80年代日本の若者たちの欠かせぬ相棒《ホンダ CIVIC SHUTTLE》|クルマと好日

アウトドアフィールドに、あるいはちょっとした小旅行に。クルマがあれば、お気に入りのギアを積んで、思い立った時にどこへでも出かけられる。こだわりの愛車を所有する人たちに、クルマのある暮らしを見せてもらいました。

撮影/伊達直人 文/豊田耕志

初出『Tarzan』No.828・2022年2月24日発売

80年代の若者文化にリスペクトを込めて、 シティボーイは、シビックのハンドルを握る。

夕日を浴びて、ノスタルジーたっぷりに走るホンダのシビック。80年代日本の若者たちにとって何よりも欠かせぬ相棒として愛された歴史があるが、この古き良き一台のハンドルを握るのもまた20代のシティボーイ。広告代理店でバリバリ働く伊東時生さんである。

「社会人になって真っ先に手に入れたのが、80年代のワンダーシビック。昭和60年代に大阪で悪名を轟かせた走り屋集団〈大阪環状族〉が愛してやまなかったモデルなんですが、僕にとっても思い入れの強い一台で」

実は伊東さんは、環状族の青春を描いた漫画『ナニワトモアレ』の大ファン。一部と二部合わせて全59巻!もある大長編は、学生時代からのバイブル的存在だった。

「みんなで好きな車に乗って、いつもの場所に集まって、走りに出掛ける。そういうクルマカルチャーへの憧れが大きくて。“シビック”はそのカーライフを象徴するクルマだったんですよ」

1台目は87年式のセダン。結婚を機に、荷物を積めて妻も運転できるオートマの初代《シャトル》にした。ショートワゴンの先駆けともいわれるだけに、やんちゃなそぶりはほとんど見られず、むしろ彼の人柄と同じく爽やかだ。

「昭和のやんちゃなクルマ文化はリスペクトしつつ、テールランプやウィンカーポジションランプなどの細かいパーツは北米仕様にカスタム。それと映画『私をスキーに連れてって』も大好物なので、80年代トレンディなムードも漂わせるべく、ホイールは映画にも登場していた〈OZ Racing〉のラリータイプに替えて。そのシンボル〈OLIN〉のスキー板を積めるように、キャリアを付けてゲレンデ仕様にアップデートしようとも考えていますね。一つに絞らず、いろんなテイストのものをミックスするのが面白いし、僕なりのシビック道かなと」

一にクルマ。二にクルマ。三、四がなくて、五にクルマの伊東さん。

「週末に同じ志を持った仲間とミーティングしたり、新しいパーツを手に入れたら、大崎のカスタムショップに立ち寄ったり、とにかくシビック漬けの毎日。そうそう、この辺は昭和っぽい風情を残した工場が立ち並んでいて、タイムスリップしたような気分に浸れるのもまたいいんです。それこそ『ナニワトモアレ』を思い出したりして。首都高に繰り出して爆走したい気分に駆られますが、いつの日も安全運転第一。合言葉は、“まったり走ろう”ですね」

 

HONDA CIVIC SHUTTLE

当時の車両価格は146万円。最近は若者たちの旧車人気も相まって、中古車価格は当時とさほど変わらないとか。ちょっとやんちゃなカスタム済みのものも多いので、ノーマル車を見つけるのは、意外と至難の業。

大きなガラスキャビンがシンボル。先鋭的なデザインで、当時の若者はみなこの後ろ姿に憧れた。

リアサイドのガラスも、ダッシュボードの吹き出し口も伊東さんのお気に入りのポイント。「今のクルマにはまず見られないユニークなフォルムが最高ですよね」。

ステアリングは、90年代に作られた〈momo〉の《ヴェローチェ》。「80年代〜90年代頃は、三菱のデリカやトヨタのランドクルーザー乗りが頻繁に愛用していたモデルですね。なぜシビックに?とクルマ好きには聞かれますが、単純にウッドの手触りと品の良いデザインが好きなんですよ」。

  • 全長3,990×全幅1,645×全高1,480mm
  • エンジン=1,488cc、直列4気筒
  • 乗車定員=5名。
Owner

伊東時生(広告代理店勤務)
1994年、東京都生まれ。高校を卒業後、〈ナイキ 原宿〉にて勤務。その後テレビマンを経て広告の世界へ。〈ナイキ〉を中心にさまざまなクリエイティブを手がける。