きっと歩きたくなる。自然歩きのプロが選んだ8つの道
難易度にも景色にもそれぞれの魅力あり。自然歩きのプロによる、これから始める人への8つの道。その魅力を知れば、あなたもきっと歩きたくなるはず。
取材・文/黒澤祐美、豊田耕志 撮影/伊達直人
初出『Tarzan』No.843・2022年10月6日発売
目次
美ヶ原~三峰山コース
所要時間:8時間+休憩
ルート:美ヶ原長和町営駐車場 ⇄ 美ヶ原牧場 ⇄ 扉峠 ⇄ 三峰山
往復15kmのルート。少しハードだなぁと思った方は、扉峠スタートで三峰山まで往復6kmの3時間コースを選ぶのもあり。どちらもアクセスは車で。
出発地点の美ヶ原は、八ヶ岳や日本アルプスが遠くに聳える広大な台地。空も近く、道沿いの牧場では、ぼんやり牛が寝そべったのどかな景色が素敵です。そこから扉峠までの下りは、広葉樹林やカラマツ林で、春は新緑、秋は美しい紅葉を楽しめるスポット。
扉峠に差し掛かると上りが始まるので、その前にちょっと休憩しておくのもいいかもしれません。適度にストレッチし、筋肉の緊張をほぐしておくとその先のウォーキングがグッと楽になります。
最初は樹林帯が続きますが、しばらくすると木がなくなり展望の良い稜線歩きに。そしてゴール地点の三峰山頂は360度開け、富士山、北アルプス、南アルプス、八ヶ岳などが見える絶景ポイント。山頂に続く一本道も可愛らしく、歩きたくなる自然路ですね。
根本絵梨子さん
教えてくれた人
ねもと・えりこ/写真家。群馬県生まれ。スタジオ勤務を経て、2016年独立。雑誌や広告で活躍。写真を撮るようになって目覚めた山歩きがライフワーク。
信越トレイル(関田峠 ⇆ 牧峠)
所要時間:4時間+休憩
ルート:関田峠 ⇆ 牧峠
関田峠周辺に整備された散策路を歩くだけでも気持ちいいが、もっと汗をかきたい人には約4時間かけて牧峠を往復するデイハイクをおすすめしたい。
長野県と新潟県の県境となる関田山脈を駆け、秘境・秋山郷から苗場山へ続く日本を代表するロングトレイル。標高1,000mちょっとの山々が連なる里山歩きから茅葺き屋根の民家が並ぶ豪雪地の山村、高層湿原を抱える百名山まで、バリエーション多彩な総延長120kmです。
トレイルはボランティアの手でよく整備され、テント場が点在しているためテント泊スタイルでスルーハイクも可能。ベストシーズンは紅葉時期で、ブナをはじめとする原生林が美しく、眼下の飯山盆地が黄金色に輝く。
日帰りハイクでおすすめのエリアは、関田峠のあたり。5mもの雪に覆われる豪雪地に生きるブナは生命力がみなぎり、包容力を感じる。雨が似合う森なので、天気が悪くても楽しめるトレイルです。
森山伸也さん
教えてくれた人
もりやま・しんや/アウトドアライター。アウトドア雑誌を中心に執筆活動を行う。新潟県に在住し、一年を山や沢で過ごす。著書に『北緯66.6°北欧ラップランド歩き旅』。
石巻山コース
所要時間:4時間+休憩
ルート:石巻山展望台駐車場 ⇆ なつめ別館 ⇆ 石巻山神社 ⇆ 林道入口(通称・ゲート)
朝野さんがオススメするのは、両端に樹木が鬱蒼と茂った道。最初は舗装路だが、途中から砂利道に変わるので、ハイキングシューズは必須。
オススメするのは僕の活動拠点である愛知県豊橋市のシンボル・石巻山です。標高385mの小さな山ですが、その昔は信仰の対象として、東海地方のロッククライマーたちの聖地(今は登攀禁止)として崇められた場所。
石灰岩がごろごろ転がる山頂方面に向かう豊橋自然道と呼ばれるハイキングコースもありますが、あえてそちらに向かわず、石巻山の中腹にある駐車場から旅館〈なつめ別館〉や石巻神社沿いの林道を進みましょう。
平坦な道が続くのでビギナーにぴったりだし、何より多様な蝶々の姿を拝むことができますから。10月には渡り蝶のアサギマダラが飛来する地でもあり、ゴール地点の林道入口(通称・ゲート)で見られるかも。その手前は素晴らしい眺望スポット。三河湾を一望できますよ。
朝野雄大さん
教えてくれた人
あさの・ゆうだい/デザイナー。鹿児島県生まれ。蝶採集を生き甲斐とし、2019年に蝶採集のためのハンティングウェアブランド〈tehutehu〉をスタート。
南魚沼・坂戸山コース
ルート:坂戸山登山口⇆坂戸山頂上
所要時間:3時間+休憩
目の前にトイレと駐車場がある坂戸山登山口から坂戸山山頂までを往復するコース。少し離れた場所には緩やかな上りの「寺ヶ鼻コース」もある。
標高634m、スカイツリーと同じ高さの坂戸山。大規模な山城の城跡は国指定の文化財でもあり、南魚沼市のアイコン的存在です。
山頂からは南魚沼の街並みを360度見渡すことができ、カタクリが見頃な4月下旬〜5月上旬には一面に紫の花の大山群が広がります。薬師尾根登山口からのコースは「城坂コース」「薬師尾根コース」の2つ。
大河ドラマ『天地人』のロケ地にもなった「城坂コース」には城跡地が残り、歴史を感じながら歩くことができます。上りも緩やかなので、体力に自信のない人にもおすすめ。私が普段トレーニングで上っている「薬師尾根コース」の頂上までのコースタイムでおよそ80分(20〜30分で上がる強者も!)。
ひたすら急坂と階段を上る、トレーニングにぴったりなコースです。
小野塚彩那さん
教えてくれた人
おのづか・あやな/プロスキーヤー。新潟県出身。2014年ソチ五輪スキーハーフパイプ銅メダリスト。2017年世界選手権優勝。2018年に山を滑るフリーライドに転向。
権現山・弘法山のんびりハイキングコース
所要時間:3時間+休憩
ルート:小田急線秦野駅 → 権現山 → 弘法山 → 鶴巻温泉駅
新宿駅からおよそ1時間の小田急線秦野駅から、同じく小田急線の鶴巻温泉駅に向かうコース。適度なアップダウンと景色で、お手軽ながら達成感がある。
小田急線の秦野駅から鶴巻温泉駅へと抜けるコース。秦野駅から約20分歩いた弘法山公園入り口からトレイルに入り、浅間山、権現山、弘法山、吾妻山と小さな山を縦走します。
「縦走」というと少々身構えてしまうかもしれませんが、距離は6kmほどで程よいアップダウンなので、初心者の足でも3時間で歩くことができます。途中にトイレや休憩場所、エスケープしやすい道があるのも安心。
春は桜、秋は紅葉が見られ、とくに空気が澄んでいる秋は富士山が綺麗に見えることが多いです。そしてなんといっても、程よく疲れたカラダを待っているのがゴール後の温泉!
日帰りでも十分楽しめますが、鶴巻温泉の老舗旅館〈陣屋〉に1泊して帰るという楽しみ方もできるのがこのコースのいいところです。
安藤真由子さん
教えてくれた人
あんどう・まゆこ/登山ガイド、体育学博士、健康運動指導士、低酸素シニアトレーナー。国立登山研修所の講師や日本山岳ガイド協会認定登山ガイドも務める。
美北海道・大雪高原温泉 沼めぐりコース
所要時間:4時間+休憩
ルート:登山口(ヒグマ情報センター)⇄ 土俵沼 ⇄ 大学沼
ヒグマの生息地なので、出発地点の〈ヒグマ情報センター〉でコース利用のレクチャーを受けて、入林者名簿に記入することが必須条件。15時までに下山。
大雪山の一角に位置する沼めぐりは、登山初心者でも歩ける穴場のコース。北海道の山々は本州よりもさらに自然が深く、このコースもヒグマの生息域だけあって原初の姿が残っています。
点在する大小20個ほどの沼は静かに澄んで美しく、立ち去るのが惜しく、時を忘れてしまうほど。秋にかけては紅葉が素晴らしいですが、大混雑する可能性があるので要注意。本当は時間をかけて、土俵沼からヤンべ温泉分岐までグルリと一周してほしいところですが、途中の大学沼より先は雪渓や沢の徒歩もあるため、歩き慣れない人は大学沼往復が無難かもしれません。
自然歩きの魅力は、日常を離れた景色と静寂の中でそこにある自然を見つめて、新しい発見をすること。何か見つかるといいですね。
若菜晃子さん
教えてくれた人
わかな・あきこ/編集者。『山と溪谷』の副編集長を経て、現在はフリーとして活動。著書『東京近郊ミニハイク』では、自然歩きを優しく説く。
上高地・涸沢コース
所要時間:12時間+休憩
ルート:上高地バスターミナル ⇆ 明神分岐⇆ 徳沢 ⇆ 横尾 ⇆ 本谷橋 ⇆ 涸沢カール
ゴール地点の〈涸沢ヒュッテ〉に泊まるのが好ましいが、日帰りの場合は朝5時台にバス停を出発するのがベター。順調に行けば、15時までに戻れる。
涸沢は北穂高岳、奥穂高岳、前穂高岳に囲まれた日本を代表する氷河地形。夏でも雪が残り、秋には一面の紅葉が山を彩ります。穂高の山々に登るのは難しいという方でも、涸沢までは比較的なだらかな道が続き、荘厳な景色を望むことができます。
スタート地点のバスターミナルから白樺の美しい姿が立ち並ぶ徳沢や横尾大橋くらいまでは週末ハイキングのような雰囲気が続きますが、本谷橋を過ぎた辺りから山行感が増してくる。その風景の移り変わりもこのルートの魅力。
そして、フィナーレとなる涸沢カールではダイナミックな景色が待っている。長時間歩き続けたからこそ、より感覚が研ぎ澄まされて、その悠久の景色を五感をフルに使って味わうことができるはずです。
成瀬洋平さん
教えてくれた人
なるせ・ようへい/画家。岐阜県生まれ。山で体験したことを絵と文章で素敵に描く。いつか歩いてみたい自然路は、ジョン・ミュアー・トレイル。
北九州・平尾台コース
所要時間:3.5時間+休憩
ルート:吹上峠 → 大平山→四方台 → 貫山 → 四方台 → 吹上峠
吹上峠駐車場の道路を挟んだ向かい側にある、吹上峠登山口がスタート。距離はおよそ7.5km。累積標高は450mと緩やかなコースで、気持ちよく歩ける。
日本3大カルストとして知られている平尾台エリアの吹上峠を起点に、貫山までを往復しながら平尾台をぐるりとラウンドする人気のハイキングコース。
福岡県北東部に位置する平尾台は、最高峰の貫山(710m)をはじめ周辺には300m〜600mほどの山が点在するカルスト台地で、北九州国定公園にも指定されています。コースは平尾台名物の石灰岩(ピナクル)がゴロゴロと散らばる羊群原を眺めながら歩く、緩やかな稜線。
緑色の草原に一本続くトレイルは思わず走り出したくなります。草原にたくさんの羊が群れているように見える石灰岩が映えるのは春ですが、緑からススキの草原に姿を変える秋もおすすめ。平尾台は日差しを遮るところがないため、気温の高い日はしっかりと水分の準備を忘れずに。
鬼塚智徳さん
教えてくれた人
おにづか・とものり/トレイルランナー。福岡県出身。実業団の九電工を経て、トレイルランナーに。現在は100マイルレース中心に挑戦し、2022年UTMFでは4位入賞。