父、そして兄から乗り継ぐ一家伝統の一台《フォルクスワーゲン ザ・ビートル》|クルマと好日

アウトドアフィールドに、あるいはちょっとした小旅行に。クルマがあれば、お気に入りのギアを積んで、思い立った時にどこへでも出かけられる。こだわりの愛車を所有する人たちに、クルマのある暮らしを見せてもらいました。

撮影/濱田 晋 文/豊田耕志

初出『Tarzan』No.857・2023年5月25日発売

若きトラックメーカーにとって、 ザ・ビートルは小さなスタジオ。

夜9時。首都高9号深川線。若きビートメーカーの高橋元くんは、出来上がったばかりのトラックの最終チェックをするために「辰巳第一PA」に、愛車のフォルクスワーゲンのザ・ビートルを滑り込ませる。

クルマ好きの社交場として知られるこのパーキングエリアは、元くんにとって自宅と所属するヒップホップグループ〈interplay〉が住む千葉との中間地点。制作したトラックを仲間の元へ届ける途中で、不備はないかをザ・ビートル内でチェックするのが習慣となっている。

「どんな音楽も車内で聴かれる確率が高いので、僕たちが制作した音楽がクルマの中でどんなふうに聴こえるのかをチェックすることはとても大切なことだと思っていまして。とくにこのザ・ビートルはサウンドチェックするのに優秀な機能が満載。オーディオのサウンドモードを選べるようになっていて、例えば、“ミュージックスタジオ”を選択すると、わりとタイトめな音響でトラックを聴けたり。“ミュージックシアター”というモードを選ぶと、低音がより鮮明に聴こえるようになったり。サブウーファーも搭載されていたりと、見た目に似合わず、サウンドチェックがしやすいところが気に入っていますね」

ビートメーカーらしいマニアックなことを話してくれたが、ただオーディオの質が高いからという理由だけで、ザ・ビートルを自らの愛車に決めたワケではないらしい。

「実はもともと父の愛車で。その後は兄が乗り継いで、最終的に僕がハンドルを握らせてもらえるようになった高橋家伝統の一台なんです。“意外と走りがいいよ”と父は言っていましたが、まさにその通りで。何もいじってない状態なのに、とにかく走りがスピーディ! スポーツモードと呼ばれるギアを下げた状態で走ってくれるモードはとくに加速が素晴らしくて、毎回設定し直してアクセルを踏むようにしています。千葉へ向かって空いている夜中の首都高を流すのは、とにかく気持ちがいいんですよね」

そう言って、赤い愛車のアクセルを千葉方面へ吹かす。古き良き初代のフォルムやアイデンティティをモダンに再解釈したザ・ビートルは、ある意味、元くんの作る音楽と似ている。

90年代ヒップホップをベースにしながらも、今の時代にフィットしたシティ感を取り入れるという意味で。まさに乗るべくして乗ることになった運命的な一台なのだ。

VOLKSWAGEN THE BEETLE

初代タイプ1から数えて3代目。2011年〜20年までに販売された“ビートル”一家の最終形態だ。中古市場では、約40万円から入手可能。

左にエンジン回転計、中央には速度計。そして、右には燃料計が配置されたメーターパネル。2011年に発表されたモデルらしからぬレトロなデザインが、ザ・ビートルのアイデンティティ。

こちらは元くんの仕事道具の一部。中央に置かれたシルバーの機材は、ローランド社のコンパクトサンプラー《SP-404 SX》。ビートライブ時に欠かせない名機である。

インパネやドアの内側までレッドで統一されたモダンな車内。サウンドチェックの他、ラッパーとしてリリックを書くこともあるそうだ。

  • 全長4,270×全幅1,815×全高1,495mm
  • エンジン=1,200cc、直列4気筒SOHC8バルブICターボ
  • 燃費=17.6km/ℓ(JC08モード)
Owner

高橋元(ビートメイカー)
1998年、東京都生まれ。大学時代の仲間とヒップホップグループ〈interplay〉を結成。

Loading...