
「肥満症」というと、“自己管理ができていない”“意志が弱い”などネガティブな視線を向けられることや偏見を持たれることも少なくないが、それは大きな誤りである。生まれ持った遺伝子が関係しているケースもあれば、インターネットや交通網の発達による運動不足など社会環境の変化、ストレスによる食欲増進など要因はさまざまだ。

「肥満症」への偏見や理解不足が、患者を治療から遠ざけたり、不当な扱いを受ける一因となることも少なくない。「肥満症」が医師による治療が必要な疾患であり、個人の意志や管理能力とは関係なく発症するなど、正しい理解が社会に浸透することが求められている。
つまり、「肥満症」は“自己責任”という考え方でとらえないことが大切であり、職場で不当な評価を受けたり、いじめに繋がったり、医師による否定的な対応で病院に行きづらくなるといった、社会的な機会の損失を防ぐことも大きな課題の一つとなっている。
「肥満症」は命に関わる疾患でもあると聞くが、「肥満症」と正しく向き合うにはどうすればいいのか? 専門医である「医療法人みなとみらい」理事長の田中俊一先生にお話を伺った。

数多くの肥満症の患者と向き合ってきた田中俊一先生。糖尿病や生活習慣病、睡眠時無呼吸症候群などの治療を行う。
ただの「肥満」ではない? 健康障害が診断の分かれ目に。
「『肥満』の原因は、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り、脂肪と体重が増加することにあります。ただ、『肥満』と『肥満症』は違います。日本人の場合、体重と身長から算出されるBMI(体格指数)が25以上の場合、「肥満」に分類されますが、病気ではありません。一方の『肥満症』は、BMIが25以上であることに加え、肥満による健康障害や合併症があるなど、医学的に減量が必要な場合に診断されるものです。また、内臓脂肪蓄積がある場合も『肥満症』と診断されます」(田中俊一先生)
内臓脂肪蓄積というと「メタボリックシンドローム」を思い浮かべる人も多いと思うが、「メタボ」は「肥満(※BMI25以上)」である・なしに関わらず、内臓脂肪蓄積に加え高血圧、高血糖、脂質異常のうち2つ以上に該当する場合をいい、「肥満症」とは診断基準が異なっている。

「肥満症」は今抱えている合併症以外にも、このような心血管代謝性疾患と呼ばれるさまざまな健康障害を引き起こしやすく、心疾患のような命に関わる疾患のリスクも高まる。BMIの数値が25以上であり、11の健康障害のうち一つでも当てはまる人は「肥満症」の可能性が高いので注意が必要。一度、医師に診てもらうことをおすすめしたい。
また、「肥満症」の診断基準となる健康障害としては、次の11種が挙げられる。『耐糖能障害』、血液中のコレステロールや中性脂肪が基準値よりも多い『脂質異常症』、『高血圧』、『高尿酸血症・痛風』、心臓を養う血管の血液量が減少する『冠動脈疾患』、『脳梗塞・一過性脳虚血発作』、『非アルコール性脂肪性肝疾患』、『月経異常・女性不妊』、『閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群』、『運動器疾患(変形性関節症)』、『肥満関連腎臓病』。
「国内における『肥満症』の認知度は徐々に広がってきており、病気だと認識して治療を受ける人も増えています」
下記のHPでは身長と体重を入力するだけで肥満症のチェックができるので、気になる人はチェックしてみよう。
規則正しい生活が治療の第一歩。まずは医師に相談を。
「『肥満症』の治療法は減量です。まずは、食生活を改善し、栄養バランスのとれたメニューで適正なカロリーを摂るところから始めます。また、過食を防ぐためにはストレスを和らげることが重要なので、瞑想や運動など、ご自身に合った発散方法を取り入れることもポイントです。
そして、睡眠中に呼吸が止まる『睡眠時無呼吸症候群』を改善することも、『肥満症』の治療には有効。『睡眠時無呼吸症候群』の状態が続いて眠りが浅くなるとホルモンバランスが乱れ、過食になりやすいからです。

気になることがある人は「肥満症」外来を検索、医師に症状や治療法を相談してみよう。
このように、『肥満症』の治療は規則正しい生活を送ることが大切ですが、医学的な見地から、必要に応じて薬物療法が検討されることもあります(※)。まずは医師と相談して自分に必要な治療法を見つけてください。治療には時間がかかることが多いため、ご自身の心身に寄り添って並走してくれる相性のいい医師に出会えると安心です。また、「肥満症」を改善することでどんな自分になりたいかという目標を設定したり、乗り越えた先にどんな未来が待っているかと想像することも、治療を続けていく上でおすすめの方法です」
※薬物療法には、GLP-1受容体作動薬や食欲抑制に関連する薬剤、漢方薬など、複数の選択肢があります。
BMIの数値が25を超え、体に不調が現れている状態で「肥満症」が気になる人は、医師に相談することで症状が改善し、自身のQOLをあげることに繋がるかもしれない。また、当事者が病院に行きやすくなり、周囲の協力を得やすくするためにも、私たちみんなが「肥満症」を正しく理解することが大切だ。



















