Profile
山田真樹(やまだ・まき)/陸上
1997年、東京都生まれ。高校で陸上を始め、2017年に初出場のデフリンピックで200m金メダルを摑む。中学では卓球部で、亀澤選手が出場した2012年『世界ろう者卓球選手権大会』にボランティアとして参加していたと取材で明かした。
亀澤理穂(かめざわ・りほ)/卓球
1990年、東京都生まれ。小学生のときに兄とともに卓球を習い始める。デフリンピックには2009年の台北大会以来連続で出場し、これまでに計8個のメダルを手にしている。マイブームは、SNS用の動画編集とサウナでのリフレッシュ。

2024年7月に台湾で行われた『世界デフ陸上競技選手権大会』の様子。男子4×100mリレーでは山田選手含めた日本代表チームが世界記録を更新。山田選手は個人種目でも400mで銀メダルと日本記録樹立、200mで銅メダルを獲得した。

2024年2月の『第46回全国ろうあ者卓球選手権大会』にて。亀澤選手はシングルスで2位入賞。同年 月には、『全日本卓球選手権大会』本戦に初出場を果たしている。
デフリンピックとは?
きこえない・きこえにくい選手のための国際的な総合スポーツ競技大会で、国際ろう者スポーツ委員会主催で4年に一度開催。1924年にパリで始まり、1960年開始のパラリンピックよりもその歴史は古い。選手は補聴器等を外してきこえない状態で参加する。スタートランプや旗などを使った視覚による情報保障が特徴。
日本で初開催。二人それぞれにとってのデフリンピック。
ともに世界で活躍してきた山田真樹選手と亀澤理穂選手。終始冗談を言い合い、ツッコミを交互に繰り返す姿は“手話コント”さながら。
「笑いのツボが似ているんです。姉と弟のような感覚で、会うといつもくだらない話をしています(笑)」
と亀澤選手。二人が初めて一緒に出場したデフリンピックは、2017年のトルコ・サムスン大会。初の日本開催となる本大会は、山田選手は3回目、亀澤選手は5回目の挑戦となる。意気込みを尋ねると、亀澤選手から「金メダルしか見えていません」とまっすぐな言葉が返ってきた。
「今は、体調管理に気をつけながら技術面をブラッシュアップしているところです。デフリンピックは私の人生の財産。これがなければ卓球をここまで続けていなかったでしょうし、仲間と出会うこともなかった。生活の中で喜怒哀楽は経験できますが、スポーツでしか味わえない想いがある。それこそが人生を豊かにしてくれるんです」(亀澤選手)
山田選手は、国際大会だからこそ得られたエピソードをシェアしてくれた。
「デフリンピックが与えてくれたものの一つは広い視野。トルコ大会でウクライナの選手と仲良くなり、2022年のブラジル大会前にロシアの侵攻が始まったときは自分のことのように不安に。ウクライナチームの負担を減らそうとクラウドファンディングを行いました。無事に現地で再会できたのですが、今度は日本選手団がコロナの関係で棄権、帰国。僕はかなり落ち込み、陸上を続ける意味まで考えてしまいました。そこに、ウクライナの彼がDMをくれて。“また一緒に走ろう”と。こんなふうに海を越えて支え合う相手ができたのはデフリンピックのおかげ。東京大会は、僕にとってはライバルに恩返しをする場でもあるんです」
ホーム開催という喜びも日々感じる。
「誇らしいのはもちろん、東京都や国の厚い支援も本当にありがたい。メディアの取材も多く、注目度が上がっているようで嬉しいですね」(山田選手)
「試合を実際に目で見てもらい、感動を生で伝えられるのが楽しみ」(亀澤選手)

日本代表ユニフォーム。「デフの選手がオリンピックと同じユニフォームを着るのは初めて。感慨深いです」(山田選手)。
“目”の力でボールを追い、バトンをつなぐ。
大会は入場無料で、気軽にトップレベルの試合を見に行ける。陸上と卓球、それぞれの見どころは?
「メダル獲得や記録更新の瞬間を共有できることですね。僕も出る4×100mリレーは、昨年の『世界デフ陸上競技選手権大会』でも日本が金メダルを獲っています。今はさらに進化していて、再び世界記録更新も期待されています。僕たちは完全な無音で競技します。掛け声もないし足音も聞こえない。そこで培われたバトンパスの技術やアイコンタクト等の工夫に注目してください」(山田選手)
卓球の亀澤選手は、ボールが飛び交うスピード感を体感してほしいと話す。
「中継よりもずっと速く感じるはず。ボールを目だけで追う選手の集中力もものすごいんです。各選手のリズム感や表情など、きこえる人の試合と少し違う見方ができると思います。会場のコミュニケーションにも目を向けてみてほしい。監督に手話通訳士がつくこともあり、タイムの数分間でどう情報伝達がされるかを見るのも面白いかもしれません」

開閉会式が行われる東京体育館にて。

亀澤選手の指先にはジェルネイル。「ろう者対応のサロンに行くのですが、施術中につい手話で喋って手を動かしてしまい、注意されます(笑)」。
大会を楽しんでもらうことが、共生社会につながる。
デフスポーツの観戦に特別な準備は何もいらない。東京大会を機に開発された、手話をベースにした“目でみる”応援「サインエール」など、応援方法はどんどん豊かになり、思い思いのかたちで楽しめる。
「応援グッズを作るのも観戦の醍醐味ですよね。選手としても、客席に名前入りのタオルやうちわを見かけたら嬉しいです」
と亀澤選手。実は、きこえる一番小さな音が55dBという参加資格のほかは選手の聴力はまちまち。聴覚障がいのそうした実情を広く伝えることも二人の目標だ。
「聴力の程度や環境によって、筆談や読話で意思疎通する人もいる。ろう者のアイデンティティは非常に多様。だからこそ、手話に限らず柔軟なやり取りが生まれる世の中にしたい」(山田選手)

「かわいい」の日本手話。
亀澤選手は今後の社会に期待することとして、より確かな情報保障を挙げる。
「非常時の電車内で、音声ではなく画像で案内が出るツールがあるといい。障がいのない人の役にも立つと思います。たとえば、下を向いてスマホで音楽を聴いている人には、バイブの通知のほうが届きやすいですよね」(亀澤選手)
きこえない人にやさしい社会は、きこえる人にもやさしいものとなるはずだ。
Information
東京2025デフリンピック
2025年11月15日(土)~26日(水)。70~80の国と地域からデフアスリートが集い、複数会場で21の 競技を戦う。卓球は東京体育館にて18日(火)~21日(金)・23日(日)~24日(月)、陸上競技は 駒沢オリンピック公園にて17日(月)~25日(火)に開催。入場無料で事前申し込みは不要。
問い合わせ先/東京都スポーツ推進本部 https://www.tokyoforward2025.metro.tokyo.lg.jp/