一目惚れから始まった“クラシックサーブ”道。
あ、映画『ドライブ・マイ・カー』で見たクルマ! と思った読者はご名答。これは“クラシック900”と呼ばれる北欧のシティボーイカー。主人公の愛車は赤い900ターボだったが、渋谷の古着屋〈ブラケット〉の店主、飯田康貴さんは、中堅グレードで低圧ターボを搭載した900Sを初めての相棒に選んだ。
「最初は、レンジローバーにしようと思っていたんですよ。でも、“いや、待てよ。そもそも自分は王道すぎる王道をかつて好きだったことはあるか?”と自問するようになって(笑)。そんなある時、常連のお客さんとクルマの話をしていたら、“だったら、サーブの900シリーズにすればいいんじゃない?”と勧められたんです。サーブ? クラシック900? 恥ずかしい話、どちらも知らなくて。すぐにネットで調べてみたところ、古すぎず、新しすぎず、絶妙なところを攻めたグッドデザインに一目惚れしちゃった。街中でも見掛けないし、誰も見向きもしない古着に自分にしかわからぬ良さを見出した時に似た高揚を感じました。これはすぐにでも欲しいと思うも、意外と玉数が少ないことを知り……。海外で古着を捜索する心意気で、暇ができるとオンライン検索してましたね(笑)」
その甲斐あって、山口県の中古車店で発見。飛行機で現地に赴き、初めて実物とご対面。予想どおり、美しくもトラッドな姿に改めて心を撃ち抜かれ、即決することになった。
「見てのとおり、スポーティなルックスですが、後部座席をフラットに倒すと、大人が寝そべられるくらい荷室が広い。大量の古着も難なく載せられるなぁって。抑えつけられないほどの物欲に、もっともらしい言い訳を付けただけですが(笑)」
ただ、ある意味勢い任せだったことも否めない。足を踏み入れたのは、右も左もわからぬ旧車の世界。故障は日常茶飯事なことを忘れていた。
「誰か頼れる指南役を見つけるべきだと思い立ち、いろいろ調べた結果、サーブ専門の修理工場〈A2 FACTORY〉さんに通うようになったんです。今日も水漏れの経過を診てもらうために立ち寄った感じ。工場長の天川恭男さんは、不具合をすぐに判断&対処してくれるだけじゃなくて、900Sのことを一から教えてくれるのもすごく楽しくて」
胸のときめきから始まった“クラシック900”道は、〈A2ファクトリー〉という師を見つけ、奥へ奥へと細き道を歩み出したばかり。ここで得た知識が血肉となり、ちょっとの故障ならば、自分で対処できる旧車マニアになる日もそう遠くない。
SAAB 900S
- 全長4,635×全幅1,710×全高1,435mm
- エンジン=2,290cc、直列4気筒DOHC16バルブ
- 乗車定員=5名
Owner
飯田康貴(〈BRACKETS〉オーナー)
1985年、新潟県生まれ。中目黒の古着店〈ジャンティーク〉で古着のいろはを学び、2016年に渋谷にてヨーロッパ古着店〈BRACKETS〉をオープン。

Information
〈 A2 FACTORY 〉
サーブ900のハンドルを握る者ならば、一度や二度は門を叩く名店。修理やメンテナンスの相談はもちろん、数台ばかり車両販売も行うので、クラシックサーブ(赤の900ターボもストック)の購入を考えている人は、ホームページを覗いてみては?
住所:川崎市高津区坂戸3-16-23|地図
HP:www.a2factory.co.jp/
営:10時〜19時30分(土曜日:10時〜18時30分)
休:日曜日