ケースワークで学ぶ、間違いだらけの「サプリメント」

健康によかれと思って頑張っていても、その方向がとんちんかんだと、苦労は多いのに効果はさっぱり。どころか、むしろ悪化するばかり…、なんてことに。今回は、人によっては過剰摂取しがちなプロテインなど、間違った「サプリメント」の摂り方について。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/安ヶ平正哉 取材協力/桑原弘樹(桑原塾主宰、NESTA JAPANプログラムディベロップメントアドバイザー)

初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売

ケース・その1「タンパク質摂取量を重視。どこでもプロテイン飲んでます」

プロテインが主食です。食間が空きそうな日は、シェーカーごと携帯して出先でしゃかしゃか。最近、新製品にドハマリして大人買い。あれれ? 近ごろカラダの線が崩れてきたぞ!

プロテイン

「トレーニングをしない人は体重1kg当たり0.9gのタンパク質を毎日摂るのが基準ですが、トレーニングをする人は文献によってばらつきがあるものの、2gも摂れば十分です」(桑原塾の桑原弘樹さん)

ベジタリアンやビーガンでなければ、プロテイン以外の通常食でも、いろんな食品から必要量の半分ぐらいのタンパク質は摂れているはず。

「また、1回のプロテイン摂取でカラダが利用できるタンパク質はせいぜい20~40gで、これより少ないと摂取の効果が下がるし、超えれば利用できずムダになります」

ムダになったプロテインにもエネルギーはあるから、使わなければ体脂肪になる。本人はトレーニングを頑張っているのに腹が出てきたり、シルエットが崩れてきたり。

それはそうだ。強度の高い筋トレで消費するのは主に糖だし、1回のトレーニングで消費するエネルギーは知れたもの。なぜなら強度が高いがゆえに、そうそう何度も挙げられない。つまり、実際にエネルギーを出力できる時間は、思いのほか短いのだ。

なのに、補給を頑張り過ぎると、マッチポンプの状況に陥って、筋肉質なのにまったりしたおかしなシルエットに仕上がるわけだ。

「朝食をプロテインとバナナで済ませる人もいるようですが、食事としてのボリュームに欠けるため、これでは昼までは持たないはずです」

おかげで、この気合一辺倒パターンでも補食、間食がおのずと増えて、結果的にエネルギー超過に傾く。

「増え続けるプロテインバーは、美味しさを追求しなければならない宿命なので、ともすれば砂糖や脂質が多めの配合にもなりえます」

しかも、よく見るとタンパク質の量が案外少なかったりで、当たりはずれがあるから用心すべし。

ケース・その2「必要な栄養素は基本サプリ頼み。気になる物は全て摂ってます!」

必要な栄養はサプリでどっさり摂ってます。とりあえずよさそうなものは積み上げ方式で、どんどんトッピング。 でも、全部摂るとそこそこお腹が膨らむから、 少し減らせないものかなあ?

サプリメント

「確かに通常食で十分な量を摂りにくい栄養素はあります。たとえばトレーニングをしている人が、十分な量のコエンザイムQ10を摂ろうとするならイワシを20尾とか、クレアチンを肉や魚で摂ろうとしたら毎日キロ単位の食事になってしまいます」(桑原さん)

だが、何か特定の成分を自分が不足しているかどうか、わかっている人がどれだけいるか。そもそも、いま摂っている通常食にどんな栄養がどれだけ含まれているか。わかってます?

「組み合わせにも注意が必要です。ものによっては相性のよくない組み合わせもあって、たとえばミネラル系のサプリと難消化性デキストリンなどのダイエット系成分を一緒に摂ると、吸収阻害や排出促進を生じてしまう可能性があります」

そもそもミネラルの多くは体内のストックが非常に微量だし、吸収率の低いものが多い。なのに入れさせず、出そうとすれば目も当てられないはめに。

運動による筋収縮のカギを握るカルシウムの補給も難しい。体内でカルシウムはマグネシウムとバランスをとる形で存在するが、マグネシウムが不足気味のときにカルシウムだけを補給しても、筋収縮のパフォーマンスはうまく発揮できない。

カルシウムの摂取過多は血管の石灰化を招くこともある。ミネラルの過剰摂取は同時にリスクを伴うから、1日に摂っていい限度=耐用上限量の設定されているものが多く、カルシウムなら男女を問わず成人は2,300mg。摂れば摂るほどいいってものではない。

同じことはリンとカルシウムにも当てはまる。加工食品に多く含まれるリンが不足することはまずないが、多すぎると相対的にカルシウム不足の状態に近づく。その不足を補うため骨からはカルシウムが抜けていく…。

「まずはマルチビタミン、マルチミネラルの総合的な製品でバランスを整えたうえで、単品サプリをトッピングするのが安全でしょう」

ケース・その3「同じサプリメントでも、病院で処方される物の方が良いはず!」

整形外科が処方してくれる湿布はよく効くから、処方薬や院内薬局で買えるサプリが一番だね。ものによっては保険も適用されるし、信頼性は一番さ。貧血対策の鉄剤だって、そうでしょ?

サプリメント

持久系競技者、なかでも女性に貧血が多いのは知られたこと。初期に症状は乏しく、自分がそうであることに気づいていない人は多い。典型的な症状はめまいだが、酸欠で生じる一過性の立ちくらみによく似ているので、見逃されやすい。

「ですから、貧血検査以外の目的で受診して、指摘される女性が少なくありません」(桑原さん)

診断がつくと一般的には鉄剤を処方されることになる。医療機関が出してくるのは保険適用が受けられる非ヘム鉄。ヘム鉄とは赤血球のヘモグロビンの中に存在する鉄だ。非ヘム鉄は野菜など植物性食品に多く含まれる。

これに対し、サプリとして販売されているものにヘム鉄がある。こちらはレバーなど動物性食品に由来する鉄分。少々値は張るが、非ヘム鉄が約5%程度の吸収率にとどまるのに対し、ヘム鉄は約20%と明らかに効率がよい。

「非ヘム鉄は吸収率が低いから、医療機関は相当量の鉄剤を出すので、胃が荒れるなどの副作用を伴うことがあって、同時に胃薬を出す医師もいます」

これでは医療機関の出す製品の方が劣って見えるが、ヘム鉄のように動物性ではない非ヘム鉄は処方量のコントロールが容易。恐らく品質の管理が厳密にできて、治療薬に適しているから採用されているらしいが、詳しい事情は不明。

「吸収率を重視するなら、鉄はヘム鉄を買った方がいいでしょうが、EPAとなると話は別です。実はEPAは処方薬もサプリも実質的には同等なので、必要であるとの診断がついたら、処方薬を出してもらう方がおトクです」