活動量に応じ、糖質量を調整すべき。
宮沢賢治の『雨ニモマケズ』には、「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ」というフレーズがある。玄米4合はご飯茶碗8.8杯、糖質量に換算すると約480g。その量に驚くが、それ以前の日本人は1日6合食べていたという報告もある。
家事や労働の大半を人力に頼ると、多くのカロリー摂取が必要になる。日本人はその大半を米や雑穀などの穀物に頼る食生活が長かったのだ。
活動量や体質などにより、必要な摂取カロリーと糖質量は変わる。
現代人の多くは家事や労働の重労働から解放されたが、坐っている時間が長くなり、歩数も減り、慢性的な運動不足に陥った。そうした状況を反映し、現在の日本人の米消費量は1日ご飯茶碗2.4杯程度。糖質量に換算すると130gとなる。米を含めた成人の糖質摂取量は、1日平均240gとなっている。
活動量を大きく超えるような糖質の過食は、糖尿病や肥満などの引き金となる。そこで近年注目を浴びているのが、糖質制限食。一般的には1日糖質量130g以内の食事(1食当たり糖質20〜40g)を指す。
130gと240gという2つの数字を意識しつつ、体調も体型もベストに保てる糖質量を見つけよう。
① 糖質・血糖・血糖値って何?
糖質≒糖≒甘いモノというイメージが強いけれど、日本人の糖質摂取の70%以上はご飯、パン、麺類といった主食(穀類)からだ。
主食に含まれているのは炭水化物。炭水化物と糖質はごっちゃにされやすいが、炭水化物=糖質+食物繊維。みんな大好きな白いご飯や食パン、うどんなどの主食は食物繊維をほぼ含まないので、炭水化物の仮面を被った糖質だと覚悟した方がいい。
小腸から吸収された糖質は体内ではブドウ糖(グルコース)としてやり取りされている。血中のブドウ糖が血糖、血液100mlに含まれる血糖を血糖値(mg/dl)と呼ぶ。
血糖は、脳や筋肉、酸素を運ぶ赤血球をはじめとする全身の細胞のエネルギー源として利用される。血糖の一部は、いざというときのエネルギー源として備蓄されている。これが、グリコーゲン。体格などによって異なるけれど、グリコーゲンは肝臓に70〜80g、筋肉に300〜400g程度貯蔵されている。
食事をしてから時間が経ち、全身の細胞で血糖が使われて血糖値が下がってくると、肝臓のグリコーゲンを分解して血中へ放出して、血糖値を保つようになる。一方の筋肉のグリコーゲンは筋肉専用であり、おもに運動時に使われている。
② 糖質の摂り過ぎで太る理由は?
肥満の原因は、突き詰めるとオーバーカロリー。余ったカロリーは体脂肪として蓄えられる。
食べてカロリーになるのは、糖質、脂質、タンパク質の3大栄養素。このうちタンパク質の過食で太ることはまず考えられない。肥満は、糖質か脂質の摂り過ぎなのだ。
脂質の摂り過ぎも肥満の一因だが、ご飯や麺類が大好きな日本人には糖質の摂り過ぎで太るタイプが多い。
糖質で太る理由は2つある。
糖質を摂り過ぎると血糖値が急激に上がり、血糖値を下げるために膵臓からインスリンというホルモンが大量に分泌される。インスリンは、筋肉と肝臓に血糖を取り込ませてグリコーゲンとして合成し、血糖値を下げる。でも、筋肉と肝臓に貯蔵できるグリコーゲンには前述のように上限があるため、3食欠かさず糖質を摂る食生活だと、グリコーゲンとして取り込める血糖は限られる。
余った血糖を最終的に引き受けるのは、脂肪細胞。インスリンが血糖を脂肪細胞に導いて、体脂肪が合成される。これが糖質過多だと太りやすくなる第1の理由。
そして脂肪細胞の体脂肪はつねに分解されているが、インスリンはその分解を邪魔する。それが糖質過多で太る第2の理由である。
③ 高血糖の何が悪い?
血糖値が正常より高い状態が続くのが、糖尿病。その多くは、悪しき食生活や運動不足といった生活習慣による2型糖尿病(以下、糖尿病)。約320万人が悩んでいる。
血糖値を上げるのは、糖質だけ。タンパク質と脂質は、血糖値を上げない。タンパク質と脂質を抑えた低カロリー食でも糖質が多ければ、血糖値は上がる。糖尿病の予防に、糖質制限食が有効とされる理由だ。
糖尿病ではなく、空腹時は血糖値が100mg/dl前後と正常な人でも、食後1〜2時間で血糖値が140mg/dlを超えて高くなることがある。これが、食後高血糖。空腹時の低いレベルから血糖値が急カーブを描いて上昇し、すぐに元に戻って棘(スパイク)のような軌跡を描くので、「血糖値スパイク」とも呼ばれる。
血糖値スパイクが起こると、有害な活性酸素が生じて血管を傷つける。それは動脈硬化の発端となり、心臓病や脳卒中のリスクを高める。
食後高血糖の有無は、空腹時の血糖値を調べる健康診断ではわかりにくい。早食いをしたり、食事を抜いて空腹時間を長引かせたり、一度に砂糖などから血糖値を上げやすい糖質を大量に摂ったりすると、食後高血糖は起こりやすいから、要注意。
④ 脂質とタンパク質をどう摂る?
摂取カロリーを大きく変えずに糖質を減らすなら、減らした分だけタンパク質と脂質を増やすべき。糖質をカットしたままだと低カロリーで筋肉が減り、代謝が落ちる。ならば、タンパク質と脂質はどう摂るか。
タンパク源には、肉類、魚介類、卵、牛乳・乳製品、大豆・大豆食品という5つがある。タンパク質は20種のアミノ酸からなり、うち9種は体内で合成できない必須アミノ酸。5大タンパク源を1日1回ずつ摂ると必須アミノ酸が偏りなく摂れる。
脂質で増やしたいのは、オメガ3脂肪酸。サバなどの青魚のEPA、DHA、アマニ油などのα-リノレン酸などだ。オメガ3は血液をサラサラにして生活習慣病を予防する。
逆に控えたいのは、オメガ6脂肪酸と飽和脂肪酸。オメガ6の代表は、リノール酸。大豆油やコーン油などの植物油に多く、加工食品やファストフードを食べ過ぎると過剰になりやすく、慢性的な炎症やアレルギーの引き金となる。
飽和脂肪酸はバターや肉類などに含まれる。少な過ぎてもダメだが、多過ぎるとやはり炎症を起こし、動脈硬化の危険度を高める。植物油はオリーブオイルにし、加工食品やFFを控え、乳製品や肉類の偏食は避けたい。