〈HOKA〉の《クリフトン10》| これ、履きたい。

スタイリング・文/小澤匡行 撮影/川谷光平 ヘアメイク/奥野陽子

シューズ《CLIFTON 10》 19,800円、ランニングトップス 8,030円、ショートタイツ 9,130円、キャップ 5,390円、以上ホカ、問い合わせ先:デッカーズジャパン 公式サイト、バッグ 15,400円、テンベア、問い合わせ先:テンベア トウキョウ 公式サイト

文・小澤匡行

真夏のランニングは、ただただ暑い。学生の頃は、サマータイムのように部活の開始を早めて、少しでも涼しい時間に走り始めていたが、それだって30年以上も前の話で、昨今ほどは暑くはなかった。今は朝6時だろうと7時だろうと、蝉の声はまだ遠慮がちでも、暑気は容赦なく自分の身体に染みわたってくる。

マイコースの代々木公園を走っていると、木々の中を通り抜けていくたびに、まるで草木のぬるい空気を仰がれているようだ。しかしそれを皮膚が吸っていく感覚は、いうほど苦手ではなく、むしろ心地よいものに変換されることがある。

僕が軸足を置いているファッションの世界だと、この時期はちょうどシーズンの立ち上がりで、いわゆる撮影の繁忙期である。外ロケも多いから暑さに慣れておきたいし、日夜、原稿とも向き合い続ける体力を蓄えておきたい。そのためには、気持ちのいい厚底シューズを履いて、ゆっくりと走ることを楽しみたい。頑張ることがしんどい夏には、夏の目的がある。季節によって走ることとの向き合い方を変えるのは、結構大事だったりする。

山を走ることを愛する二人のトレイルランナーによって設立された〈ホカ〉は、トレイルランナーたちの脚にかかる負担を軽減するために、型破りな厚いミッドソールを生み出した。僕が初めて履いたのは、たしか《クリフトン5》だ。シリーズ自体はもっと前からリリースされていて(初代モデルは2014年)、〈ホカ〉の日本における流通が整い始めた2017年くらいのタイミングで4代目がローンチされた記憶がある。この頃は、ノームコアという「頑張らないおしゃれ」がステータスとなり、実用的で快適なものが次々とファッションに昇格されていった。足元はミニマムでクッション性があり、ヘルシーさを感じるスニーカーを人は求めるようになっていった。その中で〈ホカ〉は哲学をもったソールが、ノーマルの文脈にちょっとした違和感を含ませつつ、選ばれるようになった。その頃の僕は生活リズムとファッションの視点から、いかに走ることを日常に溶け込められるかを模索していて《クリフトン5》を履くようになった。

当時、僕はまるで脚にタイマーが仕込まれていたかのように、7kmくらい走るときまって右膝が痛み始めていた。フォームが悪いのか、シューズが合っていないのか、とにかく「正しく走るコツ」をパーソナルコーチに教わったりしていたのだが、最も効いたのは《クリフトン》を履くことだった。プロテーゼのように脚の一部となってくれたことで走れる距離が伸び、タイマーがいい意味で狂った。そうして僕にとって〈ホカ〉は、「身体とうまく付き合える」健康と結びつくブランドになった。

実際にUSの公式サイトでは商品カテゴリの中に「Nursing & Medical Work」という項目が「Race Running」や「Trail Running」や「Hiking」とともに並んでいる。これは日常の立ち仕事や医療現場など、ランニング以外の幅広いシーンで選ばれていることを意味している。今回紹介する《クリフトン10》はそのカテゴリにもソートされていて、しかも商品ページに「APMA Accept」という表示がついている。APMAとは1912年に設立されたアメリカの足病医学の専門団体のことで、解剖学・医学的に足と健康をサポートする設計であるものに与えられる保証書のようなしるし。AMPAを取得しているシューズは各メーカーにあるものの、中でも〈ホカ〉は多いのである。

脚に負担をかけずに長く走りたい人に、ぜひ足を通してもらいたい。クッションだけでなくフィットもどんどん進化している。最新の「クリフトン10」に足を通せば、それを実感できるはずだ。とくにヒール周りに吸い付くような存在感があり、普段履きでもその恩恵を授かることができる。そして〈ホカ〉のカラーリングはアメリカとヨーロッパの空気感がミックスされていて、どこか独特だ。タウンユースを前提に選ぶと、白か黒のトーナルカラーばかりを選びがちだが、このブランドに限っては、鮮やかな色も淡い色も等価である。しかもウェアも含めて、派手であることが気にならない。むしろ朝の重々しい夏の空気に混ざると、軽く感じるから不思議である。