【糖質オフのキーワード③】「GLP-1」の実力を信じるべし!
糖質を「オン」にするならどんな糖質を選ぶべき? どんな栄養素をどういうバランスでどんな順番で食べるのが効果的?
取材・文/石飛カノ イラストレーション/浦上和久 取材協力/亀川寛大(亀川ひかるクリニック院長) 参考資料/『糖質制限の外食ガイド』(亀川寛大著、マキノ出版刊)
初出『Tarzan』No.783・2020年3月12日
注目の「消化管ホルモン」の実力。
こちらの記事でPYYという消化管ホルモンが食欲を抑制すると紹介しているが、同様の働きをする消化管ホルモンにGLP-1というホルモンがある。
PYYがアミノ酸に反応するのに対し、こちらは小腸に入ってきた糖質に反応する。どちらのホルモンも迷走神経経由で脳に働きかけて、「もうお腹いっぱい」という満腹感をもたらすのだ。
GLP-1の働きはそれだけではない。糖質を運搬するのに必要なだけのインスリンの追加分泌を助けて血糖値が無駄に上昇するのを防ぐ。
さらには血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンを抑制する作用が期待できるのだ。つまり、ダブル作用で血糖値上昇を抑えてくれるというわけ。
こうしたGLP-1の働きを期待したいなら糖質オールカットはナンセンス。むしろ、オンしていくのが正解だ。
でも、ここで問題がひとつ。GLP-1を分泌する小腸の細胞をL細胞というが、これがあるのが小腸下部。
白いごはん、白いパンといった精製された主食は小腸の上部から速やかに吸収されてしまい、L細胞まで辿り着かない可能性が高い。実際、白いごはんを食べてから血糖値が上がるまで15分程度。おそらく小腸の上部から吸収されている。
そこで、どうせ糖質をオンするなら、未精製の主食。大麦、もち麦、オートミール、ライ麦パン、全粒粉パスタなどなど。ヒトが消化できない食物繊維を含むこれらの糖質食品はしっかり小腸下部まで運ばれてGLP-1の分泌に漕ぎつけることができるって寸法だ。
「血糖値が上がりにくい」法則。
日本人は昔から米を食べてきたから制限する必要ナシ? いや、今と昔では食べている米の種類も食べ方もまったく違う。炭水化物に含まれる糖質、いわゆるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンの2種類がある。
アミロースはブドウ糖が長く鎖状に繫がったシンプルな構造、アミロペクチンは鎖がいくつにも枝分かれしている構造だ。で、この2つのでんぷんの配合によって炭水化物の持ち味が変わってくる。
米ならばアミロペクチンが多いほどもちもちして粘りがあり、アミロースが多いほどパサパサしてあっさりした風味。そして、後者の方が血糖値が上がりにくい。
で、昔の日本人はどちらかというとアミロペクチン比が高いコシヒカリ系より、アミロース比の高いササニシキ系を日常的に食していたと考えられる。
さらには朝炊いたごはんをおひつに入れ、昼も夜も食すスタイル。冷えたごはんのでんぷんの一部は、人の酵素では消化できないレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)となる。こうした食べ方でより血糖値が上がりにくくなるのだ。
つまり、米を選ぶならササニシキ系、コンビニで弁当を食べるならレンチンせずに冷やごはん。
短鎖脂肪酸の働きで多角的なダイエットを。
食物繊維が豊富な未精製の主食を取り入れるメリットはGLP-1の分泌だけではない。それは短鎖脂肪酸の働きに期待が持てること。
脂肪酸を構成する炭素の数が6個以下のものを短鎖脂肪酸というが、これはヒトの大腸内の腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖というエサを分解する過程で作られる。
具体的な物質としては酢酸、プロピオン酸、酪酸など。これらの一部は大腸から血流によって全身に運ばれ、さまざまな役割を果たす。なかでも酪酸はケトン体の材料になることも分かっている。
また、短鎖脂肪酸が多く作られることでダイエットの強い味方、消化管ホルモンのGLP-1が分泌される。これによって血糖値の上昇と食欲の抑制、どちらの効果も期待できるのだ。
短鎖脂肪酸を有効利用するためには、未精製の主食とともに水溶性食物繊維を同時に摂ることがおすすめだ。海藻、納豆、ゴボウなど。つまり昔ながらの和食が正解。