酸いも甘いも知った大人のためのホットロッド《フォード モデルA》|クルマと好日

アウトドアフィールドに、あるいはちょっとした小旅行に。クルマがあれば、お気に入りのギアを積んで、思い立った時にどこへでも出かけられる。こだわりの愛車を所有する人たちに、クルマのある暮らしを見せてもらいました。

撮影/濱田 晋 文/豊田耕志

初出『Tarzan』No.859・2023年6月22日発売

旧車のプロが辿り着いた、 ストリートロッドと呼ばれる 極上カスタムのフォード。

埼玉県東松山市には、旧車好きのパラダイスがある。広々とした〈オールドカーズマーケット〉の店舗兼倉庫には、フォルクスワーゲンのビートルやシトロエンのHY、ダットサンの240Z、ポルシェの917のレプリカなど、超希少な旧車がギチギチに並ぶ。

なかでも、ひときわ輝いて見えるのが、こちらのフォードのモデルA。1928年〜31年の間に米国で大ヒットを記録したフォードの大衆車なのだが、こんな一台も揃えるとは、まさにオールドカーズマーケット! なんて感動を覚えるも、実はこれ、オーナーの関根一生さんのマイカー。米も欧も問わず、何百台と乗り継いできた氏が最終的に辿り着いた一台なのである。

「これは昔、ウチでたくさん扱ってきたストリートロッド。ラットロッド、スラムド、トラディショナルホットロッドなどさまざまな呼び方があるホットロッドの一つのスタイルなんです。それぞれを好む年齢も文化も時代背景も違いますが、私は年を重ねた人向けのストリートロッドのハンドルを握りたいと思い、このモデルを選びました。でも、タイプは違えど、すべてのホットロッドがカッコいいですよね」

剝き出しのエンジンは、ホットロッドの醍醐味。93年前の車両に、6,900ccの大排気量のモパーエンジンを積んだモンスターカーだ。

いわば、酸いも甘いも知った大人のためのホットロッド。しかも、関根さんがアメリカで発見したというこの一台は、凝り性だった前オーナーが、フレームとボディ以外をフルカスタムした超A級品なのだ!

「ここまでの個体は出てきませんね。とはいえ、直管マフラーだから日本では近所迷惑。消音器を付けなきゃといじり始めたら止まらなくなって。グリルは映画『アメリカン・グラフィティ』に登場するフォード モデルBと同型に換えたり、雨でも走れるようにエンジンカバーの装着を考えたり。来年の『ムーンアイズ』のイベントに向け、あれこれカスタムしている最中ですね」

たとえ完全無欠のカスタムだろうと、さらに手を加える関根さんの姿を目の当たりにすると、こんなふうにクルマと付き合いたいと憧れが芽生える。クラシックカーってかっこいい。いつかは、ね。

FORD MODEL A

そもそも見つけること自体が困難な希少車だから、車両価格はいわゆるASK。それ以上に珍しいのが、モデルAの後継車で1932年発売のモデルB Deuce。映画『アメリカン・グラフィティ』の、あの黄色いクルマだ。

スタイルの派手さの他に、公道レースでスピードも競ったホットロッドシーンにおいて、空気抵抗を減らす目的のチョップドトップ(ルーフの高さを低くしたカスタム)は王道のカスタム。しかも、こちらは珍しい5ウィンドウ。

抜かりなくインダストリアルな雰囲気に仕上げた車内。後部座席の一部には、クロコ革をあしらった贅沢すぎるインテリア。トランスミッションは、まさかのオートマだ。

ティアドロップ形テールランプに剝き出しのファットなタイヤ。後ろからの景観もこんなにもハードボイルド。

  • 全長3,240×全幅1,750×全高1,430mm
  • エンジン=426cui HEMI(6,900cc)HOLLY デュアルキャブ
  • 定員=2名
Owner

関根一生(〈Old Car’s Market〉オーナー)
1955年、埼玉県生まれ。小学生の頃からアメ車好きで、東京の旧車屋で修業を積んだ後、38歳のときに〈オールドカーズマーケット〉をオープン。