Q&Aで紐解く、更年期世代と“性”の悩み。

性欲の変化、勃起力の低下、パートナーとの温度差……。更年期世代なら誰にでも起こり得る“性”の悩みを、科学と実践でやさしくひもとく。まずは素朴な疑問Q&Aから!

取材・文/石井 良 イラストレーション/三上数馬 取材協力/辻村晃(順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授、生殖医学会専門医)、宋美玄(産婦人科医、医学博士) 写真/Everett Collection/アフロ

初出『Tarzan』No.907・2025年7月17日発売

更年期と性学
教えてくれた人

宋美玄(そんみひょん)/医学博士。丸の内の森レディースクリニック院長。妊娠出産問題、女性の性について女性の立場から積極的に啓蒙する第一人者。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)、『大人のセックス』(講談社)など。

Q.テストステロン、エストロゲンは性とどう関係している?

A.性欲や性機能を支える重要な物質です。

「どちらのホルモンも、性欲を高めるのはもちろん、男性は勃起、女性は膣の潤滑成分の分泌を促すなど、性機能において重要な役割を担っています」と教えてくれたのは、順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授の辻村晃先生。性行為の快適さやパフォーマンスを左右する重要な性ホルモンなのだ。

性の役割

●テストステロン

男性の性欲、性衝動を高める。陰茎海綿体に直接働き掛けることで血流を高め、勃起力を上昇させる。女性の性欲や筋肉の維持にも関わる。

●エストロゲン

外陰部・膣壁への血流を促し、潤滑成分を生成。月経周期と連動して性欲の波を作る。一酸化窒素の産生を助け、クリトリスの充血を維持。

Q.更年期が性に与える影響は?

A.性ホルモンが減少し、性の悩みが増えます。

テストステロン、エストロゲンが減少するということは、当然その役割も弱まるということ。「男性は勃起がしにくくなり、女性は濡れにくくなるなど、さまざまな性の悩みが出てきます」と産婦人科医・医学博士の宋美玄先生。カラダも心も変化する更年期、性にまつわる悩みは、誰もが抱える問題だ。

【男】
性への関心が湧かなくなる、勃起障害(ED)、射精感が減弱、飛距離が落ちる、不妊リスク。

【女】
性欲の低下、濡れにくくなる、性交痛、クリトリス・膣壁の充血が弱まることによる快感の減弱。

Q.更年期女性の性の悩みは?

A.性欲の低下が著しく、性交痛も。

「男性側は性欲が残っていることが多いのに対し、女性は性欲が低下するため、男女間でギャップが生じます。そこへカラダの変化が重なるため、心とカラダ両面で悩みが出てきます」(宋先生)

更年期、特に女性はGSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)により性生活への影響が大きくなる。性欲の低下や性交痛など、その悩みは切実だ。

あなたはGSMが性生活にどのような影響を与えていると思いますか?

GSMが性生活に影響

出典/(有)アジュマ「GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)に関するアンケート」より

Q.更年期、男性の性の悩みは?

A.50代では3.6人に1人がED(勃起不全)に悩んでいます。

テストステロンの減少が引き起こす一番大きな性の悩み、それはED。

「年齢が上がるにつれ、その割合はどんどん増えていく。男性の場合、年を重ねても性欲が衰えない人は多いですが、EDによってしたくてもできないことは、自信の喪失にもつながります」(辻村先生)

さらに、生活習慣病や仕事のストレスによってもEDは引き起こされるため、生活を根本から見直さなければ、EDを解消するのはなかなか難しいという。

「EDの有病者数は50代前半で3.6人に1人の割合ですので、決して恥ずかしく思う必要はありませんが、動脈硬化の初期症状でもありますから、カラダのサインと受け止め、しっかりと向き合うことが大切です」

 男性ホルモンの低下。

テストステロンの95%は精巣で作られるが、脳から精巣に働き掛ける命令が乏しくなることで、産生量が減るケースが多い。加齢によるものなので、残念ながら個人の努力で止めるのは難しい。

精神的ストレス。

鬱などのメンタル不調、仕事、生活などの心配事があると、性的なことへの興味が薄れ、EDにつながる。心因性EDは全体の2割ほどで、8割は器質性EDおよびED(器質性+心因性)。

身体的要因。

高血圧や糖尿病などの生活習慣病は動脈硬化を引き起こし、血流の悪化を招くことでEDの原因となる。特に糖尿病は神経にもダメージを与えるため、EDのリスクがグッと高まる。

勃起硬度スコア(EHS)での有病率(n=6,228人)

勃起硬度スコア(EHS)での有病率

一般社団法人日本性機能学会「性機能障害の全国実態調査」より編集部作成

EDが動脈効果のサインにも。

EDは動脈硬化が生じた際の最初のサインだと考えられている。海外のデータでは、勃起力が衰えて3年半経つと心筋梗塞が起きやすくなるという報告も。陰茎に流れる動脈が心臓の血管よりも細いため、先にEDとして症状が表れるのだ。以下に示す病気のリスクを高めるので受診を推奨する。

動脈硬化による病気リスク。
  • 脳梗塞:脳の血管が詰まり、脳細胞が壊死する病気
  • 脳出血・くも膜下出血:脳内の血管の破裂や、脳表面の血管のコブ破裂による出血
  • 心筋梗塞:心臓の血管の完全閉塞による心筋の壊死
  • 狭心症:心臓の血管が狭まり、血流が不足することで生じる胸の痛み
  • 末梢動脈疾患:主に足の血管の狭窄や閉塞による、足の痛みやしびれ
  • 腎不全:腎機能の低下による老廃物排泄の困難な状態
  • 虚血性視神経症:視神経への血流不足による、視力や視野への影響

Q.更年期の性欲、男女でどんな差が?

A.男性はあまり下がらない一方、女性は目に見えて下がります。

「全年代において男性の方が性欲が高い傾向にありますが、年齢を重ねることにより、その差はどんどん開いていく。女性は更年期がきっかけで性交痛や膣の萎縮が生じるため、性行為へのモチベーションが湧かなくなることが多いです」(宋先生)

この男女間の性欲の差がセックスレスの大きな原因であり、更年期の性の難しいところ。決して自分勝手にならず、パートナーに寄り添う気持ちが大切だ。

セックスをしたいと思いますか? (n=5,029人)

セックスをしたいと思いますか?

Q.セックスへの考え方は変えるべき?

A.相手の状況に合わせた楽しみ方を模索しよう。

EDや性欲の減衰からセックスの頻度が減るため、若い頃のように短期間に何度もできなくなってくる。しかし、「そこに劣等感や罪悪感を持つのではなく、会話や前戯を含むゆったりとしたセックスにシフトすることがおすすめです」と辻村先生。

必ずしも挿入は必要なく、お互いのオーガズムを手や口でサポートするなど、スキンシップだけで満足できるケースも少なくない。無理にセックスを完遂しようとすることもプレッシャーになるので、更年期による性への影響を正しく理解していくことが大切だ。