富永啓生(バスケットボール)「バスケットボールが好き。 それが一番大事だと思う」

ロングシュートで観客をドッと沸かせる。今や日本の中心選手として活躍する彼が、この先の道へと繫いでいきたいこととは。(雑誌『Tarzan』の人気連載「Here Comes Tarzan」〈2025年10月9日発売〉より全文掲載)

取材・文/鈴木一朗 撮影/赤澤昂宥

初出『Tarzan』No.912・2025年10月9日発売

富永啓生バスケットボール
Profile

富永啓生(とみなが・けいせい)/2001年生まれ。188cm、85kg。愛知県豊橋市の桜丘高校3年時に全国高等学校バスケットボール大会に出場し、1試合平均39.8得点で大会得点王に。19年、アメリカ・テキサス州のレンジャーカレッジに進学。21年にネブラスカ大学に編入。22年、日本代表に選出され、ワールドカップのアジア予選オーストラリア戦でデビュー。18得点を決める。23年にワールドカップ、24年はパリ・オリンピックに出場。レバンガ北海道所属。

重圧や責任は大きい。 でも一番に考えるのは 本当に楽しむこと。

近年、日本のバスケットボールは確実に力をつけてきている。その中心を担う不可欠な存在が富永啓生である。2年前のワールドカップでは、にわかには信じられない働きを見せた。

相手は強豪フィンランド。18点もリードされた第3クォーターの終盤、3ポイントシュートを含む5連続得点を決め、チームを勝利へと導いたのである。彼は3ポイント、つまりリングから6.75m離れた3ポイントラインの外から打つシュートの名手であるが、もちろんそれだけではない。

この試合後に日本代表のトム・ホーバス・ヘッドコーチから「ディフェンスよかったよ」と声を掛けられたほどで、つまり攻守で輝くオールラウンドプレーヤーなのだ。それにしても、どうしてあんな苦しい状況で鮮やかなプレーができるのであろう。その心情はいかに。

富永啓生バスケットボール

「大きな大会になればなるほど、重圧や責任感は大きくなっていくことは間違いないです。その中で緊張感はあるんですが、自分のマインドとしては、緊張ばかりしていても自分らしさは出ないと思う部分がある。だから、いつも一番に考えているのは、本当に楽しんで、自分らしさを出してやるっていうことなんですよ。もともと注目されるのが好きというタイプなんですけどね(笑)」

とはいえ、その場で楽しめるためには、確固とした裏付けが必要だ。普通の人が“楽しもう”と気軽に思うのとは、次元が違う。背負っているものは、とてつもなく大きいのだ。

富永啓生バスケットボール

「やっぱり、今までやってきたことで、自分たちなら勝てるという自信があるからだと思うんです。それがないと、うまくいかないというのが大前提ですし。だから、日々の練習が絶対に必要。いつも集中して初めて自信に繫がってくるんです」

強くなっている日本だが、25年8月に行われたアジアカップではメダルが目標であったのに、準々決勝進出戦でレバノンに敗退。富永も執拗なマークを受けて、自分のプレーをほとんどさせてもらえなかった。

富永啓生バスケットボール

「これまでのバスケット人生でフェイス(オフェンスに密着してパスをブロックするディフェンス)をされることは多かったので、個人としての対策はたくさん持っています。これは言い訳になるんですが、自分が代表に合流してからの時間が少なかった(富永は7月後半に日本代表に追加招集された)。それで、これまで以上にできなかったとは思います。ただ、本当にいい経験でした。ビデオを見て振り返って、この場面ならこうできたということも多くありましたし。だから、アレはあれでよかったという気持ちもあるんです」

触れば触るだけ、ボールがわかってくる。

両親が元バスケットボール選手。家の中にはボールがいくつも転がった環境だった。幼い子供でも手を伸ばせば触れられる身近なものだった。

富永啓生バスケットボール

「このことは、すごく大きかったと思います。触れば触るだけ、ボールのことをよく知れるというか、感覚というのがわかってくる。軸を捉えるってよく言うじゃないですか。ボールにもやっぱそんな感じがあって、一番力を伝えやすい場所というのがある。それが理解できて、軸を捉えられていればシュートを打つときでもパスをするときでも、まっすぐ飛ぶし正確になる。小さい頃からずっと触り続けていたからわかることで、その部分は他の人より優れていると思うし、本当に今に生きていると思ってもいるんですよね」

驚くことに3ポイントは、今に至る基本が中学のころには出来上がっていたようだ。これも、自然に培ってきた感覚が結実した証しであろう。

富永啓生バスケットボール

「中学生のときは身長も低くて、3ポイントだけが唯一の強みだったんです。そこから高校、大学になるにつれて、それ以外を成長させていった。まず身長が伸びたことで、ドライブ(ディフェンスに切り込んでゴールに向かうプレー)なんかができ始めた。そうするとディフェンスとしても、止めづらいという印象が残りますし、攻撃のオプションも増えてやりやすくなっていきました」

大学はアメリカ留学の道を選ぶ。NBAに憧れていたし、本場を直接肌で感じたかったからだ。そして一定というか、それ以上の活躍を見せた。ネブラスカ大学では全米1位だったパデュー大学を破り、チームをレギュラーシーズン3位へと牽引する。

また、NCAA(全米大学体育協会)の3ポイントシュートコンテストで優勝、ネブラスカ州の親善大使と名誉称号のネブラスカ提督に任命されるオマケ付き。

富永啓生バスケットボール

「すごいレベルの差があって、競争も激しかったです。でも、そこでやれたことは、今の自分に必要なことだった。日本で代表になったとき、手足の長さとか身体能力の違いに慣れていた部分があったので。そういうことって重要なんですよね」

懸命にやっていけば、道はどんどん繫がる。ただ続けることが、大事なことだと思う。

6月、富永がBリーグのレバンガ北海道に移籍することが発表された。日本に帰ってきたのだ。取材時点では開幕前だったが、プレシーズンマッチが3試合行われていて、1試合目では、31得点で3ポイントシュート成功率55.6%という驚異的な数字を残した。

しかし、3戦目にケガで途中退場。詳細はわかっていないが、長期にわたるものではないようだ。万全の状態で戻ってほしいものだ。11月には、早くも2027年のワールドカップの各大陸予選が開催される。チーム、そして日本代表の未来を、彼はどう考えているのか。

富永啓生バスケットボール

「まずはチームとして、チャンピオンシップの出場を目標に、勝っていくことです。勝つことによって、個人一人一人が成長できるはずなので、そこはすごく意識してやっていきたい。Bリーグのレベルが上がれば、日本のバスケット全体のレベルアップにもなりますから。それが、もちろん日本代表にも繫がる。アジアカップでは不甲斐ない結果で終わってしまった部分があったんですけど、この先本当に負けられない試合ばかりになる。ワールドカップ出場に向けて試合が続いていくので、本当に気を引き締めていきたいです」

そして、3年後にはロサンゼルス・オリンピックが待っている。

「考えないといけないのかもしれないけど、やっぱり目の前のことが大切なんです。いろんなところに気持ちが行くと、足をすくわれる結果になる。本当に懸命にやっていくことで、道はどんどん繫がってくる。といっても、日々成長を感じられるということはもうないですし、上を見たらキリがない。だから、ただ続けることが大事なんですよね。やっぱり、何にも代えられないぐらい、バスケットが好きなんです。それが一番大事なことだと思っています」