100マイルレーサー・植木香さんが 〈HOKA〉の《MAFATE 5》を履く理由。
厳しい条件の山道での走行に適したトレイルランニングシューズ《MAFATE 5》。優れたクッション性とグリップ力、耐久性が特徴だ。植木香さんは、40歳からフルマラソンに挑戦し、その後、国内外の様々な長距離レースを走破。現在、ランニングインストラクターとしても活動する彼女が《MAFATE 5》を履く理由とは。
取材・文/河田愛歌 撮影/寺沢美遊

Profile
植木香(うえき・かおり)TRACK TOKYO ランニンググラブでインストラクターを務めた後、独立。選手としても国内外のレースに出場し、2025年、フランスのシャモニー=モン=ブランで開催された、トレイルランニングの最高峰レース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(以下UTMB)」に挑戦した。
40代で走る楽しさを知り、美しく走ることを追求。
ランニングとの出合いは、40歳を迎えるときに友人たちと半分冗談で「東京マラソン」に応募したこと。高い倍率の中、植木さんだけが当選。初のフルマラソンを5時間で完走し、「もしかしたら向いているかも」と思ったことからのめり込んだ。トレーニングを始め、翌年に「名古屋ウィメンズマラソン」に出場したら、目標だったサブ4を達成。その後も順調にサブ3.5を果たした。
「名古屋を走った際に、ロードは満足してしまったんです。もともとキャンプやアウトドアが大好き。山や海で自然を感じながら、家族でご飯を食べることに幸せを感じていました。マラソンにハマったときも、いつかトレイルランニングに挑戦したいと思っていたんです。当時は、まだトレランブームこそ来ていませんでしたが、自然の中を走る映像を観ては『かっこいいな』と思っていました」
トレイルランニグブームが本格的に日本に上陸したのは、パンデミックの少し前のこと。周囲にトレイルランナーはいなかったと振り返る。ネットで検索して「東京ランニングクラブ」のトレーナーのセッションを見つけて参加するように。「名古屋ウィメンズマラソン」を完走した、わずか3ヶ月後のことだった。
「トレランを始めたらもう『これだ! 』と。足場は悪いし急こう配もあるけど、全く抵抗がなくて。もちろん、登りなんか全然走れなかったけど『楽しい』という気持ちが勝っていました。タイムを競うこと以上に、非日常感を味わえるというか。走り終えた達成感がフルマラソンより圧倒的に大きかったんです。走りながら自然の光や空気、匂いを感じて、時間を忘れて没頭できる。何より走った後のご飯とビールの美味しさが違う(笑)。体調も30代のときよりも調子がいいかもしれないですね」
植木さんの驚くべきところは、その行動力と追求心だ。「もっとかっこよく効率的に走りたい」というモチベーションから、フォームの研究を独自に開始する。それから「TRACK TOKYO ランニングクラブ」にスカウトされ、インストラクター業を開始。現在は自ら得た経験と考えを元に、自身の教室を開催するまでになった。
「まずは自分で続けてみる。『この人かっこいいな』と思うランナーの真似をする。走っている動画を撮って見直す。やはり、陸上を長年やってきた人の講習会は、難しくてなかなか自分のものにできないんです。自分なりの方法を模索するのが私にはあっているみたいです。その分、習得するまでに5年もかかったんですけど。市民ランナーレベルだと、ほとんどの方がタイムや距離を重視していて、良いフォームを求めていないと思います。そこはもう美意識の世界。あとは、股関節や腰、膝を痛めたくないので、上手に身体を使いたいという気持ちもありました。なので、自分でセミナーを開くようになってからは、参加者さんそれぞれの特長や要望、レベルやクセに合わせてレッスンするようにしています。12人いたら、12通りの学び方があるし、運動経験やブランクもあります。もともとのポテンシャルも違いますから」

写真左上から時計まわりに、得意な料理を活かし、アスリートフードマイスターとして食のアドバイスも行う。/スポーツドリンクの代わりに自家製の紫蘇ジュースを愛飲。/「UTMB」で途中リタイアとなった瞬間。/「ROUND GIRLS 100」の顔として活動中。/主催者としての出場者とスタート走る。
女性トレイルランナーとして、アスリートとして。
今年はビッグイヤーだという植木さん。一ヶ月に6、7回開催する自身のトレランセミナーや企業と協業するイベントでのレクチャー以外に、女性向けのトレイルランニング大会「ROUND GIRLS 100」を主催。さらに、念願だったヨーロッパアルプスを舞台とした世界最高峰のトレイルランニングレース『UTMB』への出場も果たす。
「5月に日本初女性だけの100マイルのトレイルを走るレースを主催しました。プロデュースする立場だったのですが、仲間と準備を進めた甲斐あって、第一回目なのにかなり注目されました。多くのトレラン仲間や男性にもサポートに入ってもらいました。短い距離の女子向けのトレランレースは既にあるのですが、同じじゃ意味がないと思って100マイルにしました。女性が安心してアクセスでき、気負いなく参加できる大会を開催したかったんです。もちろんトレラン人口を増やしたいという目標もあります。最初は“ガール”という単語を使うのに抵抗がありましたが、一方で日本人女性は大人になっても『可愛い』と言われることが嫌いではない(笑)。親しみやすさを込めてあえて使いました」
想像以上に大変だったという、レースの準備。自治体や警察、地域の人たちへの挨拶回りから始まり、多忙を極めたという。その3ヶ月後に迫っていたのは「UTMB」。出走するためにランニングストーン(※「UTMB」の出場のための抽選で必要となるポイント)を貯め、6月には「KAGA SPA TRAIL by UTMB」に出場。突貫工事ではあったが、コンディションを整える算段だったという。
「やはりかなり難しい世界でした。『UTMB』は、毎年、天気に恵まれてコンディションがいいイメージでしたが、まさかの雪。念願の夢の舞台でしたが、標高2500mが続く山の規模や過酷さに圧倒されてしまいました。正直、膝の怪我と準備不足で調子があまりよくなく、現地入りしたときも万全とは言えない状態だったんです。結果としては途中で低体温症になってしまい、100キロ地点でレースを終了しました」
女性トレイルランナー界を背負う活動とアスリートとしての両立の難しさ。災難続きのレースで得たものを尋ねると、意外な回答が返ってきた。
「一番出たかったレースではあったのですが、自分の活動を続ける中でずっと家族に迷惑をかけていると思っていたんです。でも、日本から娘が応援してくれたことがすごく嬉しくて。ずっと興味がないと思っていたんですが、GPSのライブのビブスナンバーを追い、見守ってくれていたんです。帰国すると、娘が私のビブスをぬいぐるみの首にかけていて。『ママは100キロまで頑張ったんだから』と言ってくれた。この先、悔しい気持ちが募るのかなと心配していましたが、前向きな気持ちになれたのは有り難かったです」
植木さんはまた「UTMB」に挑戦したいと語る。その際は、娘と一緒に大会に入り、一緒にゴールを切りたいという。「UTMB」恒例のハイライトはゴールシーン。赤ちゃんを抱っこしたり、パートナーや仲間を抱きしめたりして、思い思いにゴールを切るのがお決まりだ。

クッション性とプロテクションを強化した《MAFATE 5》は、長距離ランニング中も抜群のコントロール力を維持。弾力性に優れたソフトなフォームとソールのクッション性が高いフォームで構成され、ヴィヴラムソールが足元のグリップ力を付与している。
《MAFATE 5》を中級者に推したい理由。
トレイルランナーとしての階段を駆け上がっている植木さん。振り返ると、ファーストシューズは〈HOKA〉の《SPEED GOAT》で、初代からアップデートする度にずっと愛用してきたという。今回「はじめまして」だった《MAFATE 5》の第一印象を聞いてみた。
「レースに出るときは、いつも『これで走るぞ』と決めていきます。《MAFATE 5》のようにビブラムソールのシューズが大好き。固い道でも滑りにくいし、グリップ力が違います。『UTMB』でもそうでしたが、予想外のコンディションに備えて一足ビブラムソールでクッション性が高いシューズを持っていくと、心理的にも安心できる。荷物の中にあるのとないのとでは、レースに臨む気持ちが違いますね。最初に土の上を歩いたときは、前によく進むのでびっくりしました。踵のあたりが一度、沈んでからぐっと前に進む感じ。走っていて楽なんです。《SPEED GOAT》は推進力より、安心安全靴で重心がぶれないエントリー向けですが、《MAFATE 5》はどちらかというと中級者におすすめしたいです」
《MAFATE 5》を、中級者トレイルランナーにおすすめしたい理由についてこう語る。
「まず、登るのが好きな人には、かなり推進力と安定感があるので走りやすいと思います。一方、グリップがしっかり効くので、下りが得意な人にとっても面白いはず。トレイルランニングシューズは1ヶ月ぐらい履くと、クセや感覚が分かって仲良くなれる。互いにコミュニケーションが取れるようになるんです。ある程度、履きこむこともおすすめしたいです。『UTMB』でも〈HOKA〉のシューズを履いている人は多かった。山から生まれたブランドへの信頼感を感じました」