵も促されるという正のスパイラルがある。逆に腸内環境が悪くなり、腸内細菌の発酵がうまく進まなくなると、深部体温が下がり、それが代謝に悪影響を与えることも考えられる。

あわせて入浴や腹巻きなどで温め、お腹を冷やさないことも大切。お腹を温め、腸管の血流を良くすれば、腸内環境にもきっとプラスだ。

取材・文/井上健二 イラストレーション/鈴木衣津子 取材協力/福田真嗣(メタジェン代表取締役社長CEO、慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授)

初出『Tarzan』No.806・2021年3月11日発売

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