まるで小さな動くアトリエ《ランドローバー RANGE ROVER VOGUE》|クルマと好日

アウトドアフィールドに、あるいはちょっとした小旅行に。クルマがあれば、お気に入りのギアを積んで、思い立った時にどこへでも出かけられる。こだわりの愛車を所有する人たちに、クルマのある暮らしを見せてもらいました。

撮影/伊達直人 文/豊田耕志

初出『Tarzan』No.829・2022年3月10日発売

若きペインターにとってのクルマは、 作業場であり、創作の友であり。

世田谷区・三宿のアートギャラリー〈INHERIT GALLERY〉脇に、愛車のレンジローバーをベタ付けして搬出作業を行おうとしているのは、画家の渡邉太地さんだ。

「ここで1月22日から個展をやらせてもらっていまして、昨日が最終日。今日は、絵画を搬出しようとマイカーで来たところでした」

横長のギャラリーを覆い尽くすほどにトゥービッグな愛車は、2001年式のレンジローバー ヴォーグ。1年前に購入した、ピカピカのニューヴィークルだ。

「コロナ禍に入ってすぐの頃。急にクルマが欲しいなぁと思い立ち、中古車屋のオンラインで見つけたのが、今乗っている一台なんです。なんでレンジなの?と友人や知り合いによく訊かれるんですが……、子供のときに自分の親父が乗っていたクルマがまさに同じ年式のヴォーグで。いろんな場所に連れていってもらった思い出深い一台を、今度は僕が運転してみたいという気持ちが込み上げてきちゃって(笑)」

ボディカラーは、珍しいシルバー。それにワンオーナーで、走行距離は約3.3万km。内装もバッチリな状態だったこともあり、即決だった。だけど、純粋なる疑問。画家にとってクルマとは一体どんな存在なんだろうか?

「僕にとっては絵を描くうえで欠かせないツールだと思っています。今回、展覧会で飾らせてもらった風景画も、実はこのヴォーグと一緒に行ったいろんな場所でして。銚子の屏風ヶ浦とか、木更津の海岸エリアとか。ラゲッジルームの扉を下に倒すと、ちょうどデスク代わりにもなるので、大きなキャンバスを置いて描くのにちょうどいいんです」

愛車のアクセルを踏んで、気の向くままに日本各地を訪れては、気に入ったランドスケープを見つけて停車。貪るように絵を描いた結果が、この個展に繫がるというわけだ。

「小さい頃は、海に行くと親父にちょこんと座らされたテールゲートが、今や自分の創作活動に欠かせない立派なツールになるとは(笑)。人生ってわからないものですね」

LAND ROVER RANGE ROVER VOGUE

イギリスの高級オフロード車だけに、凜々しい表情のヴォーグ。当時の新車価格は、約985万円。中古車価格では200万円程度。イギリスでは、このシルバーカラーが人気。ロンドンのとある高級住宅地には、ずらりと並んでいるらしい。

バックミラーには、スケートボードブランド〈ANTI HERO〉のエアフレッシュナーをぶら下げる。コンソール部分にいろんなボタンがずらりと並ぶ、メカっぽいレイアウトもクールだ。

太地さんが一番のお気に入りだと言う荷室。気に入った風景と出合ったら、いつでも描けるように、上段にはA1サイズの画板を置く。

  • 全長4,715×全幅1,890×全高1,810mm
  • エンジン=4,552cc、V型8気筒OHV
  • 乗車定員=5名
Owner

渡邉太地(画家)
1997年、東京都生まれ。仲間とシルクスクリーンプリントスタジオ〈PAJA STUDIO〉を営む一方で、抽象的なドローイング作品を数多く手がける。

Information

INHERIT GALLERY
もともと八百屋だった面構えを継承し、オーナーの藤本薫さんが約3年前にオープンしたアートギャラリー。趣味のスケートやサーフィンで繫がった、ペインターの小川洋平さんやDISKAHさんなどの展示を行う。アートに飢えた世田谷ローカルのスケーターたちがちょこちょこ集う憩いの場である。
住所:東京都世田谷区下馬1-48-3|地図